「第1回:プロダクトに向けていた視線を顧客へ」はこちら>
「第2回:カスタマーサクセスの実現は経営課題」はこちら>
「第3回:イノベーションとカスタマーサクセスはDXの両輪」はこちら>
「第4回:顧客の課題×テクノロジー=新しい価値」はこちら>
カスタマーサクセスの学びの場を作る
渡辺
日立グループでは2020年春から、DX推進のため、数万人のフロント人財を対象に、eラーニングの提供を行っています。その10〜15%ほどはカスタマーサクセスの話なのですが、評判がとてもいいのです。制作側へのフィードバックを見ても、カスタマーサクセスに関するものが最も多くなっています。2021年4月から、段階的に次のシリーズをリリースする予定ですが、そこでは1時間分のカスタマーサクセスのトピックを用意しています。こうした取り組みが功を奏してだと思いますが、この1年間ほどで、カスタマーサクセスに関心を持つ人が増え、その結果として社内の認知度も上がりました。
弘子
素晴らしい変化が見られていますね。
大澤
私たちは、サクセスラウンジ(Success Lounge)というバーチャルなスペースを、社内ポータルとして使用しているMicrosoft SharePointサイト内に創設しました。このサクセスラウンジを、カスタマーサクセスについての学びの場、コミュニティの拠点にしたいと思っています。これにより、カスタマーサクセスに取り組む人が一気に増え、そうした人たちが集まり、お互いに知恵を出し合って、交換し、学んだことを業務に持ち帰れるようになればと考えています。さらには、成功事例を作り、それを広げようとも計画しています。
Photo by 秋山由樹
弘子
すでに具体的に紹介いただけるような成功事例はありますか?
大澤
ひとつ挙げるとすると、AIを利用したソリューションの例があります。AIは大きなイノベーションをもたらす技術ですが、それがお客さまの業務の中でどのような価値を生み出すかとなると、とたんに難しくなります。そこで、お客さまの業務を理解するところから始めたところ、価値を見いだせるポイントが見つかり、その結果、良いサービスが提供できたという事例があります。
サクセスギャップを埋める大きなイノベーションは日本から
渡辺
私はこれまでいろいろな社外活動を経験してきましたが、カスタマーサクセスのコミュニティには、参加者が積極的に教え合うという特長があります。その印象は、この鼎談の「第1回」でもお伝えした、2017年に初めて「Technology Service World」に参加したときから変わりません。そうしたオープンな姿勢が今、とてもいい循環を生んでいると感じています。
Photo by 秋山由樹
大澤
私もそれを実感しています。みなさん優しくて、役に立つことは共有しよう、学び合おうという姿勢です。先日出席したカンファレンスの話題のひとつが、どのようにカスタマーサクセスを学んでいくのがいいのかというものだったのですが、講演者の方が「先陣を切って取り組んでいる人を巻き込んで、まず聞いてみればいい」ということをおっしゃっていて、「おお、そういう世界なんだ」と感じたばかりです。
渡辺
弘子さんもそうですよね。サクセスラボのサイトやFacebookで、定期的な情報共有をしてくださっていますし、先日は、音声SNSのクラブハウス(Clubhouse)でシリコンバレーの最新情報を共有してくれたりするなど、この鼎談の前にもいろいろなヒントをくださいました。
弘子
ちょうどその日の午前中、「The State of Customer Success 2021」というゲインサイトが主催したウェビナーがあったので、そこでの話をクラブハウスでシェアしていたのです。そうしたら、渡辺さんが参加してくださり、イノベーションとカスタマーサクセスの関係についてなど、積極的に質問やコメントをくださって、私も助かりました。
渡辺
こうしたおおらかさは、スタートアップやSaaS業界と似ているなと感じています。
大澤
日立のカスタマーサクセスコミュニティも風通しがいいね、と言われるように、私も微力ながら、日立グループ内に限らず、社外の方も巻き込みながら活動をしていきたいと思っています。
Photo by 雨森希紀(Maran.Don)
弘子
今日、私は日本企業にとって悲観的なことを話してしまったかもしれませんが、実は、カスタマーサクセスによってまだまだ埋めきれていない余地もあります。それはハードウェアの分野です。ご存じのようにGAFAもハードでは苦戦しています。ハードには、ソフトウェアとは異なる難しさがあるからです。テスラの話もしましたが、主要部品であるバッテリーなどは日本の企業がつくっているのですから、IoTのようにハードの部分でサクセスギャップを埋める大きなイノベーションは、日本企業から生まれる可能性が高いですし、そうあってほしいと思っています。私もそのための支援は惜しみません。
渡辺
ありがとうございます。
大澤
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
弘子 ラザヴィ(ひろこ・ラザヴィ)
経営コンサルタント/サクセスラボ株式会社代表取締役
一橋大学経営大学院修士課程修了。公認会計士として数多くの企業実務に触れたのち、経営コンサルタントに転じる。ボストンコンサルティンググループでは全社変革・企業再生プロジェクトを、シグマクシスではデジタル戦略プロジェクトなどを牽引。2017年、スタンフォード経営大学院の起業家養成プログラム参加時にカスタマーサクセスに出会い、帰国後にサクセスラボ株式会社を設立。シリコンバレーのネットワークを活かし、カスタマーサクセスに本気で取り組む日本企業を支援している。情報サイト「サクセスジャパン」の運営を通して、カスタマーサクセスに関する情報の普及に努めている。著書に『カスタマーサクセスとは何か 日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』(英治出版、2019年7月)。
渡辺薫(わたなべ・かおる)
株式会社日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 エグゼクティブSIBストラテジスト
ハイテク企業で経営企画&マーケティングを経験したのち、90年代のデジタルマーケティングの黎明期にはエバンジェリスト&コンサルタントとして活動。その後、外資系ITサービス企業等でITサービスのマーケティング、コンサルティング等に従事し、2010年日立製作所に入社。超上流工程のコンサルティング手法の開発と指導にあたる。現在は、日立グループのデジタルトランスフォーメーションの戦略策定・実行のサポートと人財育成に注力している。
大澤郁恵(おおさわ・いくえ)
日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 戦略本部第一部主任
日本学術振興会特別研究員としてオントロジー工学の観点からコミュニティ機能の研究に携わり博士号を取得(知識科学)。2016年日立製作所に入社し、社会イノベーション事業の社内推進業務に従事。現在、カスタマーサクセス活動の加速を目的とした社内コミュニティを立ち上げ、普及・推進活動に取り組んでいる。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。