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ソフトウェアは「ピープルウェア」
――福井を拠点にしている理由は何かあるのですか。
それは、僕が福井の出身で福井の会社に入ったからです。子どもを自分と同じような自然の中で育てたいという思いで30歳の時に福井に戻ったのは、親のエゴかもしれませんが。僕は東京も好きなのですが、少し人が多すぎませんか。以前、門前仲町から朝の東西線に乗っていたのですが、もうあまりのラッシュに瞬殺で疲れ果てていました。昨今の新型ウィルスの影響なども見ると、首都圏ではいかに通勤自体が異常な状態か、というのがわかります。もっとリモートや在宅で働ける環境、さらに地方にいても繋がって働ける環境が整ってくると思います。
ソフトウェアというのは、人間が作るものです。以前のラジカセとかのハードウェアは、中を見るといろいろなメカが入っていますが、今のスマホを開いてみると、中身のほとんどは電子部品です。つまり、ソフトウェアが動かしているということであり、それは自動車もそうであり、銀行のATMや医療機器など多くのモノがソフトウェアで動いています。ソフトウェアというのは、全部人が人のために作っている「ピープルウェア」であるということです。
そう考えると、作る側にとっても、「個人の幸福」という問題と向き合う必要が出てくるのではないでしょうか。僕の場合には、生まれ育った環境で家族と過ごせること、息子が彼女を連れてきても子どもの頃と変わらないきれいな川でバーベキューできることが幸福なのです。
――福井でソフトウェアを開発するメリットとデメリットについて教えてください。
やっぱりお客さまからは、距離的に「遠い」と言われます。作るモノへの想いを聞いたり、あるいは交渉事のようなデリケートな話は、絶対に顔を合わせてやらないとうまくいきません。お客さまとは月に1回は、かならず会うようにしていますし、オンラインで結んで、どれくらいコミュニケーションできるかということにもチャレンジしています。遠隔ミーティングの方法も増えてきていますし、24時間つなぎっぱなしのプロジェクトも実際にやっていますが、それでもまだ遠いと言われますね。
それと、少し嫌な話ですが、福井でやるというときに「ニアショア」とか言われて、オフショアとの単価比較をされることがあります。「ベトナムに出すと、今いくらなのですが、福井だといくらになりますか」。「〇〇円です」。「それって東京の単価と同じですよね」と言われたりすることがあります。東京の単価で何が悪いんだ、と思いますが。
メリットは、東京より、良いエンジニアの卵を集めやすいです。福井というのは全国的に見ても幸福度が高い場所だというデータがあります。持ち家率が高く、僕もそうですが2世代が同居しているので、夫婦が共に働きに出ることができます。おじいちゃんおばあちゃんが孫の面倒を見てくれることもあり、待機児童もゼロ。そして、相対的に真面目な人が多いです。
――平鍋さんも、大学で東京に出るまでは真面目なタイプでしたか。
その頃は数学や物理が好きで、「相対性理論」と「量子力学」がわかれば、世界はわかると思っていました。いや、真面目に(笑)。しかし大学に入って、蓮實重彦(※1)先生の授業で、先生の映画論に大きな影響を受けまして、それからは映画や演劇、高校時代はまったく読まなかった小説や現代思想にのめり込みました。世の中がニューアカ(※2)やサブカル(※3)ブームになっていた頃です。
(※1)蓮實重彦:はすみ しげひこ 1936年4月29日~日本の文芸・映画評論家、フランス文学者、小説家。第26代東京大学総長
(※2)ニューアカ:ニュー・アカデミズム 1980年代初頭に日本で起こった、人文科学、社会科学の領域における流行、潮流。
(※3)サブカル:サブカルチャー メインカルチャーの逆の概念の事。かつては、大学で学問、研究対象にならない。新聞、雑誌などで論評の対象にならなかった、社会の支配的な文化の中で異なった行動をし、独自の信条を持つ人々の独特な文化。
――もしかすると、そういう経験が「アジャイル」への興味につながっているのかもしれませんね。
そうなんです、「アジャイル」とサブカルは、すごく近いんです。ソフトウェア開発でいうと、ウォーターフォールは、おそらくメインのカルチャーです。「アジャイル」は、それに対するサブカル、オルタナティブカルチャーなんです。そのオルタナティブが、世界でエッジ側にあった状況から、先端が成長してメインカルチャーに影響を与えて飲み込んでしまうような状況になってきている。そういうことかもしれません。現れた時には、パンクロックのような強い反主流の雰囲気がありました。
音楽だとクラシックのような、指揮者が真ん中にいて、全体のテンポを決めて、タイミングを決めていくというスタイルがメインカルチャーだとすると、アジャイルはジャズみたいなものかもしれません。ドラムが真ん中にいて、全体のリズムは作っているけれども、あとは周りのメンバーとの音で対話しながら即興でソロを取っていくという、中央集権的ではないところも似ています。
アジャイル開発の現場---3
ひとつのプログラムを、二人で記述するペアプログラミングから、複数人でのモブプログラミングへ。一人でやる方が効率的に思えるが、レビューや話し合い、技術の共有などが同時にでき、コードが俗人化されない、チームとして同じ目的に向かうことができるなど、そのメリットは確実に大きいそうだ。(Agile Studio Fukui にて。リモート見学を受け付けています)
平鍋 健児(ひらなべ けんじ)
永和システムマネジメント株式会社代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役 1989年東京大学工学部卒業後、3次元CAD、リアルタイムシステム、UMLエディタastah*(旧名:JUDE)などの開発を経て、現在は、オブジェクト指向技術、アジャイル型開発を実践するエンジニアであり経営者 初代アジャイルジャパン実行委員長、要求開発アライアンス理事 著書『アジャイル開発とスクラム ~顧客、技術、経営をつなぐマネジメント~』(野中郁次郎と共著) 他に翻訳書多数あり
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
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