今回は「ブランド」についてお話ししたいと思います。

自分が仕事をとらえるときのひとつの視点として、それが「状態」なのか「行動」なのかという区別があります。それを説明するのによく使う例が、「シナジー」おじさん。何かというとすぐに「相乗効果を発揮して」とか、「シナジー効果によって」とか、シナジーという言葉を使うのが大好きな人がしばしばいますが、私見ではこれが二流経営者の特徴でありまして、僕は信用しないことにしています。

なぜかといいますと、これが典型的な「状態」と「行動」の取り違えだからです。シナジーというのは結果的に生じる「状態」。「状態」の前には、それに至る「行動」があります。今そこにあるシナジーなんていうものは存在しない。それは自分が「行動」で作るべきものです。「状態」ではなく「行動」で自分の仕事をとらえている。それが真っ当な経営者だと思います。

例えばM&Aの局面。会社を統合した瞬間に出るシナジーというものは確かにあります。法務部門がひとつで済むとか、間接部門でコストシナジーは出るでしょうし、それぞれの会社が別々に持っていた販路が1本で済むとか、販売拠点が減らせるといったことです。ただ、この種のコストシナジーは、放っておいても生じる「自然現象」。つまり、コストシナジーだけなら、特段の経営力は必要ない。

肝心なのは、自然発生的なコストシナジーを越える部分です。結果としてシナジーという「状態」が得られたとしても、それは経営者がいろいろな行動や意思決定を行って、しかもそれを戦略のストーリーとして、ある時間配列の下で組み立てていったからです。シナジーというのはあくまでも「行動」の結果として生まれる「状態」です。

シナジーに関して、僕がしびれた話があります。それは、新浪剛史さんとの会話です。僕は、新浪さんがローソンにいるときから経営人材の仕事の手伝いをしていました。2014年に、新浪さんはローソンからサントリーに移られました。その時点で、サントリーはすでにジムビームのブランドで有名なアメリカのビーム社を買うことを決めていたわけです。

買収金額は当時1兆6,500億円でしたから、サントリーとしても乾坤一擲(けんこんいってき)の大勝負という局面です。統合、買収した後のいわゆるPMI(※)、買収後の統合プロセスが経営の非常に重要な課題になることはわかっていました。では、それをやれる人間はいったい誰なのかとなったときに、新浪さんしかいないということだったのだと思います。新浪さんはサントリー社長の佐治さんに移籍の前からしばしば口説かれていたそうです。

(※)PMI:Post Merger Integration M&A(合併・買収)後の統合プロセスを指す。経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなり、ビジネスを統合・再編成し、統合効果を最大化するためのプロセス

新浪さんがサントリーに移ったすぐ後に、ディスカッションする機会がありました。当時、日本の会社がアメリカの老舗を買うということで、大きなニュースにもなっていました。ビーム社は上場企業でしたから、それを一度デリスト(上場廃止)してのM&Aということで、難易度も高い。記者会見などではかならず「この大型国際買収のシナジーは?」という質問をされていました。

新浪さんは、「そういうことを聞かれても困るよね」というのです。「シナジーなんかはない。それは、“はい、どうぞ”と誰かが用意してくれるものではない。だから自分が作りに来たのに……」。これにはしびれました。これぞ経営者。

つまり、新浪さんのような本物の経営者は、自分の仕事を「行動」で考えているわけです。サントリーに来て、自分は何をするのか。その「行動」が経営です。

自らの「行動」から経営という仕事を定義していない人は、どんどん「状態」へと流れていく。下手をすると「状態」にもたれかかっていく。その典型的な例が、ポストへの寄りかかりです。“社長”になったとか“役員”になったというのはひとつの「状態」にしか過ぎないのに、その「状態」がすべてという人がいます。「社長になったらこれをやるんだ。だから社長になりたいんだ」という人は、その「行動」のための手段として社長のポスト「状態」があります。しかし、「状態」が目的になっていて、「行動」は“偉くなる”という目的を達成する手段だと考える。こうなると「状態主義者」です。

ステレオタイプ的な話になりますが、高級官僚の言動を見ていると、「状態主義者」が少なくない。人事の季節にたまたま仕事でそういう人たちとお会いすると、何か一種異様な熱気を感じるんです。つまり、何か人事の内示が出て、「誰がどこそこに行く」とか、「え、あの人があそこに?」とか、「ということはもう終わったな」とか、「あの人がこのポストに就いたということの意味は?」とか、彼らの内輪でヒジョーに話が盛り上がっている。人々がお祭りのときに発する熱気、“祝祭”みたいなものすら感じることがあります。もうそれだけで3日間徹夜で議論できるぐらい、みんなが人事内示に強い関心を持っている。

これも聞いた話です。ある中央官庁で内示が出ます。内示は文書で通達される前に行われますから、まだ紙ではないわけです。なので、中央官庁の人事課みたいな所が、Excelで異動表を内々に作って、それを配る。そこには人事の情報が一元的に集約されているので、みんな穴が空くほど、それこそ呼吸することも忘れて見入っているそうです。官僚の世界のポストや出世というのは、それほど夢中になるものなのでしょう。

結局、仕事に対する「信念」というのは、「状態」からは生まれないんです。「行動」を支えるものが「信念」なので、「行動」がない人には「信念」もない。どういう行政がやりたいのか、官僚としての観点から日本をどういう国にしたいのか、そういった「行動」の意思、「信念」がなければ行政官としていい仕事はできるわけありません。

まったくブランドの話になっていませんが、それは次回から。

画像: ブランディングよりブランデッド-その1
状態と行動。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第2回:ブランドは忘れた頃にやってくる。」はこちら>

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