早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏/一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN理事長 市川芳明氏
9月4日にEFOがイベント形式でオンライン配信した公開取材「ブロックチェーンを活用した企業間情報連携という新たな潮流」における、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏と一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN(ネクスチェーン)理事長・市川芳明氏による対談。第4回ではブロックチェーンを活用した情報連携ならではの社会課題解決の可能性をテーマに、地球規模のエネルギー問題から具体的な業界の課題まで、話題は多岐に及んだ。

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社会課題の解決に、情報技術は欠かせない

入山
冒頭の市川さまのお話の中で、Society 5.0の定義にもある社会課題の解決に向け、NEXCHAINとして取り組んでいきたいというお話がありました。今、多くの企業がSDGsや社会問題にかなり意識を向けられていると思うのですが、ブロックチェーンを活用した情報連携は有効な解決手段になりうるとお考えですか。

市川
はい。おそらく、情報連携なしに社会課題を解決できるアプローチはもはやほとんどないのではないかと思います。

例えば、温暖化防止のためにCO2の発生を防ぐというアプローチがありますよね。わかりやすい例で言えば、「飛行機に乗って出張するよりもZoomで会議したほうがCO2が減る」という考え方があるかと思いますが、エネルギーを最適化するには局所的な対策だけ施してもあまり意味がないですよね。世界中の火力発電所の発電量を最適に配分した上で再生可能エネルギーを導入し、現状把握と予測を正確に行いながら、どこでどのくらい太陽光を使えばいいか、どのタイミングで蓄電すればいいかをコントロールする。このくらい徹底してやらないと、本質的な解決には至らないと思うのです。でも、これをどこか大きな会社が全部束ねて行うなんてことはあり得ないですよね。

ですから、それぞれの企業に情報を流通させていくという分散型の最適化システムにしかならないと思うのです。例えば、近年問題になっているプラスチック海洋汚染にしても、循環型のリソースをいかに効率よく活用して価値を最大化するかという大きな社会課題の一面なわけですが、突き詰めていくと、結局は情報のやりとりの問題なのです。つまり、生産する側と消費する側のバランスの問題です。

ちょっと話が変わりますが、今、フードロスって結構問題になっていますよね。これも生産する側と消費する側との間にアンバランスがあるから廃棄されるわけです。こういった問題に対しても、それぞれの立場の方が、偽物の情報は一切入ってこないという確信の中でリアルタイムに情報をやりとりしていくことによって、流通を最適化できるのではないでしょうか。

入山
なるほど。スマートグリッドを例にとると、本当は世界中をつないで地球全体で電気の使用量を最適化するのが当然理想なのでしょうけど、それはだれもできなかったということですよね。でももしかしたら、いろいろなエリアで局所的に行われているスマートグリッドがつながっていけば、「グローバルスマグリ」になりえるかもしれない。

画像: 左から入山章栄氏、市川芳明氏

左から入山章栄氏、市川芳明氏

市川
ええ、それはあり得ますね。おそらく超伝導の電送技術でもない限り、世界中のエネルギーが一気につながるなんてことは相当難しいでしょう。しかし、エネルギーを水素や電池などに変えて運ぶことができれば、実質的なグローバルスマグリになりうる。一気にグローバルとまでは行かないまでも、例えば日本全体での巨大な最適化システムはつくれるかもしれません。ただ、やはり正しい情報がすばやく流通しないと、エネルギーをどこにどれだけ運べばよいのかわからないという事態を招いてしまいます。それを解決するのが情報連携なのです。

漁業、メディカル、外食。情報連携が解決しうる、業界の課題

入山
企業間の情報連携にはいろいろな可能性がありそうですね。お話を伺っていて、漁業にも有効かもしれないなと思いました。世界にはお魚をたくさん食べる国と食べない国がありますし、お魚がいっぱい獲れる時季が海流によって違いますよね。グローバル企業は今、そういったデータを取り始めているようですが、これも世界中の情報をうまくつなげてあげることで、世界中で旬のお魚を過不足なく、地球の資源を壊すことなく食べることができるようになるかもしれませんね。

市川
できると思いますね。さらに、いろいろな魚が流通することで、「珍しいお魚でもこう調理するとめちゃくちゃおいしくなる」といったユニークなレシピを考え出す人が必ず出てくる。そういった方にもプラットフォームに参加していただくと、地球上の資源がより無駄なく、みんなに食べてもらえるようになるかもしれない。生産者と消費者だけじゃなく、その間に入るさまざまな方々がアイデアを持ち寄ることで、サイバー空間の付加価値がより高まると思います。

入山
わたしの思いつくままにいろいろと挙げましたが、まさにこういったアイデアをそれぞれの業界の第一線で活躍されている方々がNEXCHAINに参加して意見をシェアして、世の中をよくするビジネスを社会に実装していってほしいですね。

市川
なるべく多くの業種の方にNEXCHAINに入っていただきたいですね。現時点でまだ、メディカルやヘルスケア業界の企業にご参画いただけていないのですが、すごく有望な分野だと思っています。例えば、いつもと違う薬局で薬を処方してもらうと、また新たにお薬手帳が発行されてしまいますよね。しかも、それがデジタル化されていない。同じチェーン店同士では共通のデータを持っている場合もありますが、別の系列の薬局とは互換性がないので、お薬手帳が手元に増えていくばかり。メディカル業界の企業にご参画いただくことで、こういった不便を解消できるかもしれません。

それからスポーツジムは、実はこういったお客さまの健康に関わる情報を欲しがっているとも聞きます。あるいはレストランでもお客さまの健康状態がわかっていれば、その方にふさわしい料理を提供することもできるようになる。現在、NEXCHAINにはスマートフォンの代表的な通信会社のうち3社にご参画いただいていますから、さまざまな業界と連携してスマホアプリを開発すれば、生活者の皆さまにとってより便益のある事業ができるのではないか……など、想像がどんどん広がっていきます。

画像: 漁業、メディカル、外食。情報連携が解決しうる、業界の課題

ITと縁遠い業界、一人で悩む新規事業開発担当者こそ、NEXCHAINに。

市川
最初は大手不動産会社とIT企業、そして通信会社の3社で始まったNEXCHAINですが、冒頭でご紹介したように、その後エネルギー会社や警備会社、損保会社、銀行などが加わり、現在27社にご参画いただいています(2020年9月4日時点)。まだまだ参画いただけていない業界もありますが、スタートしたばかりにしては上々ではないかなと。

入山
そうですね。特に保険業界はブロックチェーンとの親和性が高そうですね。一方で、先ほどの漁業のように、一見、ITやブロックチェーンと関係がなさそうに見える業界にこそ入っていただくことが、実はものすごく企業間情報連携の可能性を広げるのではないでしょうか。ヘルスケアやスポーツジムもそうですけど、いろいろな業界の方にまずは入ってもらって、初めはちょっと勉強してみようくらいのスタンスでもいいから、いろいろなアイデアの可能性を探ってほしいですよね。

市川
今ご参画いただいている企業のご担当者には、自社で新規事業開発を担当されている方、あるいはデジタルトランスフォーメーション推進室といった部署の方が多いです。いわばイノベーションを起こすことを会社から期待され、いろいろと新しいことに取り組まれているのですが、やはり自社だけではどうしても前に進まず、相談相手を外部に求めていらっしゃる方々です。きっと会員さま以外の企業にも、同じように悩まれている方が多いのではないでしょうか。そういった方に、ぜひNEXCHAINに入っていただけたらなと思っている次第です。

画像1: 対談 企業間情報連携がもたらす新しい価値
【第4回】情報連携で挑む、社会課題

入山 章栄
早稲田大学ビジネススクール 教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。株式会社三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事し、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を務め、2013年から早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年より現職。経営戦略論および国際経営論を専門とし、Strategic Management Journalをはじめ国際的な主要経営学術誌に論文を数多く発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版,2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社,2015年)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社,2019年)など。

画像2: 対談 企業間情報連携がもたらす新しい価値
【第4回】情報連携で挑む、社会課題

市川 芳明
一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN 理事長

多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授
東京都市大学環境学部客員教授
(一社)ウエルビーイング規格管理機構 代表理事
(一社)サステナブルビジネス研究所 代表理事
日立製作所入社後、原子力の保全技術およびロボティクス分野の研究に従事。環境管理、新規ビジネスの立ち上げ、国際標準化を主導。現在、多摩大学ルール形成戦略研究所において客員教授としてビジネスエコシステムとルール形成戦略を研究中。IEC(国際電気標準会議)TC111(環境規格)前議長、ACEA(環境諮問委員会)日本代表、ISOTC268/SC1(スマートコミュニティ・インフラ)議長、ISOTC323/WG2(サーキュラーエコノミー・ビジネスモデル)主査、CENELEC(欧州電気標準委員会)オブザーバー、工学博士、技術士(情報工学)。代表著書に『「ルール」徹底活用型ビジネスモデル入門』(第一法規,2018年)。

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