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資本主義の終焉は近づいているのだろうか
エグゼクティブ・フォーサイト・オンライン編集部(以下EFO)
せっかくの機会ですので、「ポストコロナの社会とビジネス」から少し離れたお話についてもお伺いしたいと思います。
1つめの質問です。資本主義が終焉に近づいていると言われています。アタリさんはこのことについてどのようにお考えですか?
ジャック・アタリ(以下JA)
わたしに言わせれば資本主義は市場とおなじことです。だから人びとが貨幣を使い続ける限り、資本主義は存続するとわたしは考えます。資本主義がなくなるというのであれば、たとえば稀少な財を独裁的に分配する全体主義的な経済体制が取って代わるとか、あるいは人びとが無償で財を手に入れ、無報酬で時間を費やすような豊かな社会の構築に成功した、というようなことでなければなりません。資本主義以後の社会は、人が対価を得なくても時間を使えるようになるほどの物質的な豊かさを実現している社会ということになります。しかしそれは、まだまだ先の話でしょう。人類の大部分にとって、はるかな未来の話です。だからわたしは、近いうちに人類が資本主義を脱却することになるなどとは考えません。人類が資本主義とは違う生き方をすることをどんなに願っても、実現はほど遠いでしょう。そのような資本主義後の社会は、もしかすると人びとがカルト集団のなかだけで生きていたり、ビデオゲームのなかだけで生きていたり、バーチャルな世界で一日中時間を費やしているような破滅的な社会かもしれません。あるいはもしかすると、人びとが自我という限界を乗り超えて芸術的な創造に打ち込んだり、他者にとって有益なことのために時間を費やしたりする社会かもしれません。たとえばNGOなどの非営利組織で多くの人が働いているような、それぐらい豊かな社会かもしれません。そういった想像をめぐらすことは可能です。しかしそうした社会が成り立つためには、人類全体が、それだけ物質的に豊かになっていなければならないのです。しかし現状はそれにはほど遠いと思っています。
GAFAの台頭に関して思うこと
EFO
また別の話題について質問させてください。
GAFA の勢いが拡大していることに対して、どう思っていらっしゃるでしょうか?年々急速度でGAFAの規模と影響力が大きくなり続けており、いまやひとつの国に匹敵する勢いで台頭を遂げていると思います。この拡大は、アタリさんが理想とする世界に対して、いい傾向をもたらしているのか、それともその逆なのかどう思われますか?
JA
わたしはつい2週間ほど前に、フランスで『メディアの歴史』という本を出版しました。そのなかでわたしは、古代から近未来までのメディアの歴史について書きました。そしてその本のなかでGAFAにせよ、中国のBATXにせよ、ソーシャルネットワークが今やあたかも公共事業のようになっていること、そしてそうした企業が国を代表する巨大企業になっているのみならず、国家をも凌駕する存在になっていることを示しました。このことについては、『命の経済』のなかですでにわたしは、こうした企業が国家に戦いを挑むときがやってくると予測しています。なぜなら国家は地域的な権力ですが、こうした企業はそれに比較してより大きく、またよりグローバルな権力だからです。それからアメリカは、こうした企業を統制するに当たって困難に直面するだろうということも予測していました。今まさに、そういう事態になっているわけです。
GAFAは今日ではとても大きくなっています。中国はそのことをよく理解していて、すでに中国版のGAFAを統制し始めています。Alibabaに対して行なったことは周知の通りです。アメリカも今まさにそれを始めようとしています。ヨーロッパも、日本も、韓国も、自分たちだけではGAFAを統制することはできませんし、まただからと言って独自のGAFAに代わるものを開発することもできません。ただし韓国は独自のGAFAに当たるものを開発し、成功してはいますが。アメリカ政府はGAFAに介入して統制下に置く必要があります。GAFAに対する世界規模の税制度が必要です。これについてはOECDが検討を開始しました。バイデン大統領がグローバル税制の検討にゴーサインを出したからです。しかしGAFAがこれ以上大きくなりすぎて世界中に害をなす前に、これを細分化して支配すべきだとわたしは考えています。GAFAは有益であり、大いに貢献しています。Twitterも、facebookも、LinkedInも、マイクロソフトも、アップルも、みなきわめて有益な企業であり、貢献も大きいです。とくにこのパンデミックの時代を迎えて、そのことがよくわかりました。たしかにそれほど有益なので、公共事業のようになってはいますが、大きすぎて全体を管理しきれなくなっているのです。
EFO
貴重なご意見を伺う機会をいただき、誠にありがとうございました。
ジャック・アタリ
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン仏大統領特別補佐官、91年欧州復興開発銀行の初代総裁など要職を歴任。政治・経済・文化に精通し、ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを的中させた。
著書は、『命の経済――パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)『2030年ジャック・アタリの未来予測―不確実な世の中をサバイブせよ!』(プレジデント社)『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(作品社)『危機とサバイバル―21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(作品社)『アタリ文明論講義:未来は予測できるか(筑摩書房)』など多数。
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