ビジネスのグローバル化やテクノロジーの発展に伴い、通訳を取り巻く環境は日々変化している。いま、この時代の流れにどのように向き合っていけばよいのだろうか。最後に英語を使うビジネスパーソンへのアドバイスも教えていただいた。

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テクノロジーは柔軟に活用する

——グーグル翻訳や通訳ロボットは精度が向上しており、AIなどのテクノロジーの進化が顕著です。これらの技術とは、どのように向き合っていけばよいと考えていますか。

関谷
使えるものは使ったらいいですね。人とマシーンの共存は、“augmented human”とも言いますが、いかに人間の能力を拡張させられるかということだと思います。機械を取り入れることで、人間を超えることがあるかもしれない。いまはオンライン上で同時通訳をするシステムも開発されているので、必ずしも通訳者が現場に控える必要はありません。近い将来、通訳の仕事が減ってしまうのではという危機感はあります。

日常生活のワンシーンやお決まりのビジネス上のやりとりであれば、ポケトークの台頭でもわかるように機械が代わりを務めてくれます。しかし、人と人のコミュ二ケーションは予期せぬことも起これば、細かなニュアンスまで推し量ることが求められます。デジタル時代だからこそ、言葉だけではない、心をつなぐ通訳者の存在は欠かせなくなってきました。心の内側までも反映させた言葉選びは、自動翻訳機にはできない、人間だけに備わった技量ではないでしょうか。

まずは、にこやかに握手から

——英語を使う環境にあるビジネスパーソンに向けて、何かアドバイスをいただけますか。

関谷
海外へ赴くときには、もう少し気楽にのぞんでもいいと思いますよ。実際に海外の方と会われるときには笑顔は大切です。日本にいたら、海外とのやりとりはメールがほとんどでしょうから、初対面ともなれば緊張します。挨拶するときに、名刺交換とお辞儀が一緒になる方が多く、相手の目を見ていないケースが多いですね。

第一印象は明るいほうがいいです。皆さんが飛行機のなかで「どう伝えよう、何を話そう」と着陸間際までパソコンに向かっている姿が想像されます。でも、そのままの真剣な硬い表情を引きずっていては、相手もとりつく島がありません。気さくな雰囲気で会われたほうが緊張はほぐれるものです。最初、にこやかに相手の目を見て握手をする。それさえできれば、日本のビジネスパーソンなら商談内容は周到に準備しているので、中身は問題ないはずです。はじめ良ければ、あとはうまくいくでしょう。

プレゼンテーションでは、言いたいことは山ほどあっても、あまり一度に伝えようとしないこと。内容を短く区切って、端的に話す。関係代名詞でつなげるよりも、短い文章で全体をまとめたほうが効果的です。

会議中にウトウトしている人を時折目にしますが、意外と見られています(笑)。何が退屈だったのか心配されるあまり、会議終了後、主催者にこっそり理由を尋ねられたことがあります。そのときは、目を閉じて考えていたのだとフォローしましたが、たとえ眠っていなくても、考える際は目を開けておいたほうがよさそうです。

画像: まずは、にこやかに握手から

人生を楽しむために学び続ける

——読者の皆様のなかには、英語を学び直したいという方も多くいらっしゃいます。そうした方へのおすすめを教えていただけますか。

関谷
まずは学ぶ目的は何かをはっきりさせることが大切です。「どうしたら独学で話せるようになりますか」という質問をよく受けますが、英語を学んでいるからには、目的があるはずです。ビジネス英語に限って言えば、ご自身の事業領域に近い海外の企業見学をしてみるのもおすすめです。また、自社と関連する海外の企業サイトを英語で読んでみるのも、講演やセミナーに参加して生の英語を聴くのもいいでしょう。身近な話題やテーマを掘り下げることで、おのずと言語の理解は深まっていくものです。

長い人生を楽しむためには、英語は格好のツールだと思います。ビジネスの世界でも言語を学び続けることは、その人の人生をきっと豊かに彩ってくれます。

最近、現代アートに興味をもつようになりました。日本国内のアート評論ではあまり情報を得られませんが、英語を使えばより多くの情報に出合えます。国内では評価されてない作品が、海外では高い評価を受けていたりします。同じことは仕事にも言えて、英語という言葉を武器にして、視野を広げて物事をみると思いもよらぬ好機が待ち受けているかもしれません。

——現代アートのお話がありましたが、どういったところに魅力を感じていますか。

関谷
通訳の仕事では技術系分野を扱うことが多いので、休日にはテクノロジーやサイエンスとは別次元のものに触れたいという思いがあります。それで気の合う友人と、月1回、映画やミュージカル、アート鑑賞と何でもいいのですが、クリエイティブな世界に触れて、見てきた感想を報告し合うことにしています。

現代アートはギャラリーめぐりをしていて、その面白さに開眼しました。アーティストは同時代を生き、時代性を切り取ることを常に考えています。世界の諸問題や人間の心の内側など、作品を前に鑑賞者には自由な解釈が許されています。通訳者もスピーカーの世界をインプットする過程でさまざまな解釈を施します。そういった意味では重なる部分があるのかもしれません。鑑賞後の友人との会話が楽しみで、思い思いの解釈で盛り上がっています。

ビジネスを通して、関心を掘り下げる

——最後に、2020年はどのような活動をされる予定ですか。

関谷
私自身は、仕事を通して興味や課題を見つけたら、それを掘り下げていきたいですね。昨年まではアメリカと日本を行き来することが多かったのですが、今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されるので、日本に軸足を置きます。そして、通訳業はもちろんのこと、日本で事業展開する海外企業との橋渡し役に力を注いでいきます。

画像1: 話し手の内なるビジョンをとらえ、聞き手に響く言葉をつむぐ
【第4回】柔軟な発想で、学びの楽しさを知る

関谷英里子 Eriko Sekiya

慶應義塾大学経済学部卒。スタンフォード大学経営大学院修了。日本通訳サービス代表。同時通訳者としてアル・ゴア元米副大統領、フェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ氏、ダライ・ラマ14世などの著名人の通訳を務める。NHKラジオ講座「入門ビジネス英語」の講師としても活躍した。主な著書に『カリスマ同時通訳者が教えるビジネスパーソンの英単語帳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『同時通訳者の頭の中』(祥伝社)などがある。

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一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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