Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?
Q2:自分の好き嫌いの市場価値は?
Q3:スキルを越えた自分のポジションを見つけるヒントは?
Q4:仕事を選ぶ時の基準は?
Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?
Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?
Q7:センスを排除しようとする人たちとの戦い方は?

Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?

私は私立の工業高校で、まさにスキルを教えるという仕事をしています。うちの学校では、スキルを高めることに一番主眼を置いていまして、「仕事ができる=スキルが高い」ではないということはとてもよくわかるのですが、小学校、中学校、高校における“スキルの教育”と“マインドセットの教育”というのはいかにあるべきかということがひとつ。それとジョブマッチングがうまくいかないというのは、採用の問題とキャリア教育の不十分さがあると思うのですが、お二人はどうお考えなのか。その2点について教えていただければと思います。

画像: Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?

楠木
定義からして、センスというのは直接的には教えられないものだと思います。私もそうなのですが、学校で教師としてできることというのは、直接的にはスキルを教えることです。特に工業高校では、スキルの伝授というのが仕事の役割、中核であって、ぜひスキルを大切にお伝えいただきたと思います。

センスとなりますと、直接的にこちらが育てるものではなくて、育つもの。本人が磨いていくしかないので、それは直接的に学校で教えるのは難しいですよね。ただ、先生として、自分の生き様を見せるとか、そういうことは間接的にあると思うんです。それぞれがスキルを磨きながらも、自分のセンスを自分で育てる土俵や土壌を、学校の中で豊かにしていくということはあるのではないでしょうか。

山口
その通りだと思います。非常に重要なお仕事で、まったく揶揄するつもりはないのですが、教育で何か問題があると教育のせいだと言う人がいますが、教育というものに過大な責任を負わせたり役割を持たせると、かえってゆがむという側面があると思います。例えば技術者でいうと、航空機の世界では“堀越二郎”(※2)、鉄道の世界では“島秀雄”(※3)というスーパーエンジニアがいて、彼らは国が莫大な投資をしてスターエンジニアを育てたわけですが、とにかくセンスの塊みたいな人です。堀越二郎の“剛性低下方式”というのは、操縦系統の剛性を下げてたわみや伸び縮みを起こりやすくして天下一品の操縦性を獲得させるという、センスとしか言いようのない技術だと思うんです。彼らは膨大なスキル教育の積み重ねの最後の部分で、ある種の結晶のように芽吹いたものだと思います。
(※2)堀越二郎 1903年6月22日~1982年1月11日 日本の航空技術者。零式艦上戦闘機の設計者。
(※3)島秀雄 1901年5月22日~1998年3月18日 昭和初期~中期の鉄道技術者。元日本国有鉄道(国鉄)技師長。貨物用蒸気機関車D51形(愛称デゴイチ)の設計に関与。新幹線計画では、その実現に貢献。国鉄退職後は宇宙開発事業団でロケット開発にも携わった。

これはよく誤解されている話なのですが、“モーツァルト”という人も生まれついての天才というイメージを持たれている人が多いと思います。でも岩波文庫に『モーツァルトの手紙』という本があるのですが、これを読むとモーツァルトというのは完全に努力の人であることがわかります。モーツァルトは、いろんな音楽会に出かけて観客の表情を観察します。そこで、観客の顔や表情が変わるとか、拍手が起こったときのパッセージだけをずっと集めていくんです。もちろん作曲の技術は勉強していますが、小室哲哉的と言いますか、お客さんに何が受けるフレーズなのかとか、何が今のウィーンの人たちに受けるリズムなのかということを膨大に蓄積していき、そのストックの中から曲を紡いでいくということをやっていた。これもどちらかというとスキル教育なのですが、そこのスキル教育の極限のところは、もうセンスに至っているということがあると思います。何か真逆のものを獲得するために、おかしな美術館に行かせたりといったことは、私はあまり意味がないと思います。

楠木
スキルは持っているに越したことはない。それは試験で測定できるわけですが、センスは本当に人それぞれなので、やっぱりひとつの学校とかひとりの教師が全員のセンスの開発に責任は負えないと思います。結論としては、「好きなようにしてください」ということになる。

山口
“守破離”(※4)ってありますよね。“守”というのはスキル教育です。“離”となると、これはセンスの世界だということです。自分独自のスタイルを作るということですから。その最初の段階から“離”をめざすためにどうしたらいいかというのは、教育の本旨からは外れるという気がします。
(※4)守破離(しゅはり) 日本の茶道や武道など芸道・芸術における師弟関係のあり方、修行における過程を示したもの。

楠木
その辺は、非常に事後性が高いと思います。つまり、「よし、イノベーションを起こそう」と言っている人間でイノベーションを起こしたやつはいない。それは結果的にそういうものになるわけです。“離”に相当するのはそういうことなので、学校では「四の五の言わずに数年間は勉強しろ」というのが一番いいと思います。

Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?
Q2:自分の好き嫌いの市場価値は?
Q3:スキルを越えた自分のポジションを見つけるヒントは?
Q4:仕事を選ぶ時の基準は?
Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?
Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?
Q7:センスを排除しようとする人たちとの戦い方は?

画像1: 楠木建×山口周『仕事ができるとはどういうことか』-「Q&Aライブ」Question 5

山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』、『武器になる哲学』など。最新著は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。神奈川県葉山町に在住。

画像2: 楠木建×山口周『仕事ができるとはどういうことか』-「Q&Aライブ」Question 5

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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