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株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
八尋は、Withコロナを生き抜くためには、ビジネスエコシステムの構築がますます重要になると説く。そのなかで注目すべきは、ユーザーとの接点をもつITサービスなどの軽い産業、ライトエコノミーである。そして、ライトエコノミーの肝となるのがUI/UXだという。

「第1回:変革のカギは“バック・トゥ・ザ・ベーシック”」はこちら>
「第2回:加速するアジア・シフトをどう活かすか」はこちら>
「第3回:変革することでチャンスを活かす」はこちら>
「第4回:個人の考える力がビジネスエコシステムを強くする」はこちら>

ライトエコノミーが、ベンチャーと大企業を結ぶ

――コロナ禍で社会課題がより浮き彫りになり、DXで少人数のベンチャーでも大規模な事業が可能になるなか、従来のビジネスモデルが変革を迫られていますね。

八尋
初回の冒頭で申し上げたように、経産省が経済社会政策室を新設して、女性が抱える健康問題をテクノロジーで解決しようというフェムテックに乗り出したのも、その流れの一つです。国をあげて、先送りされてきた社会課題に取り組み、新たな市場をつくり出そうとしているのはいい流れだと思います。

フェムテックに関連したアプリであれば、小規模どころか個人でも開発できますよね。例えば、当社が立ち上げに関わった事業で、企業の健康経営に資する「マイリスクTM」という日立の健康リスク予測サービスがありますが、この計算エンジンやアプリを開発した東大発のベンチャーであるレグラルは、社長一人の会社です。そうした小企業が当社と組み、日立製作所を巻き込んで、日立グループのクラウド基盤を使いながら、大きな事業を展開するということが可能になってきているのです。

逆に、大企業にとっても、ユーザーが気軽に使えるツールはきわめて重要であり、ユーザーとの接点をもつITサービスなどの軽い産業、すなわちライトエコノミーに通じたベンチャー企業とビジネスエコシステムを構築していくことが、今後ますます重要になると思います。

これに関連して、日立コンサルティングは2020年3月に、博報堂グループのSpontenaと資本業務提携を結びました。Spontena も10数名ほどのベンチャーで、人手不足などの顧客課題をチャットボットで解決するサービスを提供しています。チャットボットというのはテキストや音声での会話を自動的に行うプログラムですが、例えばLINEアプリを使った宅配サービスの依頼・変更や、交通機関での落とし物の問い合わせだけでなく、勤怠管理や自治体の窓口業務などにも広く使われ始めています。

Withコロナのなかでこうした便利なアプリの需要はますます高まりつつあり、大きな成長が期待されているのです。

画像: ライトエコノミーが、ベンチャーと大企業を結ぶ

インキュベーションの場としての大企業の役割

八尋
大企業がそうしたベンチャーとビジネスエコシステムを構築していくには、業務提携だけでなく、ベンチャーの苗床になるという手法もあります。

例えば今、中国・深圳を中心に勢いのあるベンチャー企業が多数生まれているのですが、実はそのベースとなっているのが、アリババやテンセントなどの巨大IT企業なのです。テンセントの場合、社内の部屋の一部をインキュベーションの場として起業家たちに提供していて、社内のインフラも自由に使わせているそうです。

それだけでなく、テンセントのなかで一線を退いたシニアがアドバイザーとして起業家をサポートしている。こうして成長したベンチャーが上場すれば、プロジェクトに関わったテンセントの社員にもボーナスが支給されるため、社員にとっても大きなモチベーションになります。つまり、起業家、サポーターの双方にメリットがあって、自然にビジネスエコシステムが構築される仕組みが用意されているのです。

これはぜひ、日本の大企業にも真似てほしい。日本では、定年後のシニアがベンチャーのアドバイザーを務める例はありますが、中国と同様の、会社規模での取り組みはあまり聞きません。定年前のシニア層も、起業家の支援をするなかで、第二の人生の活路を見出すことができれば、個人にとっても企業にとっても大きなメリットになるのではないでしょうか。

これからの日本の強みはUI/UXにあり

――Withコロナにおいて、特にこれからの日本の強みとしていかなければならないキー・テクノロジーは何だと思われますか?

八尋
既存のビジネスを変革するという意味では、やはりITが不可欠です。さまざまな社会課題を解決すると期待されるスマートシティもスマート農業もオンラインヘルスケアも、DXによって初めて実現可能になります。

ただ、日本がもっとも注力すべきところとなると、私は、UI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)だと考えています。それこそ、流行り言葉だと言われてしまいそうですが、コミュニケーションこそが最後に残された最大の領域であり、その際に不可欠なのがUI/UXなのです。

LINEのコミュニケーションも、スタンプでのやり取りという簡単で画期的なUIを生み出したからこそ、子どもから高齢者まで、今や国内で約8400万人ものユーザーを擁するまでに成長したのでしょう。ソニーのウォークマンもこれまでになかったUI/UXを生み出したから大ヒットにつながった。

Withコロナでは、オンライン教育やオンラインヘルスケアが喫緊の課題となっていますが、そのカギを握るのも間違いなくUI/UXです。そして優れたUI/UXを生み出すためには、ビジネスエコシステムを通じて、生活者の視点をもつ多種多様な人々とともに考えていくことが欠かせないのです。リモート重視のコロナにより、会社員が生活者である視点を取り戻し、QoL にこだわって働く、それを好ましい変化と捉えることができるかがネクストステージの企業を決めるのだと思います。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像: ポストコロナのDXと日本企業
【第5回】ライトエコノミーとUI/UXがカギを握る

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

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