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同時通訳者として順調なキャリアを築いていた2014年、彼女はスタンフォード大学大学院に1年間留学した。自らの会社を運営し、仕事の依頼もあるなかで、あえて海外留学を選んだ理由とは。留学期間中のこと、その後の変化について伺った。

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一念発起で挑んだアメリカ留学

——スタンフォード大学への留学は、どのような経緯で決断されたのですか。

関谷
私は2014年に渡米していますが、2010年以降に出てきたベンチャーのITサービスにはシリコンバレーで生まれたものが多く、シリコンバレーやその周辺の地域で関わる仕事が多くなってきていました。IT企業のスタートアップも注目されるようになり、シェリル・サンドバーグさんから受けたインパクトを肌で実感できたらという思いがありました。また、シリコンバレーでは小さな職場であっても、若い人からベテランまで自由に議論しながら楽しそうに仕事をしています。そんな光景を何度か目にするうちに、シリコンバレーというビジネス風土に興味が湧きました。

もうひとつは、いつかGoogleを生んだスタンフォード大学で自分が実践してきたさまざまな手法を理論として確立したいという思いもありました。私は、英語と日本語を使って仕事をしていますが、実は大人になってから海外に住んだことがありません。生活してみたら、違う視点をもてるかもしれない。行くのであれば、旅行や出張ではなく実際に暮らしてみたい。それもコミュニティーがないと、得られる体験も限られると考えて、それならば大学院の留学をめざそうと思い立ち、渡米しました。

——軌道に乗っていた通訳者としての仕事がなくなる怖さはありませんでしたか。

関谷
通訳会社は幸いにして、私自身が日本にいなくても継続は可能です。新規のお客さまは得られないけれども、迷惑がかからない程度に既存のお客さまのフォローはできます。その頃は、著書の執筆や講演会など自分自身が発信元となることが多くなり、その割合が増えるとアウトプットもきつくなるなと感じ始めていました。仕事がなくなることよりも、自分の中身が枯渇することのほうが怖かったですね。環境を変えて、新たにインプットするよい機会だと思いました。

画像: 一念発起で挑んだアメリカ留学

学びの場で広がる人との出会い

——留学中はどのように過ごされていましたか。

関谷
いまから考えれば、あれほど勉強しなくても卒業はできたと思いますが、その1年はとにかく勉強すると決めていたので、ほとんど学校から出ずに勉強していました。何かを一生懸命突き詰めていると、周囲から驚くような話が舞い込んでくることがあります。たとえば、担当教授から、通訳や翻訳のような異文化間のコミュケーションを学んでいるのなら、自然言語処理で翻訳テクノロジーを開発している学生がいるから一度会って、試作品を見てあげてほしいという内容の話です。学生と意見交換するなかで、次はビジネスモデルを一緒に考えてみようということになったりします。

いわゆるスタートアップですね。私はスタンフォード大学のスタートアップの歴史を見てきているので、プレゼンテーションのまとめ方から、ビジネスのプロトタイプは何かということまで関心をもってきました。学生主体のスタートアップを何件か手伝っていくうちに、キャンパスにいながらビジネスへの手がかりを得ることができました。

ちょうど私が卒業する2015年、安倍首相が日本の現役の首相として初めてシリコンバレーを訪れて、スタンフォード大学の学長と対談されました。その対談を機に、シリコンバレーと日本のビジネスを活性化しようという動きが出てきました。近年、日本企業がこの地域にオフィスを構えるなかで、通訳会社のニーズは高まり、パートナー企業探しも活発に行われています。

留学を経て見えてきた課題とは

——1年間の留学を経た後、ご自身に変化はありましたか。

関谷
具体的に何かを身につけて、今すぐ何かができるようになったということはありません。ただ、留学を経験して思うことはあります。それは、企業や組織において海外経験のある人の専門性や見識、人脈をどう取り込んで、フィードバックしていくかがいかに大切かということです。異質な存在として壁を作るのではなく、日本にいたら得られない価値観をどうグローバルビジネスに生かしていくのかを考える。その積み重ねが、何年か後に大きなうねりになって返ってくるはずです。

また留学後、現地にオフィスを置いたこともあり、アメリカでビジネスを始めたいという日本企業からよく相談を受けました。外国企業からは日本へのサービスや商品の売り込み方法、資金調達や事業計画などの相談を受けるようになりました。双方がWin-Winの関係になるような役回りをしていけたらと思います。専門的なコンサルティングとまではいきませんが、いまでは事業開発のモデルづくりにも協力しています。

画像: 留学を経て見えてきた課題とは
画像1: 話し手の内なるビジョンをとらえ、聞き手に響く言葉をつむぐ
【第3回】シリコンバレーでの出会い、そして気づき

関谷英里子 Eriko Sekiya

慶應義塾大学経済学部卒。スタンフォード大学経営大学院修了。日本通訳サービス代表。同時通訳者としてアル・ゴア元米副大統領、フェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ氏、ダライ・ラマ14世などの著名人の通訳を務める。NHKラジオ講座「入門ビジネス英語」の講師としても活躍した。主な著書に『カリスマ同時通訳者が教えるビジネスパーソンの英単語帳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『同時通訳者の頭の中』(祥伝社)などがある。

画像2: 話し手の内なるビジョンをとらえ、聞き手に響く言葉をつむぐ
【第3回】シリコンバレーでの出会い、そして気づき

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シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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