早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏/一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN理事長 市川芳明氏
一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN(ネクスチェーン)では、各企業のエンドユーザーのデータというデリケートな情報をどう取り扱い、どう活用するのか。早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏とNEXCHAIN理事長・市川芳明氏が指摘する、サイバー空間に秘められたイノベーションの可能性とは。9月4日にEFOがイベント形式でオンライン配信した公開取材「ブロックチェーンを活用した企業間情報連携という新たな潮流」における対談の様子をお届けする、第3回。

「第1回:儲けないプラットフォーマー」はこちら>
「第2回:オープンイノベーションに欠かせない『触媒』」はこちら>

最優先するのは、生活者の便益

入山
NEXCHAINに参画すると、どんな取り組みができるのでしょうか。

市川
NEXCHAINはとにかく自由にアイデア出しをしていただく場ですが、その取っ掛かりになるのは各企業が持っているお客さま情報、すなわち生活者に関するデータです。これを、お互いにどう活用できるのかが肝になります。例えば、通信会社がお持ちの顧客情報をハウスメーカーや警備会社のサービスに活用できるかもしれないし、あるいは銀行がお持ちの口座情報を投資会社や不動産会社などと連携できる可能性も出てくる。つまり、ほかの参画企業が持つ情報を活かして新たなビジネスを生み出せないだろうかという視点です。

新たなビジネスを考える際に我々が大切にしているのは、何よりも生活者の便益を優先することです。情報連携でどれだけ企業にメリットが生まれたとしても、その情報のオーナーである生活者個人にとっての便益をやはり一番に考慮しないと、社会課題の解決にはつながりません。一種の制約みたいなものですが、人間って不思議なもので、ある程度の制約があったほうがアイデアが湧いてくるんですね。

分科会ではある社会課題を参画企業の皆さまに出題して、それを解決するために、例えば警備会社と銀行とITメーカーが組んだらどんな新しい事業ができるかをディスカッションしていただきます。その中から実現性の高いビジネスアイデアが生まれてきたら、NEXCHAINが提供する情報連携システムを使えばA社の情報をセキュアな形でB社・C社と連携するといったことができるので、PoC(実証実験)が容易にできます。

サイバー空間だからこそ、情報リスクを減らせる

入山
実はそこが今回お聞きしたかったところでして、自社のお客さま情報をほかの会社のデータと組み合わせることで何か新しいことが起きるかもしれないというときに、日本の会社が考えるのがやはり情報リスクだと思うのです。その辺のリスクをNEXCHAINがどう解消するのか、セキュアな形で情報の連携や開示をできるのかが、大きなポイントなのかなと思ったのですが。

画像: 左から入山章栄氏、市川芳明氏

左から入山章栄氏、市川芳明氏

市川
マクロに言えば、情報の持ち主であるお客さまに対して安全・安心をご提供するということなのですけど、そのためのしくみのベースとして、各企業がお客さまの了解を得て入手されたデータを、セキュアに保護していただくことが大前提となっています。データをほかの企業と連携して何らかの事業に活用する際には、お客さま一人ひとりから個別に了解を得るというしくみにしています。

なお、NEXCHAINのシステムにはデータそのものが貯まらないしくみになっています。ですから、情報漏えいのリスクを抑えることができます。さらに、これもブロックチェーンという技術の特徴ですが、連携するデータはきちんとしたトレーサビリティーが確保されています。そのため、データが消失してしまった、お客さまが活用を了解していない会社とデータが連携されてしまったという事態が起きません。

入山
そんなことは起こり得ないし、万が一どこかのプレーヤーがこっそり変な使い方をしようとしても、すぐバレてしまうということですね。

市川
ええ。そういったしっかりしたしくみを持っていることが、生活者の皆さまにご安心いただけるための第一歩だと思います。

入山
そう考えると、やはり今までのオープンイノベーションはどうしてもリアルな空間で起こそうとしていたからこそ、情報リスクが消え去らなかった。NEXCHAINのようにサイバー空間にブロックチェーンの技術を取り入れるからこそ、むしろ安心して情報を連携できて、新しい組み合わせが起きるということですね。

市川
そのとおりですね。電子データであるがゆえに暗号化の処理をはじめとする最新の技術を使いながら、より安全・安心を保てる。そういったメリットを、NEXCHAINに参画すれば最大限享受できると思います。

入山
しかもサイバー空間なので、どこにいてもいつでもデータを連携できる。圧倒的なメリットですよね。

市川
ええ。まずは国内の企業が集まってスタートしたNEXCHAINですが、海外の企業も興味があればどんどんグローバルに広げていけると思いますし、現在のようにコロナ禍で渡航が制限されているようなケースであっても、まったく影響を受けることなく世界中の企業が参加できる。その点もNEXCHAINの特徴ですね。

コロナ禍で顕在化した、サイバー空間の可能性

画像: コロナ禍で顕在化した、サイバー空間の可能性

入山
率直に言うと、コロナ禍になって特に盛り上がっているのがオンラインゲームですよね。冒頭でも触れたEpic Games社のゲームアプリ『フォートナイト』は今、世界で約3億人がプレイしているそうです。

インターネット上の仮想世界を意味する「メタバース」という言葉が最近聞かれるようになりました。自分のアバター、すなわち自分の分身がバーチャル空間上でいろいろ活動するという世界です。このメタバースに関しても、そのうちブロックチェーンのようなしくみが入るともっとよくなるのではないかと、わたしは思っています。実際にフォートナイト上で先日、歌手の米津玄師さんが仮想ライブをやりましたし、アメリカのラッパーが仮想ライブをやって一晩で数十億円もうけるみたいなしくみができています。そういったサイバー上でできるしくみが、このコロナ禍で、まずはオンラインゲームに実装されたというわけです。このようなしくみをもっとビジネスにも実装して、価値のあるものを生み出していけたらすばらしいですよね。

市川
オンラインゲームの付加価値はほとんどサイバー空間で生まれているという、ある意味でSociety 5.0の先駆けみたいなところがありますよね。ただ、ゲームの場合は逆にフィジカル空間とのインタラクションが少ない。そこも大事にしていこうという観点からすると、アバターってとても面白いアプリケーションですよね。

日本にはアバターロボット(※)を制作しているベンチャーが結構ありまして、まるで自分が動いているかのように遠隔操作できるといったことが実現しています。ロボットによっては、人間が脳から直接制御できるのではないかというレベルの試験的なデータも出ているそうです。いずれ、身体が不自由な方でも、アバターロボットを操作してまるで元気な若者のように闊歩できるなんてことも。

入山
アバターならイケイケなわけですね。そうやってイケイケになった男性とイケイケな女性が出会って、デートして……みたいな世界にブロックチェーンが実装されれば、お金のやりとりもきちんとできそうですね。

市川
かつ、なりすましもできないですからね。安全・安心が確保された空間で、人の経験できる範囲、つまりエクスペリエンスが思いっきり増えるのではないでしょうか。

入山
面白いですねえ。

※ 仮想空間に存在していたアバターをリアルの世界で実現するもの。人が遠隔操作し、ロボットが体験したことを自分の体で体験する。

画像1: 対談 企業間情報連携がもたらす新しい価値
【第3回】サイバー空間にこそ眠る、イノベーションの可能性

入山 章栄
早稲田大学ビジネススクール 教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。株式会社三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事し、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を務め、2013年から早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年より現職。経営戦略論および国際経営論を専門とし、Strategic Management Journalをはじめ国際的な主要経営学術誌に論文を数多く発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版,2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社,2015年)、『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社,2019年)など。

画像2: 対談 企業間情報連携がもたらす新しい価値
【第3回】サイバー空間にこそ眠る、イノベーションの可能性

市川 芳明
一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム NEXCHAIN 理事長

多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授
東京都市大学環境学部客員教授
(一社)ウエルビーイング規格管理機構 代表理事
(一社)サステナブルビジネス研究所 代表理事
日立製作所入社後、原子力の保全技術およびロボティクス分野の研究に従事。環境管理、新規ビジネスの立ち上げ、国際標準化を主導。現在、多摩大学ルール形成戦略研究所において客員教授としてビジネスエコシステムとルール形成戦略を研究中。IEC(国際電気標準会議)TC111(環境規格)前議長、ACEA(環境諮問委員会)日本代表、ISOTC268/SC1(スマートコミュニティ・インフラ)議長、ISOTC323/WG2(サーキュラーエコノミー・ビジネスモデル)主査、CENELEC(欧州電気標準委員会)オブザーバー、工学博士、技術士(情報工学)。代表著書に『「ルール」徹底活用型ビジネスモデル入門』(第一法規,2018年)。

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