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「第5回:eスポーツやメタバースへ先行投資する」
これから伸びていくVR産業
八尋
前回、これからもデジタル分野の産業はますます伸びていくとおっしゃっていましたが、そのなかで、特にどういった事業が有望と思われますか?
若山
いま注目されているeスポーツやメタバースなど、バーチャルの世界はさらに大きく進展していくと見ています。実際に、我々のグループ会社のプリンストンでは、eスポーツのための椅子やヘッドセット、メモリなどの販売を手掛けていますし、Vチューバーで注目されるアバターキャラクター制作の会社に出資もしています。事業で連携するだけでなく、投資した会社の価値が上がってキャピタルゲインを得る場合もあるわけで、こうした分野の動きを非常に楽しみに注視しているところです。
八尋
eスポーツに関しては、今年(2023年)6月にシンガポールで第1回オリンピックeスポーツウイークが開催されます。eスポーツの競技人口は全世界で1億人以上、観戦者数も5億人を超えるとされていますからね。今後、大きく伸びていくことは間違いないでしょう。デジタル産業に間口を大きく開いているからこそ、そういった新産業にも素早く参入できるわけですね。
日本のモノづくり再興の好機
八尋
ところで、若山さんはつねに時代を先取りして歩んでこられたわけですが、今後の日本の産業をどう見ておられますか?
若山
日本はベースとなる技術力はしっかり持っていますし、やはり人が真面目に働く文化というのは、どこの国にも負けないと思います。日本という国は、世界でも非常に貴重な存在になっていくと見ています。
しかも、いまは円安傾向が続いていて、1ドル=150円は行きすぎとしても、130円台でも相対的に日本のコストは安いし、日本でモノをつくることに価値がある。いまや、台湾や韓国よりも日本の人件費のほうが安くなっていますからね。国力から見れば円安傾向はけっして良いとは言えませんが、この状況を逆手に取れば、日本の製造業の復活は十分にあり得ると思っています。
八尋
製造業では、円安傾向になる以前から、マザーファクトリーは日本に置こうとする動きがありました。知財の観点からも、やはり主要な部分の研究開発やコアな製品の製造は外に出さない戦略が必要です。ロシア・ウクライナ戦争を機に、半導体産業を再び日本に集中させようとする動きもある。「失われた30年」などと言われて行く末を悲観する声もありますが、私自身は、日本を取り巻く環境はけっして悪くはないし、いい方向に変わってきていることも多くあると思っているのです。
若山
同感です。
スタートアップへの期待とウェルネス
若山
もう一つ、私が期待しているのが、大学発のスタートアップです。我々も東工大のスタートアップと連携していますし、私自身、経済同友会のイノベーション・エコシステム委員会の副委員長を務めるなど、産官学でイノベーションを生み出すためのエコシステムづくりに注力してきました。研究開発の資金調達をサポートして、起業家・投資家双方が利益を得ていくしくみを構築したいと考えているのです。
八尋
規制緩和も進み、大学の先生がベンチャーに出資するといったことも当たり前になりました。起業家の側も、イグジット(EXIT)しやすい環境が整ってきています。いまや、学生時代に起業して、その後、改めて大企業に就職する人もいますからね。
投資家の意識も変わりつつあるし、政府もスタートアップへの投資を促す税制改革を進めています。日本の中だけでそこそこのリターンを得られるとなれば、スタートアップもより盛り上がりを見せていくだろうと思います。
若山
未来を担う若い起業家にアドバイスするとすれば、世の中の動きに一喜一憂しすぎないように、と言いたいですね。経営者というのは、細かいことをいちいち気にしていたら、それこそ神経が持ちません。だから私は社内で、「経営理念の前に、まずは健康第一です」と言っているのです。健康があってこその仕事であり、お金であり、地位である、と心から思います。
八尋
健康第一というのは、経営者に限らずすべての人にとって大切なことですね。
若山
平成の初め頃は我々もモーレツ社員で、朝から晩まで働いて、夜はお酒を飲んでというのが当たり前でしたが、いまはそういう時代ではありません。健康を害してまで働くなんてナンセンスです。これからの時代は、ウェルネスこそが重要だと思っています。
八尋
ウェルネスというのは、ビジネスにおいても伸びていく分野ですね。
若山
我々がいま、出資しているBodygram(ボディグラム)という会社は、スマートフォンのアプリを使って、服を着たまま身体の正面と横からの写真を2枚撮るだけで全身の身体サイズを採寸できるサービスを提供しているんですよ。健康管理や洋服の通販などにも適用できるとして注目されています。こういった新しい技術やサービスはこれからも次々に出てくるでしょうし、我々も人々のウェルネスに役立てられるよう積極的に事業に取り入れていきたいと考えているのです。
八尋
新しいビジネスの芽が次々に出てきますね。今後のますますのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)
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若山 健彦
ミナトホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 社長。
1989年、日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)入行。外資系証券会社を経て、2000年 イーバンク銀行(現・楽天銀行)を設立して代表取締役副社長兼COOなどを歴任。その後上場企業での代表取締役社長等を経て、2012年にミナトエレクトロニクス株式会社(現・ミナトホールディングス株式会社)の代表取締役社長、2019年より代表取締役会長兼社長に就任。社内の構造改革を進めるとともに、M&Aや海外展開を通じてミナトホールディングス・グループの売上高・収益力の大幅な伸長を実現している。東京大学卒業、米国スタンフォード大学経営大学院修了(MBA)。
八尋 俊英
株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長。
中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、2021年より東京工業大学 環境・社会理工学院イノベーション科学系 特定教授兼務、現在に至る。
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
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