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「αU metaverse」をはじめとするWeb3サービス群「αU」を展開するKDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長の舘林俊平氏と、社会インフラ整備の観点からデジタルツインの活用をリードする日立製作所 研究開発グループの沖田英樹による対談、その2。リアルとデジタルの融合が社会から求められる背景と、社会に起こし得る変化について語る。

「第1回:メタバースがもたらす、コミュニケーションの変化」はこちら>
「第2回:メタバースで加速する、社会課題解決」
「第3回:流動化・分散化する、まちへの関わり方」はこちら>

労働人口減少とメタバース

福丸(ナビゲーター)
ここからは、リアルとデジタルの融合が必要とされる社会的な背景について考えてみたいと思います。舘林さん、いかがでしょうか。

舘林
まず大きな問題として、労働人口の減少が考えられます。今よりも少ない労働力で現在と同じ仕事量を消化するためには業務の効率化が必須であり、リアルとバーチャルの融合が欠かせません。

KDDIが展開している「αU metaverse」では今、メタバース空間の拡張にともない、アルバイトを雇っています。初めて「バーチャル渋谷」を訪れた人に「今、あそこで音楽ライブやってますよ」「あのお店に行ったら服が買えますよ」と案内をする。あるいは、メタバースに不慣れなユーザーに対し、アバターの動作説明をするという仕事です。

アルバイトの方々は、メタバース上では渋谷で働いているのですが、実際には北海道や九州など、全国各地の自宅からスマートフォンで「バーチャル渋谷」にアクセスし、仕事をしているわけです。こういった新しい働き方が、労働人口減という問題の解決につながるのではないでしょうか。

画像: KDDI株式会社 舘林俊平氏(右)

KDDI株式会社 舘林俊平氏(右)

社会インフラ整備とメタバース

沖田
今の舘林さんのお話は、メタバース空間ならではの仕事の形ですね。メタバース空間を介して、だれかとだれかをつなげることで価値が生まれる。それって実は、リアル空間でもできることだと思うのです。

近年のEVの普及を受けて日立では、個人が所有するEVを災害時の給電に提供していただく取り組みをしています。災害が発生して電力の供給が止まってしまったときに、避難所や一般家庭に住民が所有するEVを派遣、電力を供給いただくというものです。ただ、どこに供給すればより多くの人々が助かるかは、個人ではなかなか判断がつきません。そこで日立は、蓄電所としてのEVと電力需要のマッチングを図るサービスの開発に取り組んでいます。こういった地域への貢献がメタバース空間に履歴として残せるようになれば、リアルとデジタルのつながりが、より加速するのではないでしょうか。

画像: 社会インフラ整備とメタバース

また、舘林さんが指摘されるように労働人口が減少していく中で、社会インフラをいかに構築・運用していくべきかも重要な課題と考えています。デジタル空間とリアル空間との連携がしっかりとれていれば、インフラの今の状態を住民の方々によりわかりやすく伝えることができます。住民同士が共通認識を持った上で、インフラ整備のあり方について意見を出し合える――そういった仕組みづくりも必要になってくると思います。

画像: 日立製作所 沖田英樹

日立製作所 沖田英樹

福丸
インフラがどのような仕組みで運用されているのかを住民間で共有し、インフラのあり方を住民が主体的に考えていく――そんな未来像が、おぼろげながら見えてきました。

「都市連動型メタバース」がリアルのまちに及ぼす影響

福丸
舘林さんが推進する「αU」の活動は、渋谷などの実在する都市をモデルにした「都市連動型メタバース」を掲げています。メタバースが実在するまちに与える影響とはどのようなものでしょうか。

舘林
そもそもメタバースの面白さは、リアルではできないことをできる空間であり、そのほうがユーザーにとってもわかりやすいという面はあると思います。一方で「都市連動型メタバース」がめざしている姿は、例えば渋谷のまちをモデルにしたメタバース空間で何かが起きると、リアルの渋谷のまちで活動している人々にポジティブな影響を与えることです。

画像: 「都市連動型メタバース」がリアルのまちに及ぼす影響

例えば、わたしがボーダーのシャツを買うために渋谷のまちに出かけたとします。でも、渋谷のアパレルショップを転々と歩き回って、気に入ったシャツを探すことは結構大変です。

では、メタバース空間ならどうか。リアルとバーチャルのデータがきちんと連携されていれば、ボーダーシャツ専門アパレルの「メタバース渋谷店」をつくることだってできます。わたしがそこでボーダーのシャツを買うと、それを出品したリアルな渋谷のアパレルショップが収益を得られる。そんな仕組みを構築できれば、生活者が渋谷のまちを転々とする手間が省けますし、店舗にとっても商品の販売チャネルが増えることになります。

優れた検索性や、移動する手間の解消といったバーチャル空間の特性を生かすことで、リアル空間が持つ価値を高めることができるのです。

メタバースで変化する、地域コミュニティのあり方

沖田
面白いですね。社会インフラ整備の観点から見ると、舘林さんの今のお話の逆――リアル空間における行動をバーチャル空間に写像することで新たな価値を生み出せるかもしれません。例えば、先ほどのEVの例でもお話ししたように、生活者の方々がリアル空間で社会インフラ整備に貢献していることがあれば、それをメタバース空間上で可視化して共有する。さらに、インフラに対する意見を住民の方々から募る際に、普段から貢献度の高い人の声を視覚的に大きく表示するなど、住民同士を媒介する手段としてメタバース空間が機能するとよりよいのではないでしょうか。

画像: メタバースで変化する、地域コミュニティのあり方

福丸
まちに対する関与を深めていく文脈においても、メタバースが機能する可能性がある、と。例えば、地域において再生エネルギーをどのように導入するかを判断する場合に、AとBという選択肢があるとします。どちらにするか投票で決めるという方法ではなく、2つの選択肢の間にグラデーションがあることも認めた上で、実験したうえで判断したり、住民同士が意見を出し合ったりという社会インフラへの関わり方が、メタバースを通じてできるかもしれない。

沖田
メタバースだからこそ、一人ひとりが意見を表明しやすいという点も大きいと思います。

福丸
確かにそうですね。個人間のコミュニケーションが多元化するだけでなく、リアルにおけるコミュニティのありようも変化してくる。そこにメタバースの可能性があるように思います。(第3回へつづく

「第3回:流動化・分散化する、まちへの関わり方」はこちら>

画像1: リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか
【その2】メタバースで加速する、社会課題解決

舘林俊平(たてばやし しゅんぺい)
KDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長
2006年、KDDI株式会社に⼊社。移動体通信のネットワーク設計を担当したのち、2012年よりKDDI∞Labo、KDDI Open Innovation Fundに関わり、スポーツ、エンタメ、XR事業、バーチャル渋谷などを担当。2021年、ビジネス開発部 副部長としてモビリティ領域のJV設立を推進。2022年4月、BI推進部長としてKDDI∞Labo、KDDI Open Innovation Fund、KDDI Digital Gateを統括。2023年4月より現職。オープンイノベーション活動に加え、αU metaverse、αU Wallet、αU Marketなどの事業を管掌している。

画像2: リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか
【その2】メタバースで加速する、社会課題解決

沖田英樹(おきた ひでき)
株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ 社会課題協創研究部 部長
日立製作所入社後、通信・ネットワーク分野のシステムアーキテクチャおよびシステム運用管理技術の研究開発を担当。日立アメリカ出向中はITシステムの統合運用管理、クラウドサービスを研究。2017年から未来投資本部においてセキュリティ分野の新事業企画に従事。2019年から社会イノベーション協創センタにおいてデジタルスマートシティソリューションの研究に従事。同センタ 価値創出プロジェクト プロジェクトリーダを経て、現職。

画像3: リアル×デジタルが私達の暮らしの何を繋ぐのか
【その2】メタバースで加速する、社会課題解決

福丸諒(ふくまる りょう)
株式会社日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ デザイナー
日立製作所入社後、鉄道情報サービスUI/UX設計を担当。2017年から未来洞察手法の研究と実践により中長期的な事業機会探索を行うビジョンデザインを推進。英国日立ヨーロッパ駐在を経て、現職。

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