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平井 正修氏 臨済宗全生庵 七世住職 / 山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー
近年、グローバル企業のリーダーたちに禅の思想やマインドフルネスが注目されている。その流れを受けて日本企業でも坐禅への関心が高まっているという。坐禅をすることで自分自身がわかると平井氏は説く。

「第1回:『まずは黙って坐れ』から始まる」はこちら>
「第2回:静かに坐って意識を内側に向ける時間を」はこちら>

文化として定着し始めている禅

画像: 文化として定着し始めている禅

山口
ビジネスの世界ではよく日本とアメリカの企業を比較しますが、日本企業のほうが遅れている領域は、今はもうほとんどないと言えます。ただ例外は「人と組織」の領域です。

例えば、西海岸の代表的なIT企業は禅をベースにしたマインドフルネスを、集中力や思考力、決断力、創造力などの向上に生かしています。坐禅とマインドフルネスは厳密には異なるものだと思いますが、ビジネスリーダーを育成する上でメンタルトレーニングが欠かせないと考えられているのです。

一方、日本企業の人材育成はこれまで業務に直接的に関わることが中心で、マインドフルネスを勧めても、「何の効果があるのか」、「すぐに役立つものなのか」などと言われてなかなか理解されませんでした。ですが、ご住職が企業で坐禅会をされていると伺って、禅やマインドフルネスに関する見方が変わりつつあるのではないかと感じました。

平井
実はこれから伺う会社も、社長さんご自身が10年以上前から当寺で参禅していて、禅の精神をよく理解されているのです。そのため、「何の役に立つのかは、続けていくうちに気づいてくれればいい」と、会社での坐禅会も強制ではなく、参加したい人が集まって行います。ただその彼も「10年前だったら会社でも反対されただろう」と言っています。おっしゃるようにGoogle社がマインドフルネスを取り入れていたり、スティーブ・ジョブズが禅に傾倒していたりといった情報があり、近年は逆輸入のような形で禅への関心が高まっています。ある大手銀行で私が行っている坐禅会でも、毎回30名の定員に対して10倍以上の申し込みがあります。宗教というよりも東洋思想的なものとして捉えられているため、参加のハードルが低くなっているのでしょう。いずれにせよ、文化の一つとして定着しつつあるのは、私たちにとっても嬉しいことです。

「坐ればわかる」と言われ続け

画像: 「坐ればわかる」と言われ続け

山口
ご住職自身は小さい頃から坐禅をされていたのですよね。お寺を継ぐ立場とはいえ、子ども心にはきっと辛かったでしょう。お父様から坐禅をする意味などについてお話はあったのでしょうか。

平井
ありませんでした。「何で坐禅するの?」と聞いても「坐ればわかる」の繰り返しで。臨済宗の修行道場でも、「坐ればわかる」としか言われません。もっとも、今は私が「坐ればわかる」と言っているわけですが(笑)。

山口
これは曹洞宗の言葉ですが、「只管打坐(※)」ということでしょうか。

平井
もちろん実際、坐らなければわかりません。やはり言葉にしないほうがいいのです。また「坐ればわかる」と言われて自分で見つけるほうがある意味おもしろいですよね。

ただそうは言っても、やはり今の時代それだけでは通じないので、導入として「自分のことがわかるようになるよ」と言っています。「自分のことはわかっています」と皆さん言いますが、ほとんどは「自分ってこういう性格」とか、「私ってこういう人間」という自分の思い込みです。仮に知り合い10人に「私はどんな人間か」と聞いてみたら、全員が違うことを言うでしょう。そのとき、どの自分が本物なのか。あの人の言う自分、自分の思う自分、どれがほんとうの自分なのか。「自分が思う自分が本物に決まっている」と言うかもしれませんが、それならば、他人から評価されたり叱られたりしたときに、嬉しかったり落ち込んだりするのはなぜですか。「もし自分というものがほんとうにわかっているなら、他人の評価に一喜一憂する必要がないはずですよね」と言うと、皆さん腑に落ちるようです。「だから坐るのです。自分は何者であるか、わかるために坐るのです」というふうに言っています。

(※)只管打坐:しかんたざ。雑念をいっさい捨て去って、ただひたすら座禅を組み、修行すること。

画像1: 禅が教える、人らしく生きるために欠かせないこと その3 自分は何者であるか、わかるために坐る

平井 正修(ひらい しょうしゅう)

臨済宗国泰寺派全生庵住職。1967年、東京生まれ。学習院大学法学部卒業後、1990年、静岡県三島市龍澤寺専門道場入山。2001年、下山。2003年、全生庵第七世住職就任。2016年、日本大学危機管理学部客員教授就任。現在、政界・財界人が多く参禅する全生庵にて、坐禅会や写経会など布教に努めている。『最後のサムライ山岡鐵舟』(教育評論社)、『坐禅のすすめ』(幻冬舎)、『忘れる力』(三笠書房)、『「安心」を得る』(徳間文庫)、『禅がすすめる力の抜き方』、『男の禅語』(ともに三笠書房・知的生きかた文庫)など著書多数。

画像2: 禅が教える、人らしく生きるために欠かせないこと その3 自分は何者であるか、わかるために坐る

山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』、『武器になる哲学』など。最新著は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。神奈川県葉山町に在住。

「第4回:『ほとけ』とは『ほどける』こと」はこちら>

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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