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Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?
Q2:自分の好き嫌いの市場価値は?
Q3:スキルを越えた自分のポジションを見つけるヒントは?
Q4:仕事を選ぶ時の基準は?
Q5:センスを育てるために教育の現場でできることは?
Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?
Q7:センスを排除しようとする人たちとの戦い方は?

Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?

私は、新規事業を立ち上げるという仕事をやっています。サラリーマンにはちょっと複雑な事情というのがありまして、本当に心から関心がないことをやらされる人たちっているわけです。そういう人たちというのは、やっぱりスキルとセンス以外になにか“関心”という軸があって、どうも興味がない、心から興味を持ててないものに関してアサインされると、成功しないのは見えていてもやることになる。この“関心”という軸に関して、何かコメントがいただけたらと思います。

画像: Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?

楠木
今の“関心”という言葉は、私にとっての“好き”ということとほぼ同じだと思います。例えばそのことについて、いろいろな情報を取得するのがまったく苦にならない。そのことについて、自分の時間を連続して投入するのが苦にならないどころか時間が経つのも忘れてしまう。そのことについて人に話したくなる、こういうことが行動のレベルで観察できるのが“好き”ということだと思います。

これはやっぱりなかなか操作ができないので、一番の王道は、自分の関心に仕事を引きつけていくということです。ただ、ひとつの仕事の中でも幅がありますので、なるべく自分の関心にフィットするように、転職とか部門異動とかをしなくても、その仕事自体を再設計することというのはできると思うんです。そのほうが絶対成果が出ますので、組織の上にいる人とか周りの人にとってもありがたい。

山口
私は基本的に全然頑張れない人間なんです。そして努力が嫌いです。それでも会社の仕事ではある程度頑張らないと、周りやお客さまに迷惑をかけてしまう。そこでものすごく努力をしたのが、「その与えられたつまらない仕事の中に、どうやって面白さとか自分の今の人生における意味合いを作っていくか」ということなんです。この問題は、それがないと全然頑張れない人間だったので、相当工夫して考えるようにしていました。

もう、どう考えても変革が起こらないようなガチガチの保守的な会社に入って、イノベーションのプロジェクトをやっても失敗するだろうなというときに、通常だとやる気が出ませんよね。そこでちょっとモードを替えまして、「ここまでガチガチになる組織というのは、一体どうやったら作れるのか。それを文化人類学者として研究しよう」と。そういうモチベーションで、「よし、またあそこの部族に入って、会議の模様を観察できるぞ」と考えるようにして、「わっ、今日もひどいわ」なんて思いながらその組織を研究するということをやっていました。

部下にもこのモチベーションを共有して、「これ、なかなかああいう会社はないから、あの保守的なガチガチさが一体どれだけすごいかっていうのを自分なりに観察して、俺にレポートを出して」と言うと、俄然彼らの目がキラキラしてくるんです。

楠木
よくわかります。私が尊敬する人で、出口治明さん(※5)という人がいます。その方が日本生命に就職した当時は書類が電子化されていない時代なので、全部紙でやっていた。それで、いただいたお葉書を台帳に転記していくという作業をやらされたときに、みんなは「なんでこんなこと…」と不満顔なのに、出口さんは名前とその筆跡の相関関係を考えながら、一人ひとりをイメージしていたらすごく楽しくて、全然苦にならなかったと。そういうようなことですよね。
(※5)出口治明 1948年~ 日本の実業家。ライフネット生命株式会社創業者。現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長。

山口
そうですね。私は、その能力はマネージャーにこそ必要だと思います。今の日本では、経営資源としてお金も手に入るしテクノロジーも手に入るわけですが、常に枯渇しているのは“モチベーション”だと思っています。モチベーションというのは、資源ゼロで作れる人は作れるという錬金術なんです。ですから、これを作れる人はすごいということなんですけれども。

それを教えられたのは、ピーチ・アビエーションという格安航空会社の井上慎一社長(現CEO)です。10年ほど前に、井上さんに組織づくりを手伝って欲しいと言われてお会いしました。当時はデフレ、デフレと言われていまして、安くする以外に日本の経営者は能がないのかと、僕も若干否定的にお伺いしたんです。そのとき、「なんで今さら格安航空の会社を作るんですか」とお聞きしたら、井上さんはもう堂々と「戦争をなくすためです」と言われたんです。お酒を飲んでいたので、この人酔っ払っているのかと思ったんですが。

つまり、若いときからいろいろな外国にみんなが行ってくれれば、その国に友達ができて、その国の文化もたくさん学習できて、相互のリスペクトも生まれて、最終的には戦争をしようと思ってもそれが抑止力になる。経済的に豊かな人でなければ乗れないようなエアラインには、そういう役割を果たすことはできない。だから自分は、高校生が2〜3日アルバイトすれば外国に行けるような、そういうインフラを作りたいんだと言ったんです。

これは後で改めてお聞きしたとき、井上さん自身が会社の命令で「格安航空会社を作ることになったから、おまえがやれ」と言われたときに、焼き鳥を食いに行って「やってられるか!」と思ったらしいんです。

楠木
それは、かならず焼き鳥でなければいけない。

山口
はい、これはやっぱり焼き鳥なんです。そこでビール瓶を投げつけるみたいな心境になっていた。しかし、とはいえ社命だし、三顧の礼で、役員総出でやってくれとなっているので、「ちょっと待てよ」「これは何か意味があるのかもしれない」と思い、この会社は世の中にどういうインパクトが出せるのかを改めて考えたそうです。格安航空会社のネットワークをアジアで作る、これによって人の交流が生まれて、相互の文化交流が起り、戦争のないアジアの構築に一役買うことができる。もう二度とアジアで、戦争は起こさせない。そう思い至ったその瞬間に、「自分の人生はこれだ」と思ったらしいです。

楠木
ただ、外形的にはただの格安航空。

山口
そうなんです。

楠木
いや、それはいい話です。

山口
表層的な仕事でも、その奥にどういう意味のサテライトを作れるのかが鍵だと思います。

Q1:自分のセンスを知り、磨く方法は?
Q2:自分の好き嫌いの市場価値は?
Q3:スキルを越えた自分のポジションを見つけるヒントは?
Q4:仕事を選ぶ時の基準は?
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Q6:望まない仕事でも関心を持って取り組む方法は?
Q7:センスを排除しようとする人たちとの戦い方は?

画像1: 楠木建×山口周『仕事ができるとはどういうことか』-「Q&Aライブ」Question 6

山口 周(やまぐち しゅう)

独立研究者・著作家・パブリックスピーカー。1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』、『武器になる哲学』など。最新著は『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。神奈川県葉山町に在住。

画像2: 楠木建×山口周『仕事ができるとはどういうことか』-「Q&Aライブ」Question 6

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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