「第1回:婚活に見る獣性。」はこちら>
「第2回:スペックの誤謬。」はこちら>
「第3回:獣性の対極にある『品』。」
「第4回:欲望に対する速度。」はこちら>
「第5回:潔さ(いさぎよさ)。」はこちら>

※本記事は、2021年9月1日時点で書かれた内容となっています。

『57歳で婚活したらすごかった』『婚活したらすごかった』という石神さんの本を読んで改めて思ったことは、獣性むき出しの「なりふり構わず」の状態というのはやはりよろしくない。人間にとって「なり」と「ふり」は本当に大切だということです。ありていに言えば「品」です。

品があるというのは、人間の価値の最上位にあるものかもしれません。しかしこれが極めて微妙で、つかみどころがない。行動としては非常に穏やかで静かなのに下品な人がいれば、一見下品な行動を取っているのに大変に品を感じさせる人もいる。この辺が微妙なところです。

例えば僕は、YouTubeで『お笑いバックドロップ』という番組をやっているテリー伊藤さんに、品を感じます。元々はテレビプロデューサーで、途中からテレビに出る側になった方ですが、僕はテレビを見ないのでテレビに出ているテリー伊藤さんのことは知りません。YouTubeは、余生を謳歌するつもりでやりたいことをゆるりとやっていくチャンネルというコンセプトで、とにかくバカなことをやったり言ったりしているのですが、なぜか妙に品を感じるんです。

テリーさんのYouTubeによく出てくる人で、イクラちゃんという人がいます。井倉光一さんというシンガーです。イクラちゃんは僕よりも三つ年上の先輩で、僕の地元である鷺沼のスターなんです。同じ町の先輩で、若い頃にイクラちゃんはMOON DOGSというバンドでメジャーデビューしています。僕の所属するバンドBLUEDOGSのバンド名は、イクラちゃんのMOON DOGSにインスパイアされてつけたもので、昔から一方的に敬愛している人です。

このイクラちゃんも、見かけや言動はワルなのですが、実際はわりと上品。いつも下品な冗談を飛ばしているのですが、にじみ出る品の良さを感じます。このにじみ出るというのが人間の品の不思議なところです。あまりに微妙なものなので当然婚活サイトのプロフィールには書くことができません。

品はあまりにも複雑な概念なので、帰納的にしか接近できません。そこで、自分の知っている範囲で品のある人を思い浮かべてみます。まず浮かぶのは僕の心の師である高峰秀子さんです。しかし残念ながらお会いしたことがない。会ったことがある人で言うと、作曲家で現文化庁長官の都倉俊一さんです。ただ、都倉さんは見た目から立ち居振る舞い、言動に至るまですべてが一貫したパーフェクトジェントルマンです。あまりに完璧で、凡人の僕には参考になりません。

むしろ一見して性格や言動が上品とは言えないのに品を感じる人――僕のよく知ってる人で言うと、業界の先輩の米倉誠一郎さん(※1)や安田隆二さん(※2)。所源亮さん(※3)というやはり先輩で、ずっと創薬ベンチャーをやられているおじちゃま。以前ここでお話したPlan・Do・See(株式会社プラン・ドゥー・シー)という僕の好きな会社の創業者である野田豊加さんもそういうタイプです。

(※1)米倉誠一郎(ヨネクラ セイイチロウ):経営学者。専門は経営史。一橋大学特任教授、同名誉教授、法政大学大学院教授、ハーバード大学Ph.D.。
(※2)安田隆二(ヤスダ リュウジ):経営コンサルタント、実業家、経営学者(企業戦略論・企業再生経営・金融機関経営論)。一橋大学大学院経営管理研究科特任教授。東京女子大学理事長。
(※3)所源亮(トコロ ゲンスケ):実業家。GCAT株式会社、アールバイロジェン株式会社代表取締役社長。

失礼な言い方ですが、この人たちは表面的には決して上品ではないのですが、長いこと接していると奥深い品を感じます。彼らに共通しているのは、みなさん全然謙虚ではないのに、決して偉ぶらずに分け隔てなく誰に対しても同じように接するということ。そして、いつも挨拶がイイ。

僕が言うのも僭越なのですが、彼らは自分の欠点をよくわかっているのだと思います。すごくよくわかった上で、それを隠さずオープンにしています。人の気持ちがよくわかる。でも人には合わせない。そして人が嫌がることは言わない。気前が良くて、いつもテイクよりギブのほうが多い。テイクのことはあまり考えずにギブをしているという感じなんです。

さらに共通しているのは、自分の好きなことをやっていて、人がどう思うかは全然気にしていないということです。それぞれの原理原則がはっきりしていて、付き合っているうちに、この人はこういう人なんだよなということがすごくよくわかる。これが僕が知る上品な人の共通点です。この共通点から「なり」と「ふり」について深掘りしてみます。

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画像: 「なり」と「ふり」-その3
獣性の対極にある「品」。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

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八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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