一橋ビジネススクール教授 楠木 建氏 / 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー 山口周氏
2019年11月15日(金)、オープンしたての渋谷スクランブルスクエア15Fにある会員制の共創施設SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)内のSCRAMBLE HALL(スクランブルホール)において、楠木建氏と山口周氏の公開対談が行われた。前半は『仕事ができるとはどういうことか』というテーマでの対談。後半は、時間を拡大してご来場者様とのQ&Aが行われた。このQ&Aライブを、当日参加できなかったEFOビジネスレビュー読者のために、スペシャルコンテンツとしてお届けする。一つひとつの質問に、時間をかけて丁寧に答えるお二人の言葉は、わかりやすく、深かった。

Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?
Q2:自分の好き嫌いの市場価値は?
Q3:スキルを越えた自分のポジションを見つけるヒントは?
Q4:仕事を選ぶ時の基準は?
Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?
Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?
Q7:センスを排除しようとする人たちとの戦い方は?

Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?

イチロー選手が、コーチから技術を教わっても自分のセンスを優先したお話や、楠木さんが大学からの要請を、自分のセンスではないから難しいというお話がありました。実際に自分のセンスをまず知る、そして磨くためのコツがあれば、また見つけるためのマインドセットがあれば教えていただけないでしょうか。お願いいたします。

楠木
それは、自分で知る以外にないので、やっぱり一番の方法は、フルスイングで空振り経験を増やすことではないでしょうか。ちょっと打ち損なってというものではなく、フルスイングすることで明らかにこれは向いてないということがわかる。それを繰り返すことによって、消去法的にここなのかなというものが見えてくるというのが私の経験上の結論です。例えば私は、ゲーム的な脳というものが本当にセンスがなくて、オセロゲームがものすごく弱いんです。

山口
同じです。私もものすごい弱いんです。

楠木
将棋とかああいうものも全部そうなのですが、もう感動的に弱いんです。今から20年か25年ほど前だと思いますが、研究者を集めたある国際会議に出たときのこと、会場がIBMの施設だったので、休憩時間にいまでいうAIのようなものを使ったオセロゲームで遊ばせてもらいました。

しばらくパソコンに向かってオセロをやっていると、私の後ろに人だかりができているんです。そして、私が一手打つたびにどよめきが起きるんです。なぜかというと、「こいつの下手さ加減、すごいぞ」と。ここには研究者というそれなりに頭を使う仕事の人間が集まっているわけで、それはオセロのようなゲームをやってもうまい人というのが前提になっているのに、あなたはどうなっているんだ。よくこれで研究者をやってるね、ということなんです。

山口
しかも、戦略論の研究者ですからね。

楠木
そのとき思ったのは、論理にもいろいろなタイプがあって、自分がフルスイングで空振りするロジックの土俵というのが確かにあると感じたんです。単に「オセロが下手」で済ませないでこれを抽象化してみると、事前にルールが設定されていて、物事が逐次的に進んでいくような条件下での論理力というものが自分にはおそろしくないんだろう、ということを知るわけです。そういうフルスイング空振り経験というのが、とっても大切じゃないかなと思います。

画像: Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?

山口
極端な弱さって才能だと思うんです。つまらない乾いた言葉で言うと“セルフアウェアネス”、自分のパフォーマンスを客観的に自分で見れるということです。先ほどの私の話で、電通時代にキャンペーンをやるごとに周囲が不幸になっていって、周囲が左遷させられていくというあの状況を、これはある意味で類まれな才能だと認識して、この悲劇の裏側にあるポジティブな側面を見るというのも、ひとつの自分の置き所を考える材料かもしれません。

私の知り合いで、まだ大学生なのですが、高校生のときにいま世界で使われているプログラミング言語を作ったものすごい才能の持ち主がいます。彼が通っていた進学校は10段階評価になっていて、彼は高校時代3年間、数学の成績がずっと最低の1だった。先生から、これはわが校始まって以来はじめての快挙だと言われたそうです。それがプログラミングという領域では、圧倒的な力を発揮する。セルフアウェアネスのポイントとして、明らかに周りが苦労しているにもかかわらずスッと自然体でやってうまくできてしまうことと、周りが何でもなくやっていることが自分にとってはまるでうまくできないこと、その2つを考えてみるとセンスのありかが見えてくるような気がします。

楠木
選球眼と言ってしまえばそれまでなのですが、選球眼というのは、「いい球が来た、打とう」という打つべき球を選ぶ力ですが、センスというのはむしろ見逃す能力。この年になってくると、もう球がピッチャーの手を離れた瞬間にこれは違うな、と見逃しています。それは、これまでどれだけ空振りしてきたかという話です。場合によっては、もう打席にも立たない。

山口
そうですね。今は失敗のコストがどんどん下がっている時代だと思うんです。失敗のコストが下がるとはどういうことか。慎重になって新しいことをやらないと、会計用語でいう機会費用(※1)が発生するわけです。実際に失敗してしまうコストと、何もやらずに慎重になって増大する機会費用で考えると、今はもう機会費用のほうが大きくなっていると思うんです。
(※1)英:opportunity cost 時間の使用・消費の有益性・効率性にまつわる経済学上の概念。複数ある選択肢の内、同一期間中に最大利益を生む選択肢とそれ以外の選択肢との利益の差のこと。

人生のステージごとにストラテジーは変わりますが、若いときはいろいろな打席に立って、慎重になるより思いっきり振ってみる。これは明らかに自分の仕事によって周りが不幸になっているなというときと、なんか目をつぶってパッと振ってみたら場外ホームランが出ているとき、そういう経験はかならずあるはずです。このコースの球、目をつむって振ってもなんか飛ぶなっていうものを見つけたら、おそらくそこが自分のセンスのありかだと思います。

センスは、いくら内省してもわからないです。世の中の文脈に自分を置いた他者との関係の中で見えてくる、相対的なものですからね。明らかに飛距離が出ているというものを見つけられたら、もう他の球は振らない。そこが大事かなと思います。

Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?
Q2:自分の好き嫌いの市場価値は?
Q3:スキルを越えた自分のポジションを見つけるヒントは?
Q4:仕事を選ぶ時の基準は?
Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?
Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?
Q7:センスを排除しようとする人たちとの戦い方は?

画像1: 楠木建×山口周『仕事ができるとはどういうことか』-「Q&Aライブ」Question 1

山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』、『武器になる哲学』など。最新著は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。神奈川県葉山町に在住。

画像2: 楠木建×山口周『仕事ができるとはどういうことか』-「Q&Aライブ」Question 1

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

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