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一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏
二流経営者の条件、7つ目は「未来予測の記事を読みたがる」。発想が「インサイドアウト」か、それとも「アウトサイドイン」かで、経営者としての力量が大きく左右されると楠木氏は指摘する。

※本記事は、2023年8月1日時点で書かれた内容となっています。

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「条件7:未来予測の記事を読みたがる。」
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優れた経営者は、発想が「インサイドアウト」である――これが僕の考えです。要するに、「アウトサイドイン」じゃない。とにかく幅広く外界を見回して、どこかにあるはずの正解を見つけて正しいことをやろうとする――これがアウトサイドインの発想です。「さあ、戦略をつくりましょう」と、すぐ分析調査に走る。ちょっと目を離すとすぐにSWOT分析とかを始める。フレームワークが大好き。こういう人はだいたい二流経営者です。

自社が過去にとった戦略や、競合他社が現在とっている戦略なら、すでにあるものなので分析可能です。ただ、これからつくろうとしている儲け話は分析できません。

優れた経営者ほど、分析調査は後回し。だいたい、そんなに大切なことだったら現時点でほとんどわかっているはずです。まずは、「我が社はこうやって儲けていくぞ」という戦略のストーリーをつくるほうに、体と頭が動く。もしわからないことが出てくれば、あとで情報を取りに行けばいい――これがインサイドアウトの発想です。

対して、二流経営者の発想はアウトサイドイン。すぐ「2030年 世界はこう変わる」「2050年の世界」とかいう記事を読みたがる。年末になると、『東洋経済』『PRESIDENT』『ダイヤモンド』『日経ビジネス』――あらゆるビジネス誌や経済誌に、「20XX年大予測」という記事が出てきます。もはや「紅白歌合戦」みたいな年末の風物詩です。この手の記事は、需要があるから毎年書かれる。そういう記事を読みたがる経営者は二流です。

そもそも戦略とは、未来への意志の表明です。「こうなるだろう」ではなく、「我々としては、こうやって儲けていこうと思っている」。商売の大原則中の大原則です。その起点となるものが、経営者の自由意志です。アウトサイドインの発想で未来予測の記事を読みたがるような人は、その自由意志を欠いているということになる。

二流経営者がよく言うフレーズに、「生き残りのため」があります。生き残っていったい何をやりたいんですか、という話です。もし、自分が勤めている会社のリーダーから「生き残りのために、〇〇に取り組まなくてはいけない」なんて言われたら、その時点で従業員みんな嫌になるはずです。

もう1つ、二流経営者がよく使う言い回しが「ざるを得ない」。「生き残りのために、我が社もDXせざるを得ない」――もう最悪です。そういうことを言う経営者には、僕は必ず突っ込みを入れるようにしています。「だれに頼まれたんですか? 『ざるを得ない』っておっしゃいますけど、だれも頼んでないですよ」――当たり前です。企業がどうやって儲けるかは、経営者の自由意志ですから。

自由意志がなくなると、もはや商売ではなくなります。経営者はみんな「担当」に引きこもっていく。僕に言わせれば、二流経営者は代表取締役「担当者」です。代表取締役としてのルーティンを回しているだけの担当者に過ぎない。私的専門用語で「CET」――Chief Executive Tantoshaと呼んでいます。

CETはすぐに「さはさりながら……」とか言います。ここ一番の投資の意思決定を前にして、リスクを回避するために「さはさりながら……」とできない理由を探す。こういう人は経営者という仕事をしているのではなく、経営者というポストに就いているだけです。会社の収益や成長ではなく、自分が傷つかないことが目的になってしまっている。

中でも僕が一番嫌なCETが、ことあるごとに「組織に横串を刺して……」と言う「横串おじさん」です。現場にいる従業員同士が組織の枠を超えて話し合うと、何かうまい儲け話が出てくると思っている。だったらあなたが自分で組織に縦串を刺しなさいよ、と。縦串とは言うまでもなく、経営者が構想する戦略ストーリーのことです。それをつくろうとしないから、二流なんですけど。

二流経営者が読みたがる「20XX年大予測」という記事の取材が、かつて毎年のように僕のもとにも来ていました。「来年はどういう年になりますか?」「今年とだいたい同じです」――毎回憎まれ口を叩いていたら、だれも声をかけてこなくなりました。(第8回へつづく

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画像: 二流経営者の条件―その7
条件7 未来予測の記事を読みたがる。

楠木 建
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

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「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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