ロボットクリエーター 株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授 高橋智隆氏 / 株式会社 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
ロボットやAIが社会に浸透するにつれ、人間もそれに合わせて変化していくという高橋氏。すでに製造や物流の現場では、人間とロボット、それぞれの得意/不得意をうまく融合させ、効率化を行っている。その進展に伴い、サービスや社会のリデザインも進み、新たなエコシステムが築かれることになるのだろうか。

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ロボットに合わせて変化していく社会

八尋
いまや、製造業の生産ラインでは当たり前のようにロボティックスが導入されていますが、今後さらにコミュニケーションロボットが導入されるようになってくると、人間の側もロボットとうまくコミュニケーションを取りながら、生産管理をしていく必要がありますね。

高橋
おっしゃるように、人間の側がロボットに合わせて変化していくと思います。そういう意味で、僕が最近、もっとも評価しているロボットの一つが、アマゾンの物流倉庫で活用されている倉庫ロボットです。これは、ルンバのような台座ロボットが、商品を陳列した棚ごと乗せて自動走行し、ピックアップする人間の元へと商品を運ぶというものです。

以前は、棚ごとに分類されていた商品を人間が取りに行っていたわけですが、コンピュータであれば、すべての商品がどの棚にあるかを記憶できるので、わざわざ分類して並べる必要はありません。歯磨き粉の横にホッチキスがあっても、いっこうに構わないわけですね。一方で、ロボットが苦手な商品のピックアップや箱詰め作業は人間が行う。つまり、人間とロボットの違いをちゃんと理解したうえで、物流倉庫全体の基盤システムを設計しているところが非常に賢いと思うわけです。

画像: ロボットに合わせて変化していく社会

今後は、こうした発想がさらに広がっていくのではないでしょうか。従来は、人間が苦手とすることや危険なことをロボットにやらせてきたけれど、逆に、コンピュータやロボットを中心に効率のいい生産や物流のラインを組み立てて、そのなかでどうしてもロボットが苦手なことを人間が行う、という発想へと転換していくようになるでしょう。

AIやロボットといかに折り合いをつけていくか

八尋
アマゾンの倉庫ロボットの発想は、中国の無人店舗にも似ています。AIによる管理がメインで、人間はトラブルのときにだけ出動するという。

高橋
まだ、ユーザーインタフェースとしては考えるべきところが多々ありますが、今後は、人間のためだけのデザインから、AIやロボットが活躍しやすいデザインへ、生産現場も店舗も様変わりしていくことになるでしょう。

一方で、社会にAIやロボットがどんどん入り込んできたとしても、もとからあるものを完全に排除することは難しい面もあります。たとえば、自動走行車が普及しても、勝手気ままに移動する自転車も歩行者もなくなりません。どれほど自動走行車が安全になっても、人間の側がその分、自動走行車だから勝手によけてくれるだろう、と横着になって、なかなか事故が減らないということも起こり得る。そこをどう乗り越えていくのか、というのも大きな課題だと思います。

八尋
やはり、アジアのスマートシティのように、何もない原野に一から自動走行車のための街を築くとか、過疎地で実証的に自動走行車による移動店舗を導入してみるとか、何か思い切った施策が必要なのかもしれませんね。

愛着と信頼が新たなビジネスを生み出す

八尋
いずれにせよ、今後はAIやロボットが社会で活用されるようになると思うのですが、そこで日本ならではの存在感を出していくためにはどうすればよいと思われますか?

画像1: 愛着と信頼が新たなビジネスを生み出す

高橋
そこにこそ、僕はヒト型ロボットの可能性があると思っているんですね。欧米企業によるスマートスピーカーしかり、現状は、愛着を感じられるようなモノではありません。そこに、アニメや漫画、ゲームなどで培ってきた日本文化の強みが発揮できるのではないか、と。実際に、アジア市場ではヒト型ロボットはとてもウケがいいのです。つまり、最初の市場はアジアになるでしょうね。

八尋
「eスポーツ」もロボット市場を拓く起爆剤になる可能性がありますね。

高橋
ええ、競技人口が急増していますし、人種的な体格差もありませんから、将来的にはオリンピックよりも盛り上がるかもしれません。

いずれにせよ、ロボットが最初の普及の壁を乗り越えるためには、何かをきっかけに一気に浸透するかどうか、だと思っています。そのためのエコシステムをきちんと描くことができるかどうかにかかっています。

たとえば、アメリカのある製薬会社は、ロボットを無料で配布していて、このロボットが薬の飲み忘れを教えてくれる、という取り組みをしています。薬価は非常に高いので、ロボット代金くらいすぐに回収できてしまう、というわけです。

これに倣って、保険会社が契約者にロボットを無料で配布するというシナリオも考えられます。そのロボットが、「昨日はずっと家にいたよね。今日は天気が良くなるから、代々木公園のイベントに出かけようよ」などと日々、語りかけてくれるわけです。そういう緩やかな健康管理だけでも、生活習慣病を予防し、医療費を下げる効果は大いにあると思います。

画像2: 愛着と信頼が新たなビジネスを生み出す

八尋
愛着が持てて、信頼できるロボットだからこそ組み立てられるさまざまなサービスがあるわけですね。

高橋
世界景気が怪しくなってきています。ただ、それは物事が変わるきっかけにもなります。ピンチが、価値観やしくみを変え、社会を変えるチャンスとなる。そういう変化の中で、ロボットがより必要とされる場面が生まれてくるのではないかと期待しています。

八尋
失われた20年などと日本のことを揶揄する人は多いけれど、むしろこの20年の変化を経て、世界の中で日本の文化が注目され、リスペクトされる存在になったように感じています。今後ますます、ロボットをはじめ、日本の素晴らしい面を発揮していけるのではないでしょうか。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=Aterui)

画像1: イノベーターは変人たれ
その5 人間とロボットが築くエコシステム

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

画像2: イノベーターは変人たれ
その5 人間とロボットが築くエコシステム

高橋智隆

ロボットクリエーター。株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。大阪電気通信大学情報学科客員教授。ヒューマンアカデミーロボット教室アドバイザー。グローブライド株式会社社外取締役。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時にロボ・ガレージを創業し京都大学学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。2004年から2008年まで、ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる4つのギネス世界記録を獲得。米TIME 誌「 Coolest Inventions 2004 」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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