「第1回:コンセプトを持つと楽になる。」はこちら>
「第2回:『ストーリーとしての競争戦略』。」はこちら>
「第3回:『戦略読書日記』。」はこちら>
「第4回:『「好き嫌い」と経営』。」はこちら>

※本記事は、2020年6月5日時点で書かれた内容となっています。

昨年、2019年に『室内生活―スローで過剰な読書論』という本を出しました。これはそれまでの本とは異なり、意図的に“ノー・コンセプト”の本です。かなり趣味的な本でして、自分の喜びのために作ったという、仕事にあるまじき本です。

僕は、本業以外に書評という仕事をやっております。これは昔から僕にとって「夢の仕事」でした。ただ、書評だけでは食えません。あくまでも副業です。僕ごときが書評家を名乗ることは、プロの書評家の方に失礼なのですが、とにかく本を読んで、考えて、それを書くことで人に伝えるということが大好きなので、書評の仕事は大喜びで引き受けてきました。幸いなことに10年ほど前から少しずつ注文も来るようになりまして、気がつくとものすごい量の書評原稿がたまっていたので、この際それをまとめて本にして出そうというだけの本、それが『室内生活』です。

『戦略読書日記』と同列に見えるかもしれませんが、『室内生活』は『戦略読書日記』のように書評形式に仮託して「センス」を伝える……といった特段の意図があるわけではありません。「晶文社」という出版社が、ありがたくもこの趣味的な本を出してくださいました。僕は以前から晶文社が好きでした。僕の好きな本をいっぱい出しています。あまり市場性がないような本でも、非常にセンスのいい装丁と作りで出している。僕がこれまでに読んだ本の中で一番面白かった『古川ロッパ昭和日記』も、出版は晶文社です。

ビジネス系の出版社ではないので、自分の本を出す機会はないだろうと思っていました。この書評集を晶文社が出してくれるというのは、望外の喜びでした。装丁も寄藤文平さんという僕の一番好きなデザイナーの手によるもので、大いに気に入っています。

読書をして自分で本当に面白いと思うと、「ちょっとこういう面白い本があってさ、どこが面白いかっていうとね……」というふうに、人に話したくなる。それが人間の本性だと思うのですが、僕が書評を書く動機はまさにそれでありまして、自分が面白いなと思ったことは人に話したくなる。それを文章にすることで読んでもらえる。これが書評の楽しいところです。

書評という副業について、ある人から「それはラーメン屋さんが、ついでにチャーハンもやるようなものですね」と言われました。ラーメン屋さんの比喩で言えば、僕にとっての書評は、チャーハンというより「ラーメンのスープ」です。普段何かを考える時に、本を読むというのは一番重要なきっかけ、インプットです。常時本を読んでは考えている。そのうちの一部が本業である経営学のアウトプット、ラーメンになるのですが、本は常に読んでいるわけで、それが自分の思考の基盤となっている。ラーメン屋さんがラーメンを出すときのベースとなるスープが、僕にとっては「本を読んで考える」ということです。そのスープだけを、チャーハンの横に付いてくるおまけのスープのように提供するというのが、僕にとっての書評の仕事です。

以前は、読んだ本の備忘録やメモ代わりにTwitterを利用していました。しかし、ある時からTwitterに何か書くとやたらに批判が来るようになりました。140字しか書けないので、まともな議論にはなりません。一部の人がとにかく感情的で、それは批判というより、罵倒をしてくるようになりました。「ハゲ」とか、それは事実そうなんですが、そう言われても返す言葉がない。さすがに「殺すぞ」というのはなくて、「死ね」ぐらいが一応の倫理基準になっていたようですが、あまりにもネガティブパワーが強過ぎる。で、DMMの方からお誘いを受けて、DMMのクローズなコミュニティーに『楠木建の頭の中』を開設して、読書感想や日常の思考の発信はそちらに移行しました。

つくづく自分は考えを「発表する」ことが好きだと思います。『楠木建の頭の中』を始めてから、平日は毎日何かしら書いています。書評が多いのですが、映画とか音楽についての感想もありますし、自分の生活の断片についてとか、自分が触発されたことなどを書いています。これも毎日書いていると当然原稿はたまっていくので、いずれほとぼりが冷めたらまた本にしたいな、と。タイトルはもう決まっていまして、『その後の室内生活』。

これは、永遠にできるんです。『まだまだ室内生活』とか、『やっぱり室内生活』とか、『帰ってきた室内生活』とか。ただし、僕はやたらと書く量が多いので、ちょっと気を緩めるとすぐ500ページとかになってしまいますし、自分でも予想はしていましたが、『室内生活』は本当に売れないんです。僕が書いた本のなかでも、圧倒的に少部数。それでも増刷がかかったのはありがたいことです。きっと在庫がたくさんあると思いますので、気が向いた方は読んでみてください。僕としては大好きな晶文社からシリーズでずっと出し続けたいのですが、商売上ご迷惑をおかけするわけにもいきません。

次に出る本はもう決まっておりまして、『逆・タイムマシン経営論』(仮題)というものです。これは本業の方で、コンセプトもはっきりと立てています。本が出たら、またこちらでコンセプトと主張についてお話しできれば幸いです。

追伸
今回で、このEFOビジネスレビューがスタートしてもう2年になるそうです。
3年目も、これまで同様ユルユルとやっていく所存でおりますので、引き続きご愛読の程よろしくお願いいたします。

画像: コンセプト 僕の場合-その5
『室内生活』。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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禅のこころ

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