「第1回:状態と行動。」はこちら>

「行動」か「状態」かという切り口で、ブランドというものを考えてみたいと思います。「ブランディング」というのが大好きな人がいます。何かと言うと「ブランディングが大切だ」という話になる。ブランディングというのは動名詞なので「行動」を意味しています。

もちろん、どんな企業にとってもブランドというのは非常に大切なものです。ただ、一方でブランディングをするぞ!という色気が、かえって商売をゆがめたり弱めたりすることがあるというのが僕の見解です。

僕は「ブランディング」という考え方に対しては、やや懐疑的です。ブランドというのは、振り返ったときにそこにある「状態」です。「ブランディング」と言うと、前回の官僚の話でいうところの「出世イング」みたいなことになる。「出世」して権限を手にすることは仕事の上で大切です。しかしこれにしても、それまでの「行動」の蓄積が評価され、その結果として得られる「状態」です。「出世するぞ!」という「出世イング」にすり替わると、結局はロクな仕事にならない。

毎日の商売の積み重ねで段々と信用ができて、振り返ったときにその総体がブランドになっているというのが僕の考える理想です。もちろんそれは簡単なことではありませんが、理想はそうだと思うんです。「ブランディング」よりも「ブランデッド」。受動態で「ブランデッド」というのが、正しいブランドの理解だと考えています。

ブランディングに血道を上げる会社というのは、とにかく手っ取り早くブランドを手に入れたいという欲が強過ぎるように思います。「よし、ブランディングするぞ」となり、何をやるのかというと広告プロモーション予算を組んで、自分の会社の社名とかそのサービスの名前を、インターネットでインフルエンサーを使ってバズらせようとか、知名度を上げよう。それがブランディングだ、となりがちです。

特にBtoCのビジネスでは、ツイッターとかインスタグラムとか、いかにもブランディングに効きそうな手法があって、お金を出せば明日からでもできるツールがたくさん用意されている時代です。予算を組んでブランディングの専門家を雇い、せっせとブランディングにいそしむ。ところが、これをやり出すと、商売の内実に磨きをかけるよりも、手っ取り早くうまいことやろうという方向にどんどん流れてしまいがちなんですね。

言うまでもないことですが、ブランドというのはお客さんが感じた、お客さんの中に蓄積されたその会社、その商品、そのサービスの価値の総体です。独自の価値提供がしっかりとできていない会社、そこに自信がない会社ほど、ブランディングというお化粧で勝負しようとする。ベースがしっかりしていないところにお化粧をしても、たかが知れている。お化粧は夜になれば剥がれてしまうものです。

「SNSでブランディング、がんがんやりましょう!」となると、いろいろな効果が数字で出てきます。KPIとして設定しやすいので、いくらでもそちらに走ることができます。しかし、そのKPIが、肝心なお客さんの評価の中身を本当にとらえているのか。例えば、ツイートされた件数にしても、そのツイートで何が書かれていたのか、書いた人がどんな気持ちで書いたのかが、顧客の本当の価値認識のはずです。

ツイートをするお客さんの側も、本当にいいと思えばそれなりに感情がこもったツイートをしてくれる。そういうものが積もり積もってブランドになるわけですが、何か一撃必中のブランディングの飛び道具みたいなものを考え過ぎの人が多いと思います。「ステルスマーケティング」が時々問題になりますけれども、そろそろウェブのマーケティングの曲がり角にきている感じがします。

強力なブランドは重要な資産です。商売が著しく楽になる。お客さんが選んでくれますし、より高いお金を払ってくれる。まことにありがたい話です。ところが、ブランドというのはトートロジー、同義語反復に陥りがちです。よくあるのは、なぜこの会社は強いのか、それはブランドがあるからだ。それならブランドを作りましょう。ただ、そのためには商売そのものを強くするしかない、独自価値を強くするしかないのですが、「何で強いのか、ブランドがあるからだ」、「何でブランドがあるのか、強いからだ」という同義語反復になる。結局のところ、強力な商売が強力なブランドという状態を結果としてもたらすわけで、何もブランドがあるから強いのではありません。この因果関係の理解が大切だと思います。

商売を強くしたいからブランディングしよう、もうけたいからブランディングしようというのは、本末転倒なんです。トヨタもアップルも、そもそも強い商品やサービス、オペレーションに独自の価値があったからこそ、今日のブランドになったわけで、その逆ではありません。ブランドというのは、それまでのあらゆる企業努力による日々の商売の蓄積から結果的に発生する「ご褒美」みたいなものだと割り切ったほうがよいと思います。

「ご褒美」を先取りしようとして手練手管を連発しても、敏感なお客さんにはすぐに見破られます。一時的にバズらせることはできても、それは決して長続きはしません。何度もここで申し上げている「ベストセラーよりもロングセラー」というものが、やっぱり強い商売の鉄則だと思うんです。振り返ったときに、思いがけず「ブランデッド」になっていた――これが本当の商売で、「思いがけず感」が大切です。

画像: ブランディングよりブランデッド-その2
ブランドは忘れた頃にやってくる。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第3回:ディス・イズ・ザ・『ブランデッド』。」はこちら>

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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ご参加をお待ちしております。

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破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

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山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

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八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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