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「ブランディングよりもブランデッド」を地で行くお手本として、僕が昔から注目しているのがPlan・Do・See(株式会社プラン・ドゥー・シー)という会社です。創業経営者は野田豊加さん。もう本当にセンスのある人で、「サービスの天才」だと思います。おそらく野田さんは世間一般にはそれほど知られてはいません。というのは、一切メディアに出ないからです。ネットで調べても、ほとんど出てこないと思います。自分の露出を高めてブランディング、という考えがまるでないんですね。いつも機嫌よくサービスをしているだけ。行動がすべての人です。

Plan・Do・Seeは、ホテルやレストラン、ウェディングや宴会・会議などができるバンケットを運営している会社なのですが、Plan・Do・Seeというブランドは表に出していません。それぞれのホテルやレストランに名前が付いていて、それがブランドになっています。

例えば、『WITH THE STYLE』というホテルが福岡にあります。スモールラグジュアリーホテルというコンセプトで成功していますが、これはPlan・Do・Seeが運営しているホテルです。レストランでいうと、有楽町にある『6th by ORIENTAL HOTEL』、朝から深夜までバンバン回転がかかる、とても流行っているレストランですが、ここも運営はPlan・Do・Seeです。Plan・Do・Seeが運営している神戸の日本最古の西洋式ホテル『ORIENTAL HOTEL』のオールデイダイニングを、東京に切り出したのが『6th』です。

僕も時々行くのですが、いつでも満員です。なぜ人気があるのか。もちろん食事が美味しいということもあるのですが、今どき料理がおいしいのはめずらしいことではありません。このお店はもう雰囲気がいいとしか言いようがないんですね。いい“気”が漂っている。それは、そこで働いている人たちが作り出すものです。Plan・Do・Seeは労働市場でも人気があって、サービス業で「いい気」を醸し出せる人を厳選して採用している。スキルを越えたセンスを重視している会社だと思います。

レストランは、新装オープンのときはネットのバズで大行列。でも一年後はがらがらという悪い意味での「ブランディング」の店が多いですが、この『6th by ORIENTAL HOTEL』の場合、はじめはそうでもなかったのに、気が付いてみるとずいぶん流行っている。じっくり数年かけてこうなってきた。有楽町のすごく地価が高い立地の大きなレストランなので、もうはじめからフル稼働させたくて仕方なくなるのが普通だと思うのですが、慌てず騒がずじっくりとお客さんを増やしてきた。

Plan・Do・Seeの取締役をしている三原直さん。昔からよく知っている人で、住んでいるところもご近所なんです。以前、三原さんと奥様、うちの夫婦、そしてもう一組の友達夫婦6人で、お好み焼きを食べに行きました。食べ終わった後に家まで歩いている時、僕は「ちょっとコンビニに寄っていくので、ここで……」と言って別れようとしました。そのとき、三原さんが即座に「アイスですか?」と言ったんです。まさに、僕はアイス(ハーゲンダッツの棒つきアイスが大スキ)を買おうとしていたところだったので、結構しびれました。サービスのクオリティを追求する人が相手の欲求を読み取る能力というのは、半端じゃないな、と思わされました。Plan・Do・Seeにはこういう人がたくさん働いているのだと思います。

以前、ここで微分か積分か(幸福について その4)という人間のタイプの話をしました。この分類で言うと、なるべく微分したときの値を大きくしようというのが「ブランディング」。一方の「ブランデッド」というのは非常に積分的な考え方です。Plan・Do・Seeの戦略には積分的な思考が根づいています。

この会社のウェディングのビジネスがよい例です。ウェディングは大きな額のお金が入ってきます。同業他社には、その時点で流行りのスタイルの拠点をチェーンで増やしていくという戦略をとるところが多い。ところが、Plan・Do・Seeは安易には拠点の数は増やしません。なぜかというと、「時間をかけないと手に入らない独自の価値がある空間」にこだわるからです。

最近で言うと『赤坂プリンス クラシックハウス』がその典型的な例です。紀尾井町の赤坂プリンス旧館が長く改装工事をしていました。東京都指定有形文化財を生まれ変わらせたのが『赤坂プリンス クラシックハウス』で、Plan・Do・Seeがレストランやウェディング会場として運営しています。歴史を積み重ね、その歴史的な文脈の中で人々に一目置かれている。そういう「時間」をかけないと手に入らない物件が現れるまで、彼らは手を出しません。チェーンで全国に一気に拠点を増やすということは、絶対にしない。Plan・Do・Seeの物件が東京に少ないのは、そういう物件だけを「待っている」からです。

名古屋には、400年続く一番古い料亭『河文』。尾張徳川家の時代から続いてきたこの料亭は、食事だけでなく、宴会・会議場やウェディングサービスも提供するバンケットとして成功しています。同じ名古屋にある『THE CONDER HOUSE』は1926年(昭和元年)に作られた名古屋銀行本店の建物を使っています。

京都の『FORTUNE GARDEN KYOTO』は島津製作所旧本社ビルです。1927年に当時の武田五一という日本近代建築の巨匠が建てた素晴らしい建築です。そして神戸にある、日本で一番古い西洋式ホテル『ORIENTAL HOTEL』。ここは阪神淡路大震災のときに一度閉館されました。それをPlan・Do・Seeが2010年に受け継いで再スタートとなっています。

Plan・Do・Seeが運営している拠点だけを見ても、ブランドの本質が「ブランデッド」だということを本当に良くわかっている経営だと思います。こういう経営をずっと積み重ねてきているから、Plan・Do・Seeは表に出なくてもBtoBのブランドとしては強力で、「うちもPlan・Do・Seeでやって欲しい」という話が次々に持ち込まれて、ここまで成長しています。「これぞブランデッド」という良いお手本だと思います。

画像: ブランディングよりブランデッド-その3
ディス・イズ・ザ・「ブランデッド」。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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