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株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
DXが進展するなか、ITを柔軟に活用して、小さな組織や個人が力を発揮できるようになった。逆に、コロナ禍では、大企業の動きの鈍さが目立つ。大企業は将来に向けて、豊富な人財の能力を活用して、ベンチャーをはじめとする多様な組織とビジネスエコシステムを構築していく必要があるという。

「第1回:変革のカギは“バック・トゥ・ザ・ベーシック”」はこちら>
「第2回:加速するアジア・シフトをどう活かすか」はこちら>
「第3回:変革することでチャンスを活かす」はこちら>

少人数・低コストで新規ビジネスを創出できる時代へ

――コロナ禍が起点となりDXが加速していますが、特に大きく変わったことはどんな点ですか?

八尋
コロナ禍より前から、17世紀初めに東インド会社ができて以来のグローバルな株式会社システムそのものに、本質的な変化が起きていました。それがコロナ禍で一気に加速し始めたと考えています。莫大な資本を多数の株主から集め、ヨーロッパとアジアなど長距離間で物理的にモノを動かすことによって利益を上げる、というしくみが問い直されている。その変化を後押しした要因はもちろん、IT、インターネットです。

まさに今、この取材もWebアプリを使ってオンラインで実施しているわけですが、もしこれをどこかの放送局を介して中継していたら、大掛かりになってかなりのコストがかかりますよね。おそらくスタッフも数人というわけにはいかなくて、100人単位で必要になってくるでしょう。これこそがITの進化の力だと思うのです。もちろん、こうした恩恵を享受できる裏側には、安心して活用できる社会インフラとしてのインターネット基盤があるわけですが、従来、100〜1000人規模といった大人数でしかできなかったことが、今は人もコストも1桁も2桁も下げながらできる時代になりました。

かつてなら、いい製品ができても、グローバルに売ろうとしたら、海外に支店をもたない企業は商社に頼るしかありませんでした。しかし、それも今はITでできるようになり、大規模工場をもつことなく、10〜20人規模の会社が多品種・少量生産のやり方で、その業界の一翼を担うことが可能になってきています。特にアジアへの地の利がある福岡や、強い経済基盤をもつ愛知などにおいて、収益をあげている100名規模のベンチャー企業が増えている印象があります。経営者も若く元気で、上下関係にとらわれないフラットな組織であることも特徴的です。

それは必ずしも、ハイテクベンチャーに限りません。地方自治体の情報発信に特化した事業を展開する福岡の株式会社ホープは、「自治体を通じて人々に新たな価値を提供し、会社及び従業員の成長を追求する」というミッションの下、自治体職員にヒントとアイデアを提供する情報誌『ジチタイワークス』を発行しています。それだけでなく、小売エネルギー事業も全国規模で展開していて、コロナ禍においても成長を続けています。

また熊本発のシタテル株式会社は、「誰もが自由に、スマートに衣服を生産できるプラットフォーム」を、クラウドやデザイン力を駆使して提供している企業です。最近では、JAXAのオリジナルウエアを受託製造して話題になりました。在庫をもつことなく、廃棄まで見越した衣服のライフサイクルマネジメントまで想定した、環境に優しいビジネスを展開していて、注目しています。

こうした事例に見られるように、100〜200名規模の組織で、ITありきではなく、ミッションありきでQoLを追求する次世代型とも言うべき企業が増えていることに、私も元気をもらっています。

画像: 少人数・低コストで新規ビジネスを創出できる時代へ

大企業の課題はビジネスエコシステムの構築

――ITの進展により情報の取引コストが格段に安くなったことで、これまで見過ごされてきたニッチなビジネスなどを少人数でも動かせるようになったわけですね。一方、大企業の場合はどうなのでしょうか?

八尋
私は決して大企業がダメだとは思っていなくて、大企業にさまざまな人財が揃っていることは、大きなメリットです。

ただし、階層や組織の壁に縛られて、自分の部署で考えたアイデアを、部門の長の決裁まで経なければ、他の部署や関連会社と議論できないようでは意味がない。さまざまな部署のさまざまな階層の人たちが、外部の組織も含めてオープンに議論できるような場づくりが必要だと思います。

このときにカギを握るのが、ビジネスエコシステムです。ご承知のように、ビジネスエコシステムとはビジネスにおける「生態系」のことです。今や、ある製品やサービスを提供するにあたり、ユーザーを含めた複数の主体により構成される社会ネットワークを構築することの重要性は、周知されていると思います。

かつての大企業の強みは、このエコシステムがグループや関連会社で閉じていたことですよね。内部で完結して、なかに多種多様な役割を担うプレーヤーがいた。ところが現在のように変化が急激な時代にあっては、内部で閉じていて、すべてを抱えながらトレンドに迅速にキャッチアップしていくことは非常に難しいでしょう。ビジネスエコシステムというのは、一度構築したらおしまいではなく、トレンドに応じてつねに変化していくことで強みを発揮できるものなのです。

個人の考える力がビジネスエコシステムを強くする

――ビジネスエコシステムの創出において、何がもっとも重要だと思われますか?

八尋
やはり人財ですね。多種多様な人財を抱えて、いろんなアイデアを生み出すことができれば大企業だろうが小企業だろうが、コロナ禍の苦しいなかにあっても生き残ることができる。重要なのは、個人のエネルギーです。

私が言うエネルギーのある人というのは、自分の頭で考えることができる人のこと。DXやAI、グローバリゼーションという流行の言葉に流されることなく、その本質を捉えて、何のために必要なのか、それらを導入するとどのようなことが可能になって、どんなメリットがあるのかを自ら考えられる人こそが求められています。

だからこそ、意欲の高い個人が自分ごととして成し遂げたいQoLの追求を見える化し、共感しやすいストーリーとして構成できるリーダー、いわば走りながら話す小説家のようなリーダーが重要になるのです。また、現場と経営の間をつなぎ、根気よくコミュニケーションができるスタッフがより重要になると思っています。

(取材・文=田井中麻都佳)

画像: ポストコロナのDXと日本企業
【第4回】個人の考える力がビジネスエコシステムを強くする

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

「第5回:ライトエコノミーとUI/UXがカギを握る」はこちら>

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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