平井 正修氏 臨済宗全生庵 七世住職 / 山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー
禅の精神について語り合う対談の最終回、日常生活の中で実践できる坐禅の方法を平井氏に伺う。「姿勢と呼吸を調えること」の大切さとともに、日常生活に活かしてこその禅であり、人が人になるための修行が禅であると平井氏は説く。

「第1回:『まずは黙って坐れ』から始まる」はこちら>
「第2回:静かに坐って意識を内側に向ける時間を」はこちら>
「第3回:自分は何者であるか、わかるために坐る」はこちら>
「第4回:『ほとけ』とは『ほどける』こと」はこちら>

まずは呼吸を調えることを意識する

画像: まずは呼吸を調えることを意識する

山口
坐禅に興味があっても、近くに坐禅できるところがない、時間がないという読者のために、日常生活の中でできる禅的な心がけなどがあれば、ぜひご教示ください。私も実践してみたいと思います。

平井
いちばん手軽なのは、姿勢と呼吸です。「一寸坐れば一寸の仏」と言われるように、ちょっと椅子に腰掛けて姿勢と呼吸を調えるだけでも坐禅はできます。本当に一息二息でも、どんな場面でもまずは呼吸を調えることを意識してみるとよいでしょう。坐禅で最終的にめざすのは自分の心と向き合うことですが、形がなく目にも見えない心というものにいきなりアクセスするのは難しい。精神医学では、どんなに怒りを感じても6秒間抑えれば気持ちが落ち着くとも言われます。姿勢を調えれば呼吸が調い、呼吸を調えれば、心が調います。

坐禅は一種の型、方法です。坐禅で培った自在な心を日常生活に生かして初めて生きてきます。逆に言えば、日常生活があってこその坐禅ですから、日常から姿勢と呼吸を通じて自分の心を調えることを意識すればよいわけです。また坐り方も一般の方はあまり窮屈に考える必要はありません。最初のうちは、背筋が伸びて、自分の呼吸が「丹田」のあたりにすっと落ちていくことを意識できれば、それでよいと思います。

自分の心と対話し、自分自身を見つめ直す

画像: 自分の心と対話し、自分自身を見つめ直す

山口
戦前の日本に滞在したオイゲン・ヘリゲルというドイツの哲学者が、東北帝国大学で教鞭を執っていた際に、弓道の精神を極めることで禅というものを理解していった体験をつづった『弓と禅』という有名な著作があります。彼は、禅の精神性が日本文化の根底にあるものと通じることを見いだしたわけですが、やはり禅を通して到達する普遍的な真理は、日本文化に限らず、ビジネスやスポーツなど、他の分野を極めることにも通じるものですね。

平井
山岡鉄舟先生は、禅というものは武人が行えば武道になり、芸人が行えば芸道になり、商人が行えば商道になると書いておられます。茶道、華道、剣道、柔道など、「道」というものの真髄は、それらを通して人格を磨き完成させていくところにあります。単に技術や強さを追い求めるだけではない。それが「道」に通底する精神ですね。仏教ではよく「自利利他」と言いますが、自分も他人も利することをめざす精神は、おそらくビジネスの世界においても大切なことでしょう。

山口
弓の修行自体が禅の修行にもなり、禅の修行自体が弓道を極めることにつながっているとわかったことが、ヘリゲルの悟りだったと。そう考えると、私たちも仕事や生活の中に禅の精神を生かすことができれば、よりよく生きられるわけですね。

平井
そうです。禅というのは基本的に人が人になるための修行なのです。人としてどう生きるかを考える、そのために自分の心と対話し、自分自身を見つめ直すのです。

自己との対話というのは、自分の心を感じるだけでなく、はるか昔から自分にまで連なる、生命のつながりを感じることだと思います。私の部屋には父の写真が飾ってあり、見るといつも「天知る、地知る、己知る」 という、子どもの頃から父に言われてきた言葉を思い出します。自分に恥ずかしくない生き方をするのが、人として一番大切なことだと。そうした父の言葉や、母や禅の師匠をはじめとする多くの方々から教えてもらったことが今の私をつくっている。そう考えると、自分自身と対話するというのは、その方々と対話することでもあると言えます。

禅は坐禅や写経のように孤独な修行を通して、自立して一人で生きられるようにすることを求めますが、同時に人は一人では生きていけないことを気づかせてくれます。小さな島国である日本では、自然や他人と共生する「和合」ということを昔から大切にしてきました。静かに坐って己を見つめることで、自立して一人で生きられる力を養う。と同時に、己を通じて生命のつながりを知り、また「自分が」という思いを捨てることで争いをなくし、人と和合していく。人らしく生きるために欠かせないことを、禅は私たちに教えてくれるのです。

画像1: 禅が教える、人らしく生きるために欠かせないこと その5 人は一人で生き、一人では生きられないことを知る

平井 正修(ひらい しょうしゅう)

臨済宗国泰寺派全生庵住職。1967年、東京生まれ。学習院大学法学部卒業後、1990年、静岡県三島市龍澤寺専門道場入山。2001年、下山。2003年、全生庵第七世住職就任。2016年、日本大学危機管理学部客員教授就任。現在、政界・財界人が多く参禅する全生庵にて、坐禅会や写経会など布教に努めている。『最後のサムライ山岡鐵舟』(教育評論社)、『坐禅のすすめ』(幻冬舎)、『忘れる力』(三笠書房)、『「安心」を得る』(徳間文庫)、『禅がすすめる力の抜き方』、『男の禅語』(ともに三笠書房・知的生きかた文庫)など著書多数。

画像2: 禅が教える、人らしく生きるために欠かせないこと その5 人は一人で生き、一人では生きられないことを知る

山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』、『武器になる哲学』など。最新著は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。神奈川県葉山町に在住。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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