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特定非営利活動法人地域再生機構 副理事長 平野彰秀氏 / 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
学生時代に都市工学、環境学を学んだ後、コンサルティング会社でグローバル企業の経営戦略コンサルティングに従事していた平野彰秀さん。2008年に出身地である岐阜県にUターンし、以来、郡上市の石徹白(いとしろ)という小さな集落で地域住民と小水力発電事業を立ち上げるなど、地域の特性を活かした取り組みで地方再生に貢献してきた。なぜ、グローバルビジネスから地方再生の道を選んだのか。そのモチベーションと取り組みについて伺った。

コンサルティング会社を辞めて郡上へ

八尋
平野さんはブーズ・アレン・ハミルトン(現PwCコンサルティング合同会社)でコンサルタントを経験した後、2008年から郡上市を中心に地方再生に取り組んでこられました。その革新的な活動は、『おだやかな革命』(渡辺智史監督)というドキュメンタリー映画に紹介されるなど、いまや全国的に注目されています。

私自身、現在、コンサルティング会社の社長という立場にあって、平野さんにはたいへん興味を持っています。というのも、当社の若手社員の中には、平野さんのように地方再生の仕事に従事したいという人が少なからずいるからです。実際に、中小企業庁が募集していた「ふるさとプロデューサー」の研修生に手を挙げ、3カ月ほど休職して、石川県七尾市の地域活性化に取り組んだ社員もいました。

平野さんは、なぜ地方を拠点に活動を始められたのでしょうか?

平野
よく、私はグローバルからローカルに転身した人という捉えられ方をされるのですが、実は私自身はそういう意識はあまりありません。というのも、もともと就職したときから、いずれ地方の課題解決に携わりたいと考えていたからです。実際に、コンサルティング会社に勤務しながら、岐阜市でまちづくり団体を仲間と立ち上げ、仕事の合間に行き来して活動していました。一方、コンサルティング会社では経営戦略や課題解決の考え方などを学び、そこでの経験が現在の活動に活きています。

画像: コンサルティング会社を辞めて郡上へ

もっとも、Uターンしてきた当初は、都会とは別世界のように感じたのも事実です。移住から11年あまりを経た現在は、グローバルなコンサルティング会社に勤めていたときの仕事と、ここでの活動とは、さほど大きな違いはないと思うようになりました。

そう思うのは、郡上は人的な交流がさかんだからでしょうか。たとえば、郡上市のテレワークの拠点である、ここHUB GUJOには毎年、あるグローバル企業の方たちがプロボノ(専門性を活かしたボランティア活動)にやってきます。この活動には、欧米のビジネススクールにMBA(経営学修士)留学している方もインターンとして参加し、この地域の課題解決に取り組んでいます。そうしたことから、グローバルとローカルの境界は、もはやなくなりつつあると感じています。

交流により、ともにより良い道を探りたい

八尋
確かにいまは、郡上にいても都心と同じように暮らして、仕事をすることができるし、インターネットがあれば、世界中、誰とでもつながることができますね。

平野
インターネットの力は大きいですね。HUB GUJOには株式会社ブイキューブ(V-CUBE)という、テレビ会議システムを提供している企業のサテライトオフィスが入っているのですが、管理職の方が3カ月ずつくらい交代で滞在していました。本社は東京にあるのですが、社長さんはシンガポールを拠点に仕事をされていて、まさに場所を問わない働き方を全社で実践されているのです。ここに来られた管理職の方たちは、東京よりも移動のロスがないし、集中できるので、むしろ仕事がはかどるとおっしゃっていました。

八尋
いまや仕事をする場所は問わないわけですね。一方でやはり、郡上に移住されたことで意識が変わったところはあるのでしょうか?

画像1: 交流により、ともにより良い道を探りたい

平野
もちろん、最初はローカルに意識が向いていました。ただ、ここでさまざまな活動に従事するうちに、考え方が変化してきました。当初は、都市生活に主眼を置く大量生産・大量消費、大量のエネルギー消費を前提とする社会に対して問題意識を持っていて、それを代替するものとして、京都大学の広井良典先生(※)が提唱されているような「定常型社会」とか、ポスト資本主義社会をローカルな場で実践していきたいと考えていました。今でもこのような理念には共感していますが、少し、私自身の、世の中に対するとらえ方が変わってきています。

私がコンサル会社を辞めた後、リーマン・ショックや東日本大震災をきっかけに、地方に移住される方が増え、人々の価値観にも変化が生まれました。しかし、思ったほどは、大きな社会の変化は起こらなかった。人々の暮らしも企業の営みも、変わることなく続いています。その状況を見て、グローバルもローカルも「境界なくつながっている」からこそ、従来のあり方を否定したところで何も始まらないと考えるようになりました。極端な主義主張に凝り固まっていても課題は解決しません。いまは、都市の人との積極的な交流を通じて、お互い学び合いながら、柔軟な姿勢でよりよい方向をともに探ればいいと思っています。

(※)日立評論100周年記念サイト INSPIRATIONS 社会イノベーションをめぐる対話vol.05「激変する時代の中で、幸せで豊かな「定常型社会」について考える」

八尋
ローカルな場にいて、むしろグローバルに目を開かれたわけですね。

画像2: 交流により、ともにより良い道を探りたい

ローカルな場所の持つ力

平野
一方で、場所の力は大きいとも感じています。働き方改革にしても、地方での暮らしを見ることで、新たなヒントを得ることがあるでしょう。いま流行りのマインドフルネスも、郡上にいれば、森を歩いたり、川に飛び込んだりすることで、同様以上の効果が得られる。いったん仕事を離れ、自然の中を散策することで、自分が何を大切に生きているのか、気づかされることも多くあります。

都会から郡上に通ってくださるさまざまな方たちが、自然とともに暮らしてきた地元の人との交流を通して、より長いスパンで物事を捉えられるようになる、といった場面を見ることも少なくありません。そういう人々の変化を見るにつけ、我々がこの地でこうした活動をしてきた意義を感じています。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=佐藤祐介)

画像1: 地方からソーシャルイノベーションを
その1 もはやグローバルとローカルの境界はない

八尋俊英

株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。

画像2: 地方からソーシャルイノベーションを
その1 もはやグローバルとローカルの境界はない

平野彰秀

特定非営利活動法人地域再生機構 副理事長。特定非営利活動法人HUB GUJO 理事。1975年岐阜市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院環境学修士。北山創造研究所で商業施設プロデュースに携わった後、ブーズ・アレン・ハミルトン(現PwCコンサルティング合同会社)にて、大企業の経営戦略コンサルティングに従事。2008年春、ブーズ・アレン・ハミルトンを退職し、岐阜にUターン。2009年秋より、地域再生機構理事に就任。2011年秋より、郡上市白鳥町石徹白在住。2014年春、石徹白農業用水農業協同組合を設立し、集落ほぼ全戸出資による小水力発電所建設に携わる。2016年、石徹白番場清流発電所稼働開始。現在、特定非営利活動法人やすらぎの里いとしろ 理事長、石徹白農業用水農業協同組合 参事、石徹白地区地域づくり協議会 事務局、石徹白洋品店株式会社 取締役、郡上カンパニー ディレクターなども務める。

「第2回:土地や自然の持つ力に個が引き出される」はこちら>

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