企業は、社会全体の利益となることを追求するべきであり、経済のみならず、社会やエコロジー、民主主義という4つの次元で持続可能であることでポジティブな企業となり得ると説く。アタリ氏は、日本社会が成し遂げるイノベーションに大いに期待すると語る。

「第1回:ポストコロナ社会を想定した最悪のシナリオと、最良のシナリオは?」はこちら>
「第2回:利他主義とポジティブな社会」はこちら>

すべてのステークホルダーを重視せよ

エグゼクティブ・フォーサイト・オンライン編集部(以下EFO)
3つめのテーマに話を移します。このインタビューの読者は日本企業の経営層や管理職の人たちです。アタリさんは、「将来の企業のあり方はどうあるべき」とお考えでしょうか。社会や環境、経済を重視する新たな企業経営のかたちはどうあるべきか、お考えを聞かせてください。

ジャック・アタリ(以下JA)
企業は可能な限りポジティブであるべきだと私は考えます。すでにそのように進化し始めた企業もたくさんあります。そうした企業は、持続可能な開発の必要性を理解したのです。本業の傍らで、社会全体の利益になるようなプロジェクトに携わる財団を設立する企業もあります。しかし、いまはこれをもっと先まで前進させなければなりません。企業自身が、自社の株主以外にもパートナーがいることを理解しなければなりません。株主(シェアホルダー)だけでなく、すべての利害関係者(ステークホルダー)をパートナーと見なさなければなりません。従業員、消費者、自社を取りまくすべての市民、自社に関わるすべての人です。

企業は、すべての利害関係者にとって有益でなければなりません。そこには将来世代も含まれます。企業はポジティブであるべきだと言いましたが、これは将来世代にとって有益でなければならないという意味です。そのためには、絶えず検証が必要です。「自分たちはポジティブだろうか?」、「自分たちは将来世代の役に立っているだろうか?」と。

4つの次元で持続可能性を追求すべき

EFO
アタリさんが会長を務める国際協力団体「ポジティブ・プラネット」では国別のポジティブ度の調査を実施されています。その調査の概要について教えてください。併せて、国別の調査結果において低位にある「日本のポジティブ度」を上げるために改善すべきことを教えてください。

JA
私が主宰している財団「ポジティブ・プラネット」は、毎年企業のポジティブ度を測定しています。多くはフランス国内の企業ですが、国外の企業もいくつか対象としています。また、各国のポジティブ度も測っています。測っているのは各国が、どの様な点でポジティブであるか、です。例えばある銀行の測定をするなら、測るのはやはり、どのような点でその銀行がポジティブであるか、ということです。日本の企業も絶えずポジティブ度を測定されるようになれば喜んでいいと思いますよ。なぜなら、それによって自分たちが本当に有益であると自信を持つことができるからです。また第三者から測定されなければ、自分たちが測定する数字だけに閉じ籠もってしまうことになりがちだからです。売上や利益といった、純粋に財政的な数字以外の次元に目を向けなくなってしまうのです。

しかし企業がポジティブであるためには、経済的に持続可能であることはもちろんですが、社会やエコロジー、民主主義という次元においても持続可能でなければなりません。企業がポジティブであるということは、この4つの次元で持続可能であることであり、そうだとすれば企業は、経済的・財政的要素のみを追いかけていてはいけない、ということになります。それは企業の持続可能性の条件の1つですが、社会・エコロジー・企業ガバナンスにおける民主主義といった要素も、やはりその持続可能性の条件なのです。企業がポジティブであるためには、絶えずこの4つの指標を検証する必要があります。それがきちんとできるようになったときには、企業はおのずから、命にとって有益なものを製造し、人類の生存条件の基盤の一翼を担うようになっているはずです。なにしろ現在では、人類の存続が脅かされているのですから。例えば気候変動や廃棄物の海洋投棄、そしてパンデミックによってです。人類の存続がかかっています。もしかすると、人類は100年も経たないうちに消滅してしまうかもしれないのですから。

日本のポジティブ度を向上させる4つの分野とは

EFO
100年以内に、ですか!いますぐ真剣に取り組まなければなりませんね。
さて、国別のポジティブ度において日本の評価はとても低いですね。評価を上げるためには、日本はどうしたらよいのでしょうか。

JA
そうですね。われわれがポジティブ度の指標をOECD全加盟国について測定するようになってもう8年になりますが、たしかに日本はとても評価が低いです。

日本がすべきことは明らかです。社会のなかで女性の占める場をもっと拡大すること、出生率を上昇させること、外国人に対してもっと社会の門戸を開くこと、橋や道路、再生可能エネルギーなどのインフラにもっと投資すること、教育にもっともっと投資すること、などです。

日本の債務は大きな問題ではないと、私は考えています。なぜなら債権を持っているのが日本人自身だからです。だからそれはさほど深刻な問題ではない。それよりも重大な問題はそのほかのこと。繰り返しになりますが、女性の地位、子供の数、教育、インフラ、です。

いかなる独占にも反対して戦う姿勢を

EFO
よくわかりました。最近よく話題になっている「オープン・イノベーション」についてのご見解をいただきたいです。「オープン・イノベーション」は必要であると、企業活動はもっと開かれたものにすべきだと、お考えになりますか。

JA
いかなる独占にも反対して戦う姿勢はとても大切です。独占はイノベーションの障害にしかなりません。独占によって、大企業以外では、イノベーションがまったく生まれなくなってしまいます。独占によって競争も妨げられます。そして独占状態にある企業は、自分たちもやがて滅び、いつかはほかに取って代わられる、ということを自覚できません。そうした交代は人類全体のためになることですし、また私の考えでは、これまでもそうやって人類は進歩してきたのです。

ですから、イノベーションに通じる扉をすべて開くことが重要だと私は考えます。ただしそれは、ポジティブなイノベーションについてだけです。なぜなら、中には良くないイノベーション、破滅的なイノベーションが存在するからです。ポジティブだと見なせるイノベーションのみを推進するように、細心の注意を払うべきです。ポジティブとは、経済、社会、エコロジー、民主主義の4つの次元で有益である、ということです。それがイノベーションを測る指標になります。そして、その4つの次元で持続可能であることも求められます。

日本の偉大な文化的洗練を守ってほしい

EFO
破滅的イノベーションの例を挙げていただけませんか。

JA
例えば、無益なものをいま以上に消費させようとするイノベーション、天然資源をいま以上に消費させようとするイノベーション、自然破壊を加速させるようなイノベーション、つまらない物への欲望をかき立てるようなイノベーションのことです。破滅的イノベーションとは、一見したところ素晴らしいように見えるけれども、それが機能するためには、森林や鉱物などの自然資源を消費・破壊することを必然とするものです。

EFO
それでは最後の質問に移りたいと思います。コロナ後の時代において、日本社会や企業に、どんなことを期待されていますでしょうか?

JA
私は日本に大いに期待しています! というのも、日本はこれまでずっと世界の模範でした。イノベーションの模範であり、テクノロジーの模範です。石油資源をもともと持っていないので、化石燃料を使わずに生きていく術についてはほかの国と較べて一日の長がありますね。そういう生き方の模範にもなれます。だから日本社会が成し遂げるイノベーションには大いに期待しています。そして同時に日本の文明、文化、洗練、礼節、親切心、そして時間の使い方が上手である点にも、大いに期待しています。日本がそうした偉大な文化とその洗練を守りながらも、その一方でグローバルな普遍性という要素とも向き合うことを期待しています。

また、日立グループはこれまでずっと、数々のイノベーションの最先端に立ってきた歴史ある日本企業の1つですから、わたしは日立グループがより一層発展することを願っています。そして是非、日立グループには新たな事業、命の経済という新たな事業に向かって歩み始めていただきたいと考えます。すなわちそれは、健康や教育、文化、民主主義といった分野の事業のことです。そういった分野でも日立グループは多大な貢献を果たし、大いに役立つことができるとわたしは確信しています。どうか今年が日立グループにとって良い年になりますよう、お祈りいたします。

EFO
大変参考になるお話を多数いただき、ありがとうございました。

画像: ジャック・アタリ氏特別インタビュー「ポストコロナの社会とビジネス」
【第3回】将来の企業のあり方はどうあるべきか

ジャック・アタリ

1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン仏大統領特別補佐官、91年欧州復興開発銀行の初代総裁など要職を歴任。政治・経済・文化に精通し、ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを的中させた。

著書は、『命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)『2030年ジャック・アタリの未来予測―不確実な世の中をサバイブせよ!』(プレジデント社)『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(作品社)『危機とサバイバル―21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(作品社)『アタリ文明論講義:未来は予測できるか(筑摩書房)』など多数。

「ジャック・アタリ氏特別インタビュー『ポストコロナの社会とビジネス』余話」はこちら>

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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