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NPO法人NELIS 代表理事 ピーター・D・ピーダーセン氏/日立製作所 谷崎正明
食を取り巻く環境問題への関心の高まりを受け、2023年3月28日、日立の研究開発グループは協創の森ウェビナー「環境への配慮と豊かな食生活の両立」を開催した。NPO法人NELIS代表理事 ピーター・D・ピーダーセン氏と日立製作所研究開発グループ 谷崎正明による対談では、さまざまなステークホルダーが絡む食の環境問題の解決に向けた、イノベーションを育む土壌づくりについて語られた。

「第1回:『食の環境問題』の現在地」はこちら>
「第2回:『食のイノベーション』を育む土壌づくり」
「第3回:農業と漁業を『再発明』する」はこちら>

ステークホルダー間のコンフリクトをどう抑えるか

横林
冒頭でお二人から、温室効果ガスの排出に加え、食料を生産するための土地の不足やフードロスの増加など、食にまつわるさまざまな環境問題が顕在化しているというお話をいただきました。問題の解決に取り組むために、わたしたちには何ができるのでしょうか。

画像: ナビゲーターの日立 横林夏和

ナビゲーターの日立 横林夏和

谷崎
冒頭にも申し上げたように、わたしたちが普段とっている食事をこのまま続けていくだけで環境問題は深刻化していきます。それを食い止めるには消費者一人ひとりが毎食、環境に負担をかけない食事を心がける必要がありますが、一方で食生活の豊かさが失われていくことにもつながりかねません。環境に配慮しつつ食文化を守り続けるためには、消費者だけでなく行政、生産者、食品メーカー、食品提供者という多様なステークホルダーのアクションが欠かせません。

画像: 日立 谷崎正明

日立 谷崎正明

ただ、実際にアクションを起こすに当たっては、どうしてもステークホルダー間で何らかのコンフリクト(摩擦)が生じてしまいます。例えば、小売業が消費者に対して大豆ミートという食肉の新たな選択肢を提示できたとしても、消費者にとっては食べる前に湯戻ししたり水切りしたりといった新たな手間がかかってしまいます。あるいは飲食店にとって、まだまだ生産コストが高い代替肉を継続的に受け入れることは難しいでしょう。また、アメリカでは、行政と食品メーカーが代替肉の表記方法を巡り訴訟問題に発展するというコンフリクトが実際に発生しています。

画像: ステークホルダー間のコンフリクトをどう抑えるか

社会インフラを支える日立としては、テクノロジーによって、フードロスをはじめとするフード・バリュー・チェーンの無駄を削減したり、大豆や昆虫由来の食材の開発期間を短縮したりするというアプローチで、ステークホルダー間のコンフリクトを最小限にとどめたいと考えています。さまざまなステークホルダーが歩み寄り、環境問題の解決と食文化の豊かさを両立する。そんな将来像を描いています。

マルチステークホルダーの共創を促すプラットフォーム「EIT Food」

ピーダーセン
EUでは、マルチステークホルダーで社会課題の解決に取り組めるよう、さまざまなプラットフォームが用意されています。その1つが、R&Dを促進する欧州イノベーション・技術機構(EIT)です。EITでは近年、食に関わる6つのフィールド「タンパク質の多様化」「サーキュラー・フードシステム」「デジタルトレーサビリティ」「持続可能な農業」「持続可能な養殖」「パーソナライズされた栄養」において、食と農のイノベーションを推し進めています。

画像: マルチステークホルダーの共創を促すプラットフォーム「EIT Food」

EIT は今、世界最大級の食品イノベーションコミュニティ「EIT Food」を運営しています。個人からベンチャー、大手企業に至るまでさまざまなステークホルダーが、研究開発プログラムに応募して助成金を得たり、コミュニティ内で共創したりといった取り組みを通じて、EU内の食のイノベーションを加速しています。日本でも、EITのようにさまざまなステークホルダーが参画できるイノベーション促進の緩い枠組みが必要です。

日系企業の社員×海外の次世代イノベーター

横林
多様な業界を巻き込んだ食のイノベーション創生活動は、日本でも始まっています。ピーダーセンさんが代表理事をされているNPO法人NELISのプロジェクト「4Revs-共創のエコシステム」がまさにその1つかと思います。

ピーダーセン
そうですね。4Revsは4 Revolutionsの略でして、「食料と農業、水資源、資源・サーキュラー・生態系、エネルギー・気候変動という4つの領域において革命的なイノベーションが必要とされている」という意味を込め、2020年に始動しました。日本のイノベーション・エコシステムとなるべく、日系企業の社員と海外の次世代イノベーターによる共創を促すプラットフォームとして機能しています。その中で、食と農業において世界各地からイノベーションのシーズを集めて活動しています。

画像: NPO法人NELIS代表理事 ピーター・D・ピーダーセン氏

NPO法人NELIS代表理事 ピーター・D・ピーダーセン氏

4Revsで重視している「Global by Design」の視点は、日本の産業にとって非常に大きな意味を持つものです。4Revsは当初からグローバルをフィールドにシーズを発掘してきました。各大陸にプログラムマネージャーを配置し、その下にリサーチャーを配属させることで、つねに世界中からシーズを収集しています。現在日立を含む26社から340名ほどの社員の方々が参画し、イノベーションを創出しようと共創に励んでいます。(第3回へつづく)

関連リンク Linking Society

■プログラム1
「食を取り巻く環境問題」
■プログラム2
「テクノロジーで切り拓く食の未来」
■プログラム3
「これからの食の豊かさへの物差し」

「第3回:農業と漁業を『再発明』する」はこちら>

画像1: 環境への配慮と豊かな食生活の両立
【その2】「食のイノベーション」を育む土壌づくり

ピーター・D・ピーダーセン(Peter David Pedersen)
NPO法人NELIS代表理事
1967年、デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。高校時代に日本に留学したことをきっかけに、のべ30年以上を日本で過ごす。大手企業や大学、経済団体、省庁などのCSR・環境コンサルティングやサステナビリティ戦略支援に従事。現在、若手リーダーを育成するNPO法人NELIS代表理事のほか、大学院大学至善館専任教授、株式会社トランスエージェント会長を務める。著書に『しなやかで強い組織のつくりかた ―21世紀のマネジメント・イノベーション―』(生産性出版,2022年)、『SDGsビジネス戦略-企業と社会が共発展を遂げるための指南書-』(日刊工業新聞社,2019年,共著)ほか多数。

画像2: 環境への配慮と豊かな食生活の両立
【その2】「食のイノベーション」を育む土壌づくり

谷崎正明(たにざき まさあき)
日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ センタ長
1995年に日立製作所に入社後、中央研究所にて地図情報処理技術の研究開発に従事。2006年よりイリノイ大学シカゴ校にて客員研究員。2015年より東京社会イノベーション協創センタ サービスデザイン研究部部長として顧客協創方法論をとりまとめる。2017年より社会イノベーション事業推進本部にてSociety5.0推進および新事業企画に従事したのち、研究開発グループ 中央研究所 企画室室長を経て、2021年4月より現職。

画像3: 環境への配慮と豊かな食生活の両立
【その2】「食のイノベーション」を育む土壌づくり

横林夏和(よこばやし かな)
日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 主任
日立製作所に入社後、ITプロダクツの販売戦略立案やパートナービジネスを推進。その後、社会イノベーション事業統括本部にて、スマートシティやヘルスケア関連の新事業開発のほか、コミュニティやステークホルダーとのリレーション強化による社会課題解決型の次世代事業開発に従事している。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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