「第1回:GフォーカスとGショック」
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※本記事は、2022年2月9日時点で書かれた内容となっています。

僕は10年ほど前から、書評を副業としています。もともと読書は大好物で、のべつ本を読んでいます。以前から、誰に見せるわけでもないのに読書メモや感想文を書いていました。好きな本を読み、感想を文章にして発表し、それを読んでくれる人がいる。しかもおカネも(わずかばかり)いただける。発表が大スキな僕にとっては、夢のような話です。

新聞や雑誌から単発で書評の注文をいただくこともありますが、ホームグラウンドは連載です。いまは『日経ビジネス』と『週刊現代』の2つのメディアで書評を連載しています。連載を担当していると、毎号雑誌が自宅に送られてきます。書評連載を始めるまで、『週刊現代』のような週刊誌を読むという習慣がなかったのですが、読んでみると、結構新鮮で面白い発見があります。

以前にアウトテイクで触れたことがありますが、『週刊現代』の妙はその厳密な顧客ターゲットの設定にあります。最初から最後まで、70歳以上の高齢男性(だけ)をターゲットにして誌面を構成している。この戦略を、私的専門用語では「現代」の頭文字をとって「Gフォーカス」と呼んでいます。

Gフォーカスは実に合理的な戦略です。今の時代、紙の雑誌は、ネットメディアに追いまくられて守勢一方です。当然売り上げはきびしい。ということは、誌面作りにコストはかけられない。雑誌でいちばんコストがかかるのは、なんといっても取材です。「文春砲」のように時間をかけて政治家や芸能人のスキャンダルを追う。これは手間ひまとコストがかかります。だから『週刊現代』はスクープには一切手を出さない。さまざまなコンテンツの編集の妙でターゲット読者をひきつける。それがG(爺)にフォーカスした誌面作りという戦略になって表れています。

戦略の一つの本質は捨象にあります。Gのみを喜ばせる。そのためには、ほかの人からどう思われようが構わない。若い女性はもちろん、若い男性が『週刊現代』を読んでも、面白くもなんともない。おそらくどん引きするでしょう。この割り切りが戦略として実にすがすがしい。

僕の最大の発見は、とにかく『週刊現代』は毎週毎週ずーっと同じ話をしているということです。ひたすら同じ話を繰り返す。これには驚愕しました。私的専門用語でいう「Gショック」です。

女性誌ですと、ファッションや美容、グルメなど、特定のテーマを繰り返し特集するものですが、『週刊現代』も3つの話を手を変え品を変え回していくのが基本となっています。ひとつ目が「昔は良かった、熱かった」という思い出、2つ目がお色気、3つ目が健康およびその延長上にある死です。

毎号必ず「昭和40年代の曲限定 あなたなら何を歌う」、「中島みゆきと荒井由実がいた1975年」、「夏目雅子 思い出の地を旅する」といった懐古記事が並びます。Gのハートを直撃する思い出話です。

考えてみると、現在のGの方たちもかつてはY(ヤング)でした。GがY真っ盛りだった1970年代には、すでにロックのカルチャーがありました。現在のGも、グンゼYGのTシャツ(当時はまだグンゼYG はなかったかな?)にベルボトムのジーンズ、足元はロンドンブーツ、長髪に花柄のサイケなハットを乗せて、CAROL(※)のラストコンサートに行っていたはずです。ところが、今スーパーで買い物をしている70代のG世代の老夫婦を観察すると、ユルユルのカーディガンに地味な色のコットンパンツとウォーキングシューズといった典型的なGスタイルになっています。

※CAROL(キャロル):1972年に結成し同年にデビュー、1975年に解散した日本のロックバンド。メンバーは矢沢永吉、ジョニー大倉、内海利勝、ユウ岡崎。

これはどういうことでしょうか。もちろん年齢を重ねることで時代とズレていくのでしょう。それは仕方がない、僕にしても、つばが真っ直ぐ平たくなっている野球帽だけは抵抗があります。野球帽のつばだけはカーブした曲面であってほしい世代です。時代とのズレが生じることは避けられない。ただし、です。それ以上に、Gは自ら進んでGスタイルに身を投じているように思えて仕方がないんです。

自分を例に考えてみても、若いころは都はるみの歌の良さがまったくわかりませんでした。ところが今、都はるみの『涙の連絡船』を聴くと確実に泣けます。『アンコ椿は恋の花』なら号泣できます。人間は年をとると自然にG趣味になるようにできている。人間の遺伝子にG因子が埋め込まれているとしか思えません。

2つ目が、お色気記事です。『週刊現代』には毎回グラビア記事、それも袋とじというものがあるのです。袋とじのグラビアでは、G世代のアイドルだった僕と同世代の女優やかつてのアイドルが体を張って頑張っています。50を過ぎても結構きれいな人が多い。50を過ぎて素敵な女性は本当に素敵なものです。本誌のお色気系の記事もディープな世界でわりと笑えるのですが、EFOとは若干合わないので割愛いたします。ご関心がある方は、ペーパーナイフを用意したうえで、『週刊現代』に当たってください。

このように『週刊現代』を読んでいるとGショックの連続攻撃なのですが、ライバル誌の『週刊ポスト』も同じようにずっと3本柱のローテーションでやっているらしい。『週刊現代』の書評を始めて3年目に入りました。最初は2年の約束だったのですが、1年延長していただけました。いずれ打ち切られるかもしれません。そのときは『週刊ポスト』で書評をやらせていただけないものかと画策しています。(第2回へつづく)

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画像: 初老の老後―その1
GフォーカスとGショック。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

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八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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