「第1回:『発表』が大スキ。」
「第2回:筋金入りの『発表体質』。」はこちら>
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「第4回:伝えたいことだけを伝える。」はこちら>

※本記事は、2021年12月3日時点で書かれた内容となっています。

今回のテーマは「発表」です。僕は小さいときから発表という行為が大スキなんです。どのくらいスキなのかということを理解していただくために、まずはひとつの実例をご紹介したいと思います。

大東亜のフセイン

フセインのイラクが迷惑なことをやってくれている。攻撃を受けた国の人々はもちろん、イラクの人々も「耐乏生活」を強いられて大変だろう。サウジアラビアは苦労が絶えないし、ヨルダンはびっくりしているし、例によってイギリスは怒っているし、アメリカは派兵を進めているし、ソ連は遺憾に思っている。そして日本はといえば、遅い遅いといわれながらも金を出さなければいけないことになった。

日本にとって、イ・イ戦争は「いつ終わるのか」であり、アフガンは「オリンピックなし」であり、ベトナム戦争は「安保反対」であり、朝鮮戦争は「特需景気で戦後復興」であり、世界大戦は「一億火の玉」であり、日清・日露は「乃木大将」であり、そして「クウェート侵攻」は「金を出す」。アメリカ、イギリスは歴史的に見て相当凄いことをしておきながら、今度のようなことがあるとしゃあしゃあと「正義」を言う。フセインのイラクはというと、このところ戦争ばかりしていて、もうディスコティックのお立ち台娘のように発情している。

イラクが盛り上がっているのをテレビ・ニュースでみて、45年前の日本もこんな感じだったんじゃないか、と「大東亜戦争」の世界が妙にリアルに想像できた。その頃の日本は、国際的な位置づけでは今のイラク程度のポジションだったのではないか。「民族解放」を大義名分に、韓国や中国や東南アジアに乗り込んでいく。国民は、というか当時は「臣民」なのだけれど、お国のために「耐乏生活」を強いられる。だけれどもみんなが発情しているため、戦意はどんどん高揚していく。朝鮮を支配し、満州を作り上げ、ますます日本は発情していく。そのうちに人々は勝つまで欲しがらない一億火の玉になってしまい、戦争へいったり、軍事工場で働いたり、銃後は任せてと胸を張ってみたり、ちょうちん行列をしたりする。そのあげくに竹やりを作ったり、空襲の中を逃げまどったりしていたのである。

イラクの人々がちょうちん行列をすることはないと思うけれども、その盛り上がり方は、15年戦争のはじめの頃の日本、ABCDで包囲されて外交解決に苦慮しながらいざというときのために緊張している日本の盛り上がり方とかなり似ているのではないだろうか。

そうだとすると、当時の日本を経済制裁で締め上げていたアメリカとかイギリスの人々は、フセインの騒動をよそにけっこう安穏と暮らしている今のわれわれのようなものだったのかもしれない。そういえば、アメリカの古い映画を見ていると、けっこう金をかけた面白いやつが戦時中のものだったりする。

今のわれわれが日本でこうしているように、当時のアメリカやイギリスの連中にとっては、戦争なんて海の向うでやっているものであり、大部分の人は普通通り朝食を食べて新聞を読んで会社にいって、同僚と冗談のひとつもいいながらごく当たり前にやっていたのではないか。家に帰ってきてからは奥さんと2人でニュースを見ながら「日本もがんばっちゃってひどいことするな」「そうよねえ、迷惑しちゃうわ」「ところで、きょうの夜御飯なに?」「うーんと、ステーキとマッシュポテトよ」と、処理していたのではないか。

こう考えてみると、盛り上がって燃え上がっているうちに体が火の玉になってしまった50年ぐらい前の日本人と、その危機にさらされている現在のイラクの人は、本当に気の毒だ。気の毒ではあるが、しかし、そういうものなのである。軍事行動が「そういうもの」であるからこそ、われわれは生活のレベルで戦争にならないような行動をとらなければならない。

これは、1990年にイラクがクウェートに侵攻した当時、学生だった僕が書いた文章です。誰かに頼まれたわけではなく、どこかに発表する予定もない。あえて言うと、自分で自分に発表している文章です。なので、僕以外の誰も読んだことがありません。はじめてここで対外的に発表したわけですが、僕のパソコンに残っている昔のファイルを調べると、こういうものがやたらとたくさんあるんです。

誰からも注文がこない頃から、僕はこういう「発表」活動をやっていました。自分でもヘンだと思うぐらい発表がスキ。次回から、その理由を改めて考えてみることにします。(第2回へつづく)

「第2回:筋金入りの『発表体質』。」はこちら>

画像: 発表-その1
「発表」が大スキ。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

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