株式会社日立製作所 大澤 郁恵/渡辺 薫/経営コンサルタント・サクセスラボ株式会社代表取締役 弘子 ラザヴィ氏
これまでモノづくりに邁進してきた日本企業が、顧客の課題を解決するソリューションプロバイダーに変貌を遂げるには、自社プロダクトに関する顧客の声を聞くだけでは不十分だ。顧客の「成功」にフォーカスし、「それを実現するのに必要なことは?」と発想することで、イノベーションを生み出していく。そうした過程の積み重ねが、企業を新たな姿へ生まれ変わらせると弘子ラザヴィ氏は強調する。

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「第2回:カスタマーサクセスの実現は経営課題」はこちら>
「第3回:イノベーションとカスタマーサクセスはDXの両輪」はこちら>

メーカーがソリューションプロバイダーに生まれ変わる

渡辺
前回、弘子さんは「日本企業はモノのイノベーション、つまり小さなイノベーションに一生懸命に見える」とおっしゃいました。とても耳が痛い話ですが、良い動きも始まってきています。

日立グループの中で、最も早くカスタマーサクセスに取り組んできた会社の一つが日立建機です。もちろん、カスタマーサクセスという言葉は使ってきていませんが。大型の建設機械や鉱山用の機械はメンテナンス費用が大きく、また実際に稼働する時間が売り上げに直結するので、本当に、買っていただいた後が大切なんですね。

日立建機はもともと建設機械、プロダクトの会社ですが、そのプロダクトを使いこなすお客さまの課題にフォーカスし、デジタルソリューションを充実させてきました。鉱山向けには、車両の状態をモニタリングし、予備部品・保守人員の最適化やダウンタイムを低減するソリューションに加え、配車や運搬ルートを最適化し生産性向上を実現するソリューションも提供しています。また、保守部品のサプライチェーンの見直しを並行して行うなど、お客さまが使いこなして価値を生み出すことをどうやってサポートしていくかについて、会社全体で取り組んできたわけです。

画像1: メーカーがソリューションプロバイダーに生まれ変わる

Photo by 秋山由樹

弘子
良い例ですね。日本では他にも、顧客の成功にフォーカスすることによって大きなイノベーションを実現し、単なるメーカーから、ソリューションプロバイダーに生まれ変わった企業があります。同社は、プロダクト(モノ)の提供価値こそが同社ビジネスの価値という発想をやめ、お客さまが実現したい成功像に向き合うことで、プロダクトが提供する価値“以外”の領域も自社ビジネスとして手掛けるソリューションプロバイダーへと大転換を果たしたのです。

大澤
そのためには、どういう取り組みが必要になるのでしょうか。

弘子
プロダクト(何)起点で考えるのではなく、お客さま(誰)起点で考えること。お客さまにいくらヒアリングをしても、自社のプロダクトに関する課題だけを聞いていては、イノベーションは生まれません。お客さまが成功したいことをまず理解し、それを実現するのに必要なことは?と発想することで、イノベーションを生み出していく。それが「お客さま(誰)起点で考える」ことの意味であり、とても重要なことです。

画像2: メーカーがソリューションプロバイダーに生まれ変わる

Photo by 雨森希紀(Maran.Don)

大澤
カスタマーのサクセスを第一に考えてイノベーションを創造し、カスタマーサクセスを通じてアウトカム(成果)の実現をサポートすることの積み重ね、ということですね。

渡辺
自分たちのプロダクトばかり見ていたら、大きな発想は生まれません。私たちも、社会イノベーション事業を推進するにあたり、「製品・技術を売る」ビジネスモデルから、「価値・成果」を提供するビジネスモデルへの転換を強調しています。日立自身が、そうした事業にトランスフォームしていくだけでなく、お客さまのそうした事業転換も後押ししていこうとしているのです。よく、「モノからコトへ」という言い方がされますが、より本質的に言うと、「アウトカム提供型企業」への転換ということだと思います。

求められる「カスタマーセントリックな企業文化」

弘子
先ほど申しましたように、イノベーションは、顧客の「こうしてほしい」という声からは生まれません。1人ひとりの要望を言われた通りに叶えていたら、イノベーションが生まれないどころか、差別性のないプロダクトにすらなってしまう。大切なのは、顧客が何に困っているのかを深く正しく理解することです。それをテクノロジーで解決できないか、を考える中からイノベーションが生まれるのです。

渡辺
つまり、聞いたお客さまの声に従っているだけではなく、提供側とお客さまの間にあったサクセスギャップを、テクノロジーで埋めていこうということですね。

弘子
別の言葉を使えば、どこまでを自社のバリューと考え、提供していくかを決めて実行するということです。

そのトリガーはテクノロジーです。急速な技術革新は、大きなイノベーションが起こる余地を次々に生み出します。その余地を見つけて手を付けた企業が勝つ。それなのにモノばかり見ていたら、せっかくの余地はあっという間に他の企業に埋められてしまって、余地があったことに気づいたときにはとても追いつけなくなってしまいます。それが、日本企業にとってのワーストシナリオだと私は考えています。

大澤
そうしたワーストシナリオに陥らないため、弘子さんは著書『カスタマーサクセスとは何か』(英治出版)の中でも、日本企業はカスタマーセントリック(顧客中心)になるべきだと指摘されています。

弘子
カスタマーサクセスとは、カスタマーセントリックな企業文化でもあり、その企業文化が根付いた企業のあらゆる活動のことだとも言えます。では、カスタマーセントリックな企業文化とは何かというと、デジタル時代になくてはならない存在になるため、お客さまの成功を絶えず追求することを重視する価値観であり、それが組織に浸透していることなのです。日本企業にとってのカスタマーサクセスは、カスタマーセントリックな企業文化を根付かせるためのチェンジマネジメントから始まると、私は考えています。

画像1: カスタマーサクセスが企業に大変革をもたらす
【第4回】顧客の課題×テクノロジー=新しい価値

弘子 ラザヴィ(ひろこ・ラザヴィ)

経営コンサルタント/サクセスラボ株式会社代表取締役
一橋大学経営大学院修士課程修了。公認会計士として数多くの企業実務に触れたのち、経営コンサルタントに転じる。ボストンコンサルティンググループでは全社変革・企業再生プロジェクトを、シグマクシスではデジタル戦略プロジェクトなどを牽引。2017年、スタンフォード経営大学院の起業家養成プログラム参加時にカスタマーサクセスに出会い、帰国後にサクセスラボ株式会社を設立。シリコンバレーのネットワークを活かし、カスタマーサクセスに本気で取り組む日本企業を支援している。情報サイト「サクセスジャパン」の運営を通して、カスタマーサクセスに関する情報の普及に努めている。著書に『カスタマーサクセスとは何か 日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』(英治出版、2019年7月)。

画像2: カスタマーサクセスが企業に大変革をもたらす
【第4回】顧客の課題×テクノロジー=新しい価値

渡辺薫(わたなべ・かおる)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 エグゼクティブSIBストラテジスト
ハイテク企業で経営企画&マーケティングを経験したのち、90年代のデジタルマーケティングの黎明期にはエバンジェリスト&コンサルタントとして活動。その後、外資系ITサービス企業等でITサービスのマーケティング、コンサルティング等に従事し、2010年日立製作所に入社。超上流工程のコンサルティング手法の開発と指導にあたる。現在は、日立グループのデジタルトランスフォーメーションの戦略策定・実行のサポートと人財育成に注力している。

画像3: カスタマーサクセスが企業に大変革をもたらす
【第4回】顧客の課題×テクノロジー=新しい価値

大澤郁恵(おおさわ・いくえ)

日立製作所 社会イノベーション事業推進本部 戦略本部第一部主任
日本学術振興会特別研究員としてオントロジー工学の観点からコミュニティ機能の研究に携わり博士号を取得(知識科学)。2016年日立製作所に入社し、社会イノベーション事業の社内推進業務に従事。現在、カスタマーサクセス活動の加速を目的とした社内コミュニティを立ち上げ、普及・推進活動に取り組んでいる。

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シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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