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znug design 根津孝太氏/日立製作所 研究開発グループ 中垣亮・山岡士朗
2022年2月22日に日立の研究開発グループが配信したウェビナー「モビリティ “Moving into the Future City”」における鼎談の2回目。人間とモビリティとのこれからの関係性について、モーターの研究者であり鉄道ファンでもある日立の山岡士朗と、家族型ロボット「LOVOT」のデザインを手がけた根津孝太氏が意見を交換した。

「第1回:『身体拡張』としてのモビリティ」はこちら>
「第2回:人間のパートナーとしてのモビリティ」
「第3回:モビリティの安全保障」はこちら>
「第4回:新しい技術がもたらす、パーソナルモビリティの可能性」はこちら>

「乗せていただく」モビリティ、「相棒」のモビリティ。

丸山
前回お話しいただいた、モビリティを人間自身の「身体拡張」と捉えることの可能性に対して、今回のトピックは、パーソナルモビリティを人間にとってのパートナーとして捉えるという視点です。運転する本人とスムーズにやりとりができる、非常に調和した関係を作り出せるモビリティとはどのようなものでしょうか。まずは、主にモーターの研究開発に携わっている日立の山岡に語ってもらいます。

山岡
2つの観点があると思います。1つは、モビリティは憧れの対象であるという観点です。個人的な趣向の話になりますが、わたしは幼い頃から鉄道を見に行くのが何より楽しみでして、今でも鉄道に対して憧れを持っています。自分にとってあまりにも偉大な存在なので、鉄道に「乗る」のではなく「乗せていただく」という感覚がずっとあります。実はわたしの息子も鉄道が大好きなのですが、先日その話をしたら彼も同じ感覚だと言っていました。

画像: 日立 山岡士朗

日立 山岡士朗

もう1つは、モビリティはヒトと対等な存在やパートナーになり得るという観点です。

わたしは学生時代から内燃機関(※)の研究開発に携わり、どうすれば燃費を向上できるのか、排気量を減らせるのかというテーマを扱ってきました。一方、自動運転の分野では、どうすれば交通事故のリスクを減らせるかが研究開発の主眼に置かれています。つまり、ネガティブな要素をいかに排除していくかが研究開発の目的になりがちなのですが、それでよいのだろうかという疑問もわたしのなかにあります。

※ シリンダーなどの内部においてガソリンなどの燃料を燃焼させ、発生したガスや空気の熱膨張によって生じる力を動力として取り出す機関。

小学生のときに『ナイトライダー』という特撮のテレビドラマをよく観ていました。私立探偵機関の調査員をしている主人公が、自動車の形をした人工知能を相棒にして悪に立ち向かうというストーリーで、主人公と人工知能との関係性が完全に対等なのです。このように、モビリティがパートナーのような存在でいられる関係性を作ることができたらどうでしょうか。例えば自動運転中に想定外の事故を起こしてしまったときに、責任の所在がシステムか人間かを追求するのではなく、そのモビリティを所有している人が「ごめんなさい、うちの子が」と言えるシーンが当たり前になったら、世の中がもっとパーソナルモビリティを受け入れやすくなるのではないでしょうか。

画像: 左から根津孝太氏、日立の中垣亮、山岡士朗。

左から根津孝太氏、日立の中垣亮、山岡士朗。

プロダクトが社会参加する時代へ

根津
とても面白い視点ですね。まず言えるのは、モビリティを自分の身体の拡張と捉えるか、それとも他者として捉えるかに、正解も不正解もないということです。その上でお話しすると、モビリティに何らかの人格を見出すという発想は非常に大事なことです。

家族型ロボット「LOVOT(らぼっと※)」のデザインに携わってわたしが思ったのは、ユーザーがロボットを「所詮、機械だ」と思うのではなく、まるでそこに生き物が存在しているように感じることが大切だと。いわば魂が宿っているかのような生命感を覚えさせることが、これからは重要になっていくと思います。

画像: ※「命はないのに、あったかい」をコンセプトに、ロボットベンチャーのGROOVE Xが開発した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。その形状デザインを根津氏が担当した。

※「命はないのに、あったかい」をコンセプトに、ロボットベンチャーのGROOVE Xが開発した家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。その形状デザインを根津氏が担当した。

そう考えると、これからはモビリティに限らずさまざまなプロダクトにキャラクター性が求められていくはずです。人工知能を搭載したいろいろなモノが登場してきたときに、単なる機械として扱うのではなく、社会参加している1つのキャラクター、すなわちアクターと捉えることができたら、人々との関係性にも変化が生まれてくるのではないでしょうか。(第3回へつづく)

「第3回:モビリティの安全保障」はこちら>

画像1: 誰が為のパーソナルモビリティ?
【その2】人間のパートナーとしてのモビリティ

根津孝太(ねづ こうた)
クリエイティブコミュニケーター、デザイナー。1969年、東京生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。トヨタ自動車入社後、愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年、有限会社znug designを設立。多くの工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけ、ものづくり企業の創造活動の活性化にも貢献。「町工場から世界へ」を掲げた電動バイク『zecOO』、やわらかい布製超小型モビリティ『rimOnO』などのプロジェクトを推進する一方、GROOVE X『LOVOT』、トヨタ自動車コンセプトカー『Camatte』『Setsuna』など多数のプロダクトの開発も手がける。2014~2021年度 グッドデザイン賞審査委員。GROOVE X 株式会社 Chief Creative Officer、ヤマハ発動機株式会社 デザインアドバイザー、hide kasuga & Partners。著書に『アイデアは敵の中にある』(中央公論新社)、『カーデザインは未来を描く』(PLANETS)。

画像2: 誰が為のパーソナルモビリティ?
【その2】人間のパートナーとしてのモビリティ

中垣亮(なかがき りょう)
日立製作所 研究開発グループ 制御・ロボティクスイノベーションセンタ長。日立製作所に入社後、コンピュータビジョンを活用した自動外観検査技術の開発に従事。2000~2001年に米国ノースウェスタン大学にて画像・映像情報の復元技術の研究に従事。2010~2012年には(株)日立ハイテクに出向し、半導体製造向け欠陥レビュー装置の大手半導体メーカとの協創活動をリード。その後、技術戦略及び経営戦略企画の業務経験を積み、生産イノベーションセンタ、機械イノベーションセンタ長を歴任し、2021年より現職。モビリティやインダストリ(製造・流通業)のオートメーションに関わる研究マネジメントに従事。

画像3: 誰が為のパーソナルモビリティ?
【その2】人間のパートナーとしてのモビリティ

山岡士朗(やまおか しろう)
日立製作所 研究開発グループ 電動化イノベーションセンタ長。1999年、慶応義塾大学理工学研究科修士課程修了後、日立製作所に入社。日立研究所にて、自動車用エンジンシステムはじめとするモビリティのパワートレイン制御システムなどの研究開発に従事。2009年から日立ヨーロッパにて、大学との共同研究や鉄道プロジェクトに参画。帰国後、工場での製品量産立ち上げ責任者、自動運転システムやソフトウェアアーキテクチャなどの研究部長を経て、2021年より現職。自動車技術会 優秀講演発表賞(2005年)、同浅原学術奨励賞(2006年)など受賞、JSAEプロフェッショナルエンジニア認定(2009年)。博士(工学)。

画像4: 誰が為のパーソナルモビリティ?
【その2】人間のパートナーとしてのモビリティ

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

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