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一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏
二流経営者の条件、その2は「掛け声をかける」。楠木氏が問題視する「掛け声」の具体例とは。

※本記事は、2023年8月1日時点で書かれた内容となっています。

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「条件2:掛け声をかける。」
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前回、『逆・タイムマシン経営論』を書くにあたり『日経ビジネス』を創刊号から読んだという話をしました。僕が面白いと思ったのは、この雑誌では産業革命が毎年起きていることです。毎年のように「第4次産業革命が始まった」みたいな話をしています。滅多に起きないのが「革命」のはず。それなのに、もはや夏の盆踊りみたいに毎年の恒例行事と化している。なぜこういう記事が頻発するのか――僕の答えは「需要があるから」。需要があるところに供給がある。「産業革命が始まった」という記事を読みたい人が世の中には多いということです。

この10~15年、ソフトウェアのバージョンのアナロジーで、「商社3.0」とか「インダストリー4.0」というワードをよく聞くようになりました。今までの商社がVer2.0だとすると、これからの商社はまったく新しいフェーズに入る。それが商社3.0だ――すべてが変わるというニュアンスを表すための物言いです。この手の話が好きな人が、どうやら一定数いるらしい。

「これからは〇〇3.0の時代だ」と言う人に僕が聞いているのは、「それ、2.0との本質的な違いは何ですか?」。納得できる答えが返ってきたことは一度もありません。こういう物言いは、僕に言わせれば、高校の野球部員が「めざせ甲子園!」と言っているのと同じです。つまりは「掛け声」。みんなで掛け声をかけていると、ちょっと気持ちいい。「やってる感」も出てくる。ただ、掛け声さえかけていれば甲子園に行けるわけではありません。

究極の例が「Society 5.0」です。

日本の政府の政策の1つ、「科学技術基本計画」第5期のキャッチフレーズが「Society 5.0」でした。これが何を意味するのか。気になった僕は調べてみました。まず、「Society 1.0:狩猟社会」――ずいぶん古いところから話を始めています。「Society 2.0:農耕社会」――当然そうなるでしょう。「Society 3.0:工業社会」――なるほど。「Society 4.0:情報社会」――4.0でもう情報社会に突入しています。だとすれば、来たるべきSociety 5.0はいったい何なのか? 果たしてその答えは――

「新しい社会」。

僕は腰を抜かしました。――単なる効率化・省力化にとどまることなく、まったく新しい付加価値を創出することによって、まさに革命的に生産性を押し上げる。それが「新しい社会」だ――大の大人が一国の政府に集まって、こんなことを科学技術基本計画と呼んでいる。純度100%、混じりっけなしの掛け声です。

リーダーが絶対にやってはいけないことの1つが「掛け声をかける」です。現場で働く人が日々の仕事の中で掛け声をかけるのは意味がある。ですが、経営者は別です。論理、構想、戦略、やりたいことがない人ほど、掛け声をかける。二流経営者の条件です。(第3回へつづく

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画像: 二流経営者の条件―その2
条件2 掛け声をかける。

楠木 建
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
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ご参加をお待ちしております。

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山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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