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株式会社MM総研 代表取締役所長 関口 和一氏 / 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋 俊英
戦後、日本はアメリカのビジネスモデルを手本にして発展してきた。しかし、米中対立が深刻化している今、双方とどうつきあうのか、難しい選択を迫られている。それは、アジア諸国においても同様だろう。関口氏は、バイデン新政権の動きを睨みつつ、生活防衛・安全保障の観点から、バランスを取ったグローバル戦略が必要だと指摘する。

「第1回:コロナ禍を契機に変わる日本社会」はこちら>

アメリカのIT産業は民主党政権下で成長

八尋
先のアメリカ大統領選挙では、社会の「分断」に関心が集まりましたが、選挙の戦い方からして、従来のように対面で大集会を開くトランプ陣営と、リモートを活用して選挙活動を行うバイデン陣営と、新旧対立とも言える戦いが見られました。今後、日本はどの程度アメリカをベンチマークにすればいいとお考えですか?

関口
二大政党制のアメリカでは、その政策も政党によって振り子のように揺れ動いてきた歴史があります。ご承知の通り、共和党は市場を重視して、政府の介入を最小限にとどめた政治をめざしてきたのに対し、民主党はいわゆる「大きな政府」によって、政府主導で社会保障や産業育成などに注力してきました。

ことIT関連で言えば、民主党政権下で成長してきた歴史があります。象徴的なのは、1993年に始まったクリントン=ゴア政権の「情報スーパーハイウェイ構想」です。当初は大学や研究所、公共施設などを政府が光ファイバー網で広範に結ぶ構想でしたが、膨大な予算を要することからなかなか進まず、その後、民間によるインターネット網の普及により体現されました。

こうしてクリントン政権下では、インターネットを活用したビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR=業務改革)が進みました。これにより、シティバンクの復活に代表されるように、低迷していたアメリカ経済は息を吹き返すことになったのです。

バイデン政権におけるIT戦略に注視せよ

関口
一方、次のブッシュ(共和党)政権下では、9.11の影響もあり、セキュリティ対策が優先されたことから、政府のIT政策は影を潜めます。一方、民間では、Googleの上場(2004年)、Facebookの創業(2004年)、YouTubeのサービス開始(2005年)など、Web2.0ブームが起きました。

そして迎えたオバマ(民主党)政権では、再び通信インフラ網を強化しようと、周波数オークションなどのIT政策に取り組みました。これは、放送局から周波数帯域を返上してもらい、周波数の利用権を競争入札(オークション)によって通信事業者に分配するという画期的な施策です。これによりモバイル・ブロードバンド網が一気に普及しました。

また、ちょうどオバマ政権発足の直前に起きたリーマンショック(2008年)が契機となり、技術革新も進みました。Teslaの電気自動車「ロードスター」の発売、Googleの自動運転プロジェクトの開始、Netflixのストリーミング配信の開始、民泊サービスのAirBnB(エア・ビー・アンド・ビー)のサービス開始と、さまざまな新技術や新サービスが立ち上がりました。

次の共和党のトランプ政権下では、むしろ「TikTok」を運営するByteDance(バイトダンス)など中国系のベンチャー企業の動きが目立ったわけですが、今回、民主党のバイデン政権が誕生したことで、私は再びITの技術や産業が進展すると見ています。この動きを日本も十分に注視すべきでしょう。

画像: バイデン政権におけるIT戦略に注視せよ

グローバル戦略ではバランスを重視すべし

八尋
コロナ禍でグローバル化に陰りが見える中、中国の存在感が大きくなっています。米中の状況をにらみつつ、日本企業は今後の経営において、グローバル戦略をどう立て直すべきでしょうか。日本は日本、海外は海外といった形での分散経営も必要になりそうですが……。

関口
私は、コロナ禍の収束が見えたら、もう一度グローバル化へ向かうと見ています。やはり、交易によって市場全体の価値を高めていくのが経済の基本であって、その流れはまた戻ってくるでしょう。ただし、バランスに気を配る必要があります。

日本の場合、生産拠点を移す際に安い労働力を求めて中国に依存しすぎたがゆえに、コロナ禍ではマスクなどが足りなくなったわけですよね。価格や効率一辺倒でやってきたしっぺ返しを食らったわけです。この失敗から学び、今後は、食糧の自給率向上に始まり、さまざまな分野でバランスを見ながら海外戦略を考えていくことが経営者の重要なミッションになると思います。

八尋
ワクチンや薬、食糧、エネルギーなどを中心に、生活防衛や社会の安全保障の観点からグローバル化のあり方を見直して行く必要があるということですね。

アジアへのパワーシフトにおいてどう振る舞うか

八尋
より大きな文脈で考えると、アジアへのパワーシフトが起こりつつある中、中国はもとより、タイの華僑財閥や、インドとの関係強化を図るオーストラリアの動きにも注目しなければなりません。ミャンマーでのクーデターもありましたが、思わぬことが契機になってゲームチェンジが起こり、ビジネス環境が一変してしまう怖さもあります。すでに資本の再編が始まっていると見ています。

関口
そうした中で、日本はどうするかを考えていかなければなりません。強烈な軍事力と経済力を身につけた中国ともう一方の大国アメリカとの間でどう動くのか、そこが大きく問われるところです。

戦後の歴史の中では、アメリカを向いていれば日本は安泰でしたが、今後はそう簡単にはいきません。日本は漢字に代表されるように、古来、文化的には中国の影響をかなり受けていますし、けっして無視できる存在ではないでしょう。5Gでは中国のファーウェイが先行しており、アメリカと一緒になってファーウェイの追い出しにかかるのは必ずしも得策ではないかもしれません。ASEAN諸国やアフリカなどは、ファーウェイの受け入れには柔軟です。

八尋
日本は5Gに乗り遅れると、今まさに花開こうとしているアプリケーションレイヤーでのサービス開始に遅れが生じるため、悩ましいですね。アメリカにしろ中国にしろ、政権の動き次第で市場が大きな影響を受けるため、動向を見ながら、リスクに備えておく必要があると思います。

関口
アジア諸国も、中国と日本のどちらを向くのか、難しい局面にあります。日本はバブル期にはアジアに対し覇権国家のように振る舞ってきたところがありますが、あくまでも経済合理性を追求した結果であって、アジア諸国における影響力はさほど大きいとは言えません。

いずれにせよ、日本企業は世界のトレンドを見極めながら、どう手を打っていくのか、きわめて難しい選択を迫られていることは間違いありません。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像1: ポストコロナのビジネス
【第2回】米中対立における日本の立ち位置

関口和一

株式会社MM総研 代表取締役所長/元日本経済新聞社論説委員。1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。88年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。89年英文日経キャップ。90~94年ワシントン特派員。産業部電機担当キャップを経て、96年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間は論説委員として主に情報通信分野の社説を執筆。2019年に株式会社MM総研代表取締役所長に就任。法政大学大学院客員教授、国際大学グローコム客員教授を兼務。NHK国際放送コメンテーター、東京大学大学院客員教授なども務めた。

画像2: ポストコロナのビジネス
【第2回】米中対立における日本の立ち位置

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

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