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株式会社 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
2014年に日立コンサルティングの代表取締役に就任して以来、5年にわたり、日立や社会インフラ系企業の取り組む社会イノベーション事業を見守ってきた八尋俊英は、折に触れ「ビジネスエコシステム」の必要性を訴えてきました。それは、八尋自身が、長銀、ソニー、経済産業省、シャープと、複数の組織において新規プロジェクトを牽引する中で、日本から革新的なイノベーションを起こし、社会をよりよくするためには多様なプレーヤーが有機的につながることが不可欠だと実感してきたからです。本新シリーズでは、八尋を導き手に、新世代のイノベーターをゲストに迎え、SDGsに代表される社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方について探ります。連載を始めるにあたり、八尋の経歴や対談への期待について聞きました。

――八尋さんの経歴を聞かせてください。

八尋
私のキャリアは、大学卒業後の1989年に入行した日本長期信用銀行(長銀)からスタートしました。大学4年の夏に国家公務員試験一種に合格して、通商産業省(通産省)に内定をもらっていましたが、通産省の意識は米国に向いていて、ゼミでEU統合に関心の高かった私には、航空機ファイナンスの出資先がアイルランドにある長銀の方がよりグローバルで新しい仕事をすぐに手掛けられそうだ、と思ったためです。

長銀では欧州やアジア企業のM&Aを手がけたり、米国の銀行もまだ手がけていないような高度なプロジェクトファイナンスに乗り出したりするなど、グローバルかつ先端的な事業にも携わっていました。コンテンツビジネスにいち早く目をつけたのも長銀で、ジョージ・ルーカスのルーカスフィルムのファイナンスアドバイザーを引き受けていたほどです。

そのときはまだ、イノベーションという言葉を知りませんでしたが、日本から世界へ出ていくような、あるいは世界にあって、日本にはまだないものを取り入れていくような、新しい産業や事業に携わりたいという思いがありました。また、当時の長銀の調査部には、『路地裏の経済学』などの著者として知られるエコノミストの竹内宏さんが在籍されていて、世銀やブルッキングス研究所への出向者など世界中のネットワークを駆使した調査の伝統が引き継がれていたのも魅力的でした。

入行後は、船舶金融の部署でプロジェクトファイナンスの基本を学び、1991年には、長銀の留学制度を利用してロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学して、各国の競争法・知財政策や国を越えたEUにおける政策立案などについて学びました。帰国後は、企業金融部に新設されたマルチメディア室で、情報・通信分野への参入を目論む大手自動車メーカーや鉄道会社などとともに、新規事業の立案やファイナンスを手がけます。

いまから思えば、外資系のコンサルティングファームが主流の中で、日本企業ならではの課題に対応した「和製コンサルティング」の先駆け的な動きをしていたと言えるのかもしれません。

――その後、さらなる留学経験を経て、複数の組織を経験されました。

八尋
マルチメディアやITで世の中がどう変わるのかを見極めようと、ロンドンコミュニケーションポリシーセンターに2度目の留学をしました。1997年にソニーに移ったのは、自分で実際にビジネスをやってみたいと思っていた矢先、新聞広告でソニーの採用募集を見たのがきっかけです。配属先は、当時の出井伸之社長直轄の部署として新設された通信サービス事業室でした。

ここでは、ケーブルテレビを運営する企業とともに、ブロードバンドを活用した大容量コンテンツを配信する新会社を立ち上げました。数年で急成長する中、常務取締役COO(最高執行責任者)として合弁会社の経営も手がけました。そのタイミングで、IPO(新規株式公開)の準備を始めることになったのですが、私自身は当時もてはやされていた「IPOでお金持ちになる」ことよりも、社会をよりよくしたいという思いが強かった。結局、もっと上流から根本的な改革に取り組もうと、2005年に、経産省の社会人中途採用一期生の採用募集に応募し、新規政策を創出する企画官として入省。ENA(フランス国立行政学院)留学経験のある羽藤情報政策課長(当時)やプリンストン大学で公共経営学を学んだ豊田商務情報政策局長(当時)の、通称千本ノックといわれる、何度プレゼンしても打ちかえされる政策立案という修行と、全国の産学を越えた研究所やベンチャーの視察に明け暮れました。

そのなかで経産省で最初に手がけたのが、コンテンツや各種データの解析や活用をめざした「情報大航海」プロジェクトです。委員長は、東京大学生産技術研究所の喜連川優教授(現・国立情報学研究所 所長)にお願いしました。このプロジェクトの中で、当時はまだあまり注目されていなかった大量データ活用に光を当て、多数の実証実験を実施したり、汎用技術を開発したりして、現在に続くビックデータ活用の基盤を構築しました。

その後、民主党政権が誕生して、政策立案の方針が大きく変わったのを機に、2010年、デジタル分野に注力し始めていたシャープへ移りました。ここでは、今後、各種端末をアプリで結び、クラウド上でコンテンツを楽しむ時代が来ると予見して、クラウドサービスの開発チームを牽引しました。残念ながら、シャープは2012年3月期決算で大幅な赤字を出し、私自身も優秀なエンジニアを次々リストラするという職務を負うことになり、退職者のリストに自分の名も加えて退職、しばらくの間、過去の企業経験をもとに、東工大大学院や東大の学生授業補佐のアルバイトをして暮らしました。

――日立コンサルティングに入社されるまで、ITビジネスのイノベーションと普及に格闘されてきたわけですね。

八尋
成功も失敗もいろいろありましたが、その経験が、いま手がけている日立の社会イノベーション事業に生かされているように思います。ただし、急激な社会の変化にあって、一社だけでできることは限られています。だからこそ、さまざまなパートナーやステークホルダーとともにビジネスエコシステムを築き、協創で社会の変革を促していく必要があるのです。

では、いかにして新たなビジネスモデルやビジネスエコシステムを創出し、よりよい社会を築いていけばいいのか――。その機動力となるのが、インターネットの普及する情報化社会の時代に生まれ、世界とすぐにつながる環境の中で育ち、学び、社会に出て活躍する若きリーダーたちの存在です。既存の枠組みにとらわれることなく、つくりたいモノやサービスを生み出すために、どういったリソースの組み合わせが有効なのかを考えることができる、彼らの柔軟な発想やスピード感から学ぶことは非常に多いでしょう。これから始まる連載では、ビジネスエコシステムの核となる若きイノベーターたち・創造者たちをゲストにお招きして、社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方について、ともに探っていきたいと思っています。

(構成・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

画像: 先駆者たちとともに創る「ビジネスエコシステム」
複数の組織で新ビジネスの立ち上げを主導

八尋俊英(やひろとしひで)

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

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