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2023年12月14日、日立製作所の研究開発グループは「好奇心が駆動する社会― Society 5.0に向けて」と題し、協創の森ウェビナーを開催した。Society 5.0の実現に向けて、サイバーとフィジカルをいかに融合し、参加型社会を形成していくべきか。メタバースやWeb3といったサイバー領域のテクノロジーは、生活者にどんな影響を与えるのか。メタバース事業を推進するKDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長の舘林俊平氏をゲストに迎え、日立製作所 研究開発グループの沖田英樹との対談を3回にわたってお送りする。

「第1回:メタバースがもたらす、コミュニケーションの変化」
「第2回:メタバースで加速する、社会課題解決」はこちら>
「第3回:流動化・分散化する、まちへの関わり方」はこちら>

生活者観点から、リアルとデジタルの融合がもたらす変化を考える

福丸
ナビゲーターを務めます、日立製作所 研究開発グループ デザインセンタの福丸諒と申します。本日の対談では、リアルとデジタルがどのようにつながると生活の風景が変わっていくのかをテーマに、メタバース事業に取り組まれているKDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長の舘林俊平さんをお迎えし、日立製作所 研究開発グループ デザインセンタで社会課題協創研究部 部長を務める沖田英樹との対談をお送りします。

画像: 左からナビゲーターの日立製作所 福丸諒、KDDI株式会社 舘林俊平氏、日立製作所 沖田英樹

左からナビゲーターの日立製作所 福丸諒、KDDI株式会社 舘林俊平氏、日立製作所 沖田英樹

舘林
KDDIの舘林と申します。2006年にKDDIに入社後、移動体通信のネットワーク設計を担当しました。2012年から事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」の推進や、スタートアップへの投資を目的とした「KDDI Open Innovation Fund」に携わり、スポーツやエンタメ、XR(クロスリアリティ※)の事業を推進しています。こういったオープンイノベーション活動に加え、2023年に提供を開始した「αU metaverse(アルファユーメタバース)」「αU wallet」「αU market」というWeb3のサービス群「αU」を管掌しています。本日はよろしくお願いします。

※ 現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)はいずれもXRに含まれる。

沖田
日立製作所 研究開発グループ デザインセンタの沖田と申します。通信ネットワークの研究者としてキャリアをスタートしたのち、セキュリティ関連の新事業創生に従事してきました。現在は研究開発の立場から新事業の創生に関わり、スマートシティ分野を中心に新たなソリューションの事業化に取り組んでいます。よろしくお願いします。

渋谷のまちに出なくても、渋谷ならではの体験を

福丸
まずはこれまでのお二人の取り組みから、サイバーとフィジカルの融合が引き起こす“変化の胎動”をつかんでいきたいと思います。はじめに舘林さん、KDDIがメタバース事業「αU metaverse」に取り組むに至った経緯をご紹介いただけますか。

舘林
発端は、2020年に5Gのサービス提供を開始したことです。5Gの通信環境がもたらすメリットを一般のお客さまに伝える手段として、大容量コンテンツが配信されるシーンを実感できる仕掛けをつくりたい――そう考えたときに浮かんだまちが渋谷でした。渋谷は音楽のまちでもあるし、ファッションやアートのまちでもある。そういったユニークな渋谷の文化をAR(※)の体験として提供したいと考え、2019年に「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」を発足しました。

※ Augmented Reality(拡張現実):現実世界に仮想世界を重ね合わせて表示する技術。

画像: KDDI株式会社 舘林俊平氏

KDDI株式会社 舘林俊平氏

例えば、渋谷の特定の場所に行くと、スマートフォンに音楽が配信される。まちにスマートフォンをかざすと、リアルタイムの電車の混雑度やまちの盛り上がり度が可視化できる。ARコンテンツを通じて、渋谷ならではの面白い体験を提供できたという手応えを得ました。ところがその後、コロナ禍によって、まちを介した体験の提供が難しくなったのです。

ARを通じた体験を、渋谷に出なくても味わっていただけるにはどうすればよいか――。たどり着いたアイデアが、2020年5月にオープンした「バーチャル渋谷」です。渋谷のまちをVR空間に再現し、そこでさまざまな体験ができるようになれば、コロナ禍でもお客さまにエンターテインメントをお届けできると考えました。

画像: 渋谷のまちに出なくても、渋谷ならではの体験を

ビルと街区のシーンを変える「リアル×デジタル」の力

福丸
「αU metaverse」の前段として、都市の情報を拡張することで都市の回遊性や検索性を向上させていく取り組みがあったということですね。都市の情報的拡張という観点で、日立が社会インフラ整備において取り組んでいることはありますか。

沖田
ビルや街区といったフィジカルな場に、デジタルを生かしていくという取り組みをしています。

画像: 日立製作所 沖田英樹

日立製作所 沖田英樹

例えばビルの場合、設備管理の人員不足を解消するために、ロボットを活用しています。ただ、空間に対する認識においてどうしても人間とのズレが生じてしまいます。ズレを解消するために、ビル空間内の人物の位置や設備の状態といった情報を人間と共通の認識で捉えられる「コモングラウンド」というデジタルなシステムを構築しています。

画像1: ビルと街区のシーンを変える「リアル×デジタル」の力

街区では今後、ドローンを使った配送が増えていくと思われます。そうなった場合、地面だけではなく空も含めてデジタルに管理していく必要が生じます。どこにどんな高さのビルがあるのか、風の向きや速度はどうか――ドローン同士の衝突を避けるために、各ドローンの位置や間隔などの情報をすべてデジタル空間上に落とし込み、安全な経路や飛行のタイミングを算出する。そういった仕組みの事業化に向けて、試行錯誤を重ねています。

画像2: ビルと街区のシーンを変える「リアル×デジタル」の力

5G時代のコミュニケーションのあり方

福丸
2020年の「バーチャル渋谷」オープンから2023年の「αU」リリースにかけて、KDDIではどのような取り組みがあったのでしょうか。

舘林
「バーチャル渋谷」を運用する中で、2つの気づきを得ました。1つは、リアルのまちをバーチャルに再現したことによって、文化に関するさまざまな情報が流れ込んでくるというポジティブな効果。もう1つは、店舗の商標や建造物の画像を使用して良いか否か、法的な判断が難しい領域が存在します。実際の運用経験を経て初めて得られた気づきをもとに、メタバースのあり方について議論を重ねた末、「バーチャル渋谷」を進化させたWeb3サービス群「αU」を2023年にリリースしました。

画像: 5G時代のコミュニケーションのあり方

3Gの時代は、メールをはじめとする1対1のコミュニケーションやウェブ閲覧などが主流でした。その後、4Gのスマートフォンが普及し、だれもが発信者になれるようになったことで、カメラで写真や動画を撮ってSNSでシェアするという文化が形成されていきました。

5Gの時代になった今、コミュニケーションはどう進化していくのでしょうか。まず、発信者になる人の数が爆発的に増えるはずです。そして、これまで主に2Dでしか見られなかったコンテンツを、3Dで見せることができるようになります。さまざまな3D空間を用意することで、多くの方々がクリエイターになれる環境を整備したい。そんな思いが「αU」に込められています。(第2回へつづく

「第2回:メタバースで加速する、社会課題解決」はこちら>

画像1: リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか
【その1】メタバースがもたらす、コミュニケーションの変化

舘林俊平(たてばやし しゅんぺい)
KDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長
2006年、KDDI株式会社に⼊社。移動体通信のネットワーク設計を担当したのち、2012年よりKDDI∞Labo、KDDI Open Innovation Fundに関わり、スポーツ、エンタメ、XR事業、バーチャル渋谷などを担当。2021年、ビジネス開発部 副部長としてモビリティ領域のJV設立を推進。2022年4月、BI推進部長としてKDDI∞Labo、KDDI Open Innovation Fund、KDDI Digital Gateを統括。2023年4月より現職。オープンイノベーション活動に加え、αU metaverse、αU Wallet、αU Marketなどの事業を管掌している。

画像2: リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか
【その1】メタバースがもたらす、コミュニケーションの変化

沖田英樹(おきた ひでき)
株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ 社会課題協創研究部 部長
日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダを経て、現職。

画像3: リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか
【その1】メタバースがもたらす、コミュニケーションの変化

福丸諒(ふくまる りょう)
株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ デザイナー
日立製作所入社後、鉄道情報サービスUI/UX設計を担当。2017年から未来洞察手法の研究と実践により中長期的な事業機会探索を行うビジョンデザインを推進。英国日立ヨーロッパ駐在を経て、現職。

Linking Society

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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