株式会社MM総研 代表取締役所長 関口 和一氏 / 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋 俊英
今、コロナ禍をきっかけに、ビジネスや社会の形が大きく変わろうとしている。テレワークへの移行など、働き方の変化のみならず、社会の分断やアメリカのバイデン政権誕生、米中対立など、世界の在りようが激変する局面にあって、日本企業はどう振る舞うべきなのか――。
グローバル経済や情報技術の動向に詳しいMM総研代表取締役所長の関口和一氏に、八尋俊英がポストコロナの日本社会と企業の今後について伺った。

東京一極集中から分散へ

八尋
コロナ禍における日本を取り巻く状況を、関口さんはどうご覧になっていますか?

関口
私は日本が変わるチャンスと捉えています。オイルショックや不動産バブルの崩壊、ITバブルの崩壊、リーマンショックと、これまで日本は幾度もショックに見舞われましたが、その度に復活してきました。ただ今回のショックで一つ違うことは、東京一極集中の構図が崩れたことです。日本はこれまで東京に資源を集約させることで競争力を高めてきました。東京一極集中が崩れたことで、今後は、より広範に日本全体で国力を高めていく方法を考えていかなければならないと思います。

その一つの手段がテレワークです。日本は国土が狭く、終身雇用制度の影響もあって、同じカルチャーを共有する者同士が顔を突き合わせてビジネスを展開するのが当然だと考えられてきました。ところが、コロナ禍でテレワークを導入してみたら、少なくとも現場レベルではオンラインでもうまく回ることがわかりました。その良さを認識した以上、テレワークを定着させつつ、次のビジネスにつなげていくべきでしょう。

そもそも、国土の広い国や寒冷な気候の国、例えばカナダや北欧などでは昔からテレカン(テレカンファレンス)が活用されていました。そして、こうした国々はIT競争力も高い。日本もこれに倣い、テレワークを定着させる中で、新しいビジネスモデルを模索すべきだと思います。

画像: 東京一極集中から分散へ

必要なのはテレワークのための環境づくり

八尋
現在、日立コンサルティングは、京都大学の広井良典教授とともに、AIを活用した政策提言のプロジェクトに取り組んでいます。今、我々は資本主義の曲がり角にきている、という共通認識のもとに、2020年代半ばには、日本は地方分散か一極集中か、どちらかを選択する場面に直面すると考えてきました。その分岐点がコロナ禍で早まったと言っていいでしょう。テレワークを始めとする新しい働き方に賛同する人が増えている一方で、働き方を変えたくない旧世代も多い中、何をドライビングフォースにしていけばよいでしょうか?

関口
元に戻さないためには、新しい仕組みをつくって、半強制的に変えていくしかありません。例えば、クラウドを活用してペーパーレス化を進めれば、紙の受け渡しをしなくて済むし、押印の必要もなくなります。

しかし、テレワークのための環境が貧弱だと、結局、多くの人は会社に来ざるを得ません。すると、会社に来ている人たちの間だけで情報交換が進んでしまい、リモートで働く人たちとの間に情報の非対称性が生じてしまいます。この状況では、いくらテレワークを導入してもうまくいかないでしょう。こうした問題を解消するためには、サイバー空間上にデジタル・ワークスペース(または、デジタル・ワークプレース)を構築する必要があると思っています(図)。

画像: 必要なのはテレワークのための環境づくり

図にありますように、これまでの働き方は、時間にも場所にも縛られるオフィスワーク(左下)か、時間の制約は低いけれど場所には縛られるフレックスタイム(右下)か、場所には縛られないけれど、時間的な制約を受けるコワーキングスペース/リモートワーク(左上)のいずれかに限られてきました。これからは、時間にも場所にも縛られることのないデジタル・ワークスペース(右上)の構築をめざしていくべきではないでしょうか。

「デジタル・ワークスペース」の実現を

関口
デジタル・ワークスペースとは、サイバー空間上に構築されたオフィスのことです。会社にいようが自宅にいようが、皆、共通のサイバースペース上でのやりとりが可能になります。そうなれば、物理的なオフィスは従来の数分の1に減ることも考えられます。もちろん、人間のコミュニケーションはバーチャルだけでは足りませんから、皆で時々集まったり、コンベンション(会議・展示会)を開いたりするなど、Face to Faceのリアル空間も必要です。

八尋
関口さんのお話をお聞きしていて、自分たちの取り組みは間違っていなかったと自信を持ちました。最近の我々のコンサルティングは、「働き方改革」から「働きがい改革」へと移ってきていて、いかにして個々人が能力を発揮し、幸福を感じながら仕事ができるかという、QoLの向上に重点を置いています。その実現のためには、クラウド上にすべてのドキュメントがあって、どこからでも、どんなデバイスからでもアクセスが可能で、どこにいても仕事ができる環境整備が欠かせません。そういう意味では、すでにデジタル・ワークスペースの世界に近づきつつあると言えますね。

関口
近い将来、株主総会なども完全にサイバースペース上で開催したいという要望が出てくるでしょう。その運営をいかにデジタル技術でうまく構築していくのかが、今後のポイントになると思います。

重要なのはBCP、ダイバーシティへの取り組み

八尋
投資家の目線を意識することも大切です。今やSDGsへの取り組みや、DX化が株価に影響します。そういう意味では、社会は良い方向に向かっていると言えるのではないでしょうか。

関口
良い方向に向かっているし、向かわせなければならないですよね。働きがいや生産性の向上も非常に重要ですが、私が今後のビジネスにおいて最も重要だと思うのは、BCP(Business Continuity Plan)です。災害時などに、たとえ社員が出社しなくても事業が遂行できることがきわめて重要であり、そのためにもDX化が欠かせません。

もう一つ重要なのは、ダイバーシティの実現です。子育て中の方、ハンディキャップのある方、介護をしている方など、物理的にオフィスに行きづらい人たちもリモートでなら働くことができるし、多くの人のワークライフバランスにも資するでしょう。まさにコロナ禍は、より良い社会へ向かう格好のチャンスと言えるのではないでしょうか。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像1: ポストコロナのビジネス
【第1回】コロナ禍を契機に変わる日本社会

関口和一

株式会社MM総研 代表取締役所長/元日本経済新聞社論説委員。1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。88年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。89年英文日経キャップ。90~94年ワシントン特派員。産業部電機担当キャップを経て、96年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間は論説委員として主に情報通信分野の社説を執筆。2019年に株式会社MM総研代表取締役所長に就任。法政大学大学院客員教授、国際大学グローコム客員教授を兼務。NHK国際放送コメンテーター、東京大学大学院客員教授なども務めた。

画像2: ポストコロナのビジネス
【第1回】コロナ禍を契機に変わる日本社会

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

「第2回:米中対立における日本の立ち位置」はこちら>

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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