特定非営利活動法人地域再生機構 副理事長 平野彰秀氏 / 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
多様な人が集まり、複雑性が高い環境で活動することで、自分の得意分野を伸ばしてきた平野さん。メディアを通じて自分たちの活動を広く知ってもらうことで、人々の認識を変え、社会課題解決につなげていきたいという。一方で、数年おきに自らの活動テーマを変えてきたことが、地域再生を停滞させることなく、イノベーションを生み出してきた秘訣だと語った。

「第1回:もはやグローバルとローカルの境界はない」はこちら>
「第2回:土地や自然の持つ力に個が引き出される」はこちら>
「第3回:改革のカギを握るのはミッション」はこちら>
「第4回:ローカルで必要なテクノロジーは何か」はこちら>

ローカルは自分の得意な能力が活かせる場所

八尋
前回、人生100年時代に、ローカルがさまざまな人の活躍の場としてのフロンティアになり得るというお話がありました。そのためには、それぞれが自分の得意なことは何かと考えることが大事ですね。

平野
ここで活動するうちに、僕自身は「ナンバー2」としての能力を持っていることに気づかされたんですね。つまり、何かをやりたいという人がいて、その人の相談に乗りながら、そこで聞いたアイデアを具体的に計画に落とし込んで、それに必要な人やお金のリソースにつなぎ、実現させていくのが得意なのです。そういう自分の持てる能力が、社内だけでなく、地域社会や別のコミュニティで活きたときに、はじめて大きな自信につながったように思います。

八尋
大きな組織の中で働くのと違って、多様な人と関わるなかで、自分の得意なことが引き出されてくるということはあるでしょうね。当社のかつての社員にも、地域再生に取り組んで、その中でファシリテーターとしての能力を伸ばし、別の分野に巣立っていった人がいます。

画像: ローカルは自分の得意な能力が活かせる場所

現状も、周りにはさまざまなタイプの方がいらっしゃるのでしょう?

平野
いますね。華のあるアーティストタイプで独自の世界観を描ける人や、広い情報ネットワークを携え、さまざまなところから情報やアイデアを集めてきて、それをつなげてかたちにしていく人もいます。

東京で勤めていたときよりも、はるかに多様で複雑性が高い人材がいます。しかも、こうした環境に身を置くことで、多様な能力がより伸ばされていくように感じています。

社会課題解決においてメディアの果たす役割

八尋
ところで、SDGsなどのグローバルな活動に関しては、どのようにご自身の活動をつなげていこうとされているのですか?

平野
グローバルな課題を解決していく際に、メディアの果たす役割はとても大きいと思っているんですね。私たちの活動は、よく「グリーンズ」という環境NPO法人が主宰しているWEBマガジンに取り上げてもらうのですが、そのほかにもYouTubeなど個人で発信できるメディアもありますし、こうした媒体を通じて活動を伝えることで、人々の意識に働きかけていけたらと考えています。

また、一方的に情報を発信するだけでなく、双方向で対話ができるコミュニティも重要です。社会課題というのは、何かをやったから簡単に解決するようなものではありませんので、メディアやコミュニティでの活動を通じて、少しずつ人々の認識が変わる可能性があるのではないかと思います。

画像: 社会課題解決においてメディアの果たす役割

それから、その3で紹介した電通の岡野春樹さんが、「いまは、精神のエコロジー、自然のエコロジー、社会のエコロジーがバラバラになっていることが問題だ」とおっしゃっていて、深く共感しました。それらをすべてつながっているものとして捉えて、一体的に活動していくことができれば、働き方改革や環境問題の解決、ひいてはSDGsの実現にもつながっていくのではないかと考えています。

イノベーションはよそ者や新参者が起こす

八尋
今後の展望を教えてください。

平野
この11年間、郡上を拠点としながらも、僕自身は、数年のスパンでやることを少しずつ変えてきました。30代は石徹白でのマイクロ水力発電の導入に注力しましたが、40代になってからは、次の世代の人たちを地域の人につなげていこうと、都市部の人と地域を結ぶHUB GUJOという場や、郡上カンパニーというしくみをつくりました。

そして現在は、石徹白で妻が「石徹白洋品店」というお店をやりはじめたところで、この活動を事業として軌道に乗せていきたいと考えています。妻がつくっているのは、いま私が履いているこのズボンもそうなのですが、すべて四角と三角の生地だけでできている「たつけ」という、石徹白に古くから伝わる野良着が元になっています。その利点は、無駄な端切れがまったく出ないこと。かつて、日本のどの地域にもこのような直線断ちの布だけでできた服があったのですが、いまはほとんど残っていません。それを、たつけのつくり方を覚えていらした地域の80〜90代のおばあさんたちに教えていただいて、草木で染めた布で再現しています。これまでは、エネルギーの源が見えるような活動をしてきましたが、エネルギーと同様に生産背景が見えなくなってしまっている「衣」について、生産背景が見え、環境にも配慮したものづくりによってつくられた服を、多くの方に届けていきたいと考えています。

八尋
数年ごとにやることを変えて、うまくバトンを受け渡してこられたことが、逆にさまざまな活動を継続することへとつながってきたのかもしれませんね。

平野
地域起こしには、どこにでもキーパーソンはいますが、やはりどんどん思考が固まってきて、マンネリ化してしまうものです。独立研究者・著作家の山口周さんもおっしゃっているように、イノベーションというのはよそ者や新参者が起こすものだと思っています。その分野に入って日が浅い人こそ、思いもよらないアイデアに気づくことができる。

画像: イノベーションはよそ者や新参者が起こす

僕はすでにもうよそ者でも新参者でもないと自覚していて、だからこそ、40代からは新しい人が入ってくる場づくりをしようと切り替えました。自分の限界はよくわかっているし、それを補えるような場としてコミュニティづくりに注力してきたわけです。

八尋
新しいインフルエンサーになり得る人を、他の地域から探してきたり、引っ張ってきたりすることはないのですか?

平野
外からのインフルエンサーに頼るということはないと思います。それは、郡上の地域性もあると思うのですが、郡上の人って他の真似をすることを嫌うんです。だから、どこかで成功したしかけをそのまま持ってくることはありません。この地らしいことは何かを突き詰めて考えてやってみて、それに共感してくれた人が集い、次々に活動が生まれるという良い循環ができてきたように思います。

八尋
それが郡上の独自の土地の魅力にもなっているわけですね。さまざまに示唆に富むお話をありがとうございました。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=佐藤祐介)

画像1: 地方からソーシャルイノベーションを
その5 よそ者を受け入れることがイノベーションの秘訣

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

画像2: 地方からソーシャルイノベーションを
その5 よそ者を受け入れることがイノベーションの秘訣

平野彰秀

特定非営利活動法人地域再生機構 副理事長。特定非営利活動法人HUB GUJO 理事。1975年岐阜市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院環境学修士。北山創造研究所で商業施設プロデュースに携わった後、ブーズ・アレン・ハミルトン(現PwCコンサルティング合同会社)にて、大企業の経営戦略コンサルティングに従事。2008年春、ブーズ・アレン・ハミルトンを退職し、岐阜にUターン。2009年秋より、地域再生機構理事に就任。2011年秋より、郡上市白鳥町石徹白在住。2014年春、石徹白農業用水農業協同組合を設立し、集落ほぼ全戸出資による小水力発電所建設に携わる。2016年、石徹白番場清流発電所稼働開始。現在、特定非営利活動法人やすらぎの里いとしろ 理事長、石徹白農業用水農業協同組合 参事、石徹白地区地域づくり協議会 事務局、石徹白洋品店株式会社 取締役、郡上カンパニー ディレクターなども務める。

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八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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