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ロボットクリエーター 株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授 高橋智隆氏 / 株式会社 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
二足歩行の小型ヒューマノイドロボット(ヒト型ロボット)のクリエーターとして、世界的にその名を知られている高橋智隆氏。卓越したセンスと独創性により、自らの手で「ロボットクリエーター」としての道を切り拓くと同時に、企業とのコラボレーションにも積極的に取り組んできた。そのイノベーションの秘訣と協創の方法論を探るとともに、高橋氏が描く人とAI・ロボットが共存する未来について伺った。

スキーに勤しんだ最初の大学生活

八尋
高橋さんのご経歴はユニークで、最初の大学では文系に進学されたそうですね。その後、一度、就職活動を経て京都大学工学部に再入学し、そこでロボットづくりを始められました。

高橋
基本的に成り行きで生きてきた結果です。立命館高校からエスカレータ方式で立命館大学に入ったのですが、当時はバブル全盛期で、理系の学生も金融機関に就職するような時代でした。それなら文系でいいやと入ったのが産業社会学部です。結局、冬はスキー場でバイトしながら毎日滑り、夏は南半球にまで足を伸ばしてまた滑る。卒業論文も書かず、ゼミにも所属しないまま、単位だけ取得して卒業しました。

ただ、3年生が終わった後、1年間休学して、オーストラリアとロサンゼルス、ニューヨークに3カ月ずつ留学したのはいい経験になりました。午前中は語学学校に通い、午後は釣りに行ったり、自動車のカスタムをやっている工場を見学したり。卒業したら就職したいと思っていたダイワ精工(現グローブライド株式会社)のアメリカ支社も訪ねました。1カ月ほど北海道に住んだりもしていて、まぁ、遊んでいたわけですね。

画像: スキーに勤しんだ最初の大学生活

志望企業に入れず、京大工学部へ

八尋
すでに就職先を決めていらしたということは、その会社にかなり思い入れがあったのですね。

高橋
当時は琵琶湖のほとりに住んでいて、小学校高学年から中学にかけてバス釣りに熱中していたんです。ちょうどモノフェチに目覚めはじめた頃で、どうしても欲しくて買ったのが同社の竿とリールでした。もともと、大きなものよりも精密機械とかメカニカルなものが好きだったというのもあります。その後、大学ではスキーにハマりましたが、この会社はスキー用品も手がけていましたし、そのほかにもテニス用品、ゴルフ用品、自転車など、楽しげなものばかり扱っていて、なんとしても入社したいと思っていました。

そんなわけで、面接には自作のリールを持ち込んで臨んだのですが、残念ながら最終面接で落ちてしまった。そこで初めて工学部に進めばよかったと後悔し、不採用を通達されたその日の夜に、翌朝までかけて化学の教科書を読破しました。苦手な化学が理解できたら、受験にチャレンジしよう、と。こうして1年間の予備校生活を経て、京大工学部に入り直しました。

京大ベンチャー第1号として起業

八尋
結局その選択が、子どもの頃に興味を持たれていたロボットへと高橋さんを惹き寄せることになったわけですね。

画像1: 京大ベンチャー第1号として起業

高橋
自分の好きなものが揃っている会社に入ることができなくて、改めて自分の原点を見つめ直したときに、エンジニアになりたい、幼い頃から好きだったロボットの分野に進みたいと強く思うようになった。それこそ、幼い頃に機械全般に興味を持ったきっかけは、『鉄腕アトム』でしたからね。その後、プラモデルやラジコン、釣り、スキーなど、興味はさまざまに移っていったけれど、就職に失敗して、改めて原点はロボットにあると再確認したわけです。

八尋
そして、京大では「京大ベンチャーズ」の第1号として起業されました。

高橋
京大工学部では9割以上の人が大学院に進学しますが、僕は論文を読むのも書くのも嫌いで、大学院への進学はないと思っていました。一方で、2回も大学へ行って無駄に歳を取っているので、このまま就職しても人より早く定年を迎えてしまう。在学中からロボットをつくって発表し、特許出願、商品化と、ロボットクリエーターとしての活動が広がってきたこともあり、自分で起業することにしたのです。

そんな折、特許出願の際にお世話になった京大のベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(VBL)の施設長で、副学長だった松重和美教授が、起業インキュベーション「京大ベンチャーズ」の設立に奔走してくださった。こうして、学内に机一つの小さなオフィスを構えて、ロボ・ガレージをスタートさせました。もっとも、実際にロボットづくりをする工房は相変わらず実家のままでしたし、お金を借りたり、社員を雇ったりすることもなく、たいした決心もないままのゆるい起業でした。

画像2: 京大ベンチャー第1号として起業

八尋
以前、ドイツのフラウンホーファー研究機構の研究者が書いたもので、面白い新規事業の開拓者を育てるには、その人を温かく見守るメンターがいるとうまくいく、という論文を読んだことがあります。高橋さんにとっては、松重副学長がまさにそういうメンター的な存在だったわけですね。

次回は、企業とのコラボレーションの進め方について聞かせください。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=Aterui)

画像1: イノベーターは変人たれ
その1 二度の大学生活を経て、ロボットクリエーターへ

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

画像2: イノベーターは変人たれ
その1 二度の大学生活を経て、ロボットクリエーターへ

高橋智隆

ロボットクリエーター。株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。大阪電気通信大学情報学科客員教授。ヒューマンアカデミーロボット教室アドバイザー。グローブライド株式会社社外取締役。1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時にロボ・ガレージを創業し京都大学学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。2004年から2008年まで、ロボカップ世界大会5年連続優勝。開発したロボットによる4つのギネス世界記録を獲得。米TIME 誌「 Coolest Inventions 2004 」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定される。

「第2回:企業との協創の進め方」はこちら>

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