「第1回:自己認識と他者認識。」はこちら>
「第2回:他者認識の取捨選択。」はこちら>

「自己認識」が行き過ぎると「自意識過剰」になってしまいます。このさじ加減が、非常に難しい。自意識過剰は自己認識の大敵です。自意識が過剰だと、自分が大きくなりすぎて他者の認識がうまく入ってきません。前回お話しした、自己認識と他者認識のラリーができなくなります。

さらに良くないのは、「自己陶酔」。これが自己認識の一番の大敵です。自分を客観視しなければ自己を正しく認識できません。自己を一歩離れたところから客観視する。これが歯止めとなります。人間は自分については甘いものです。歯止めがないと、すぐに自己認識は自意識過剰になり、やがて自己陶酔になってしまう。およそあらゆる行為のなかで、自己陶酔というのがもっともみっともないことだと思います。

「自分を小さくしておく」というのは、謙虚とは少し違うんです。僕は、とにかく自分について悲観的で、物事は大体うまくいかないと思っているタイプです。生まれ持って自分に自信があるという人がいますよね。先験的な有能感があって、「まあ、この先、どうなるかわからないけど、絶対何があっても俺はやっていける」という人。屈託がない。人からも好かれる。僕は逆のタイプなので、若い頃はこういう人をうらやましいと思っていました。

ただ、悲観的に生きていても、悲観を突き破って入ってくる楽観というものがたまにはあるんです。僕は「○○が上手ですよね」と言われたときに、「そんなことないだろう」、「これはお愛想で言っているに違いない」と思ってしまいます。繰り返しますが、謙虚さではなく、根が自分について悲観的なのです。ところが、そういうコメントを複数の人から繰り返しもらうと、さすがに「みんながそういうのだから、そうかもしれないな」と、ようやく自分の悲観の壁を突き破って、楽観が入ってくる。これは自信につながります。

自分についての悲観というのは、自信がないというのとほぼ同じです。自信がないとやはり仕事はうまくいきません。自信はすごく大切です。自信が好循環を生み出します。ところが、「自信を持て」と言われても、こんなに難しいことはありません。

ただし、自信に至る道筋というものはあるわけです。僕の個人的な好みは、事前に悲観するというのがいいのではないかと思っています。悲観を突き破って入ってくる楽観は、地に足の着いた自信になるんです。僕は、自分については悲観的すぎるぐらいでちょうどいいと思っています。うまくいかなくても平気でいられるし。だいたいのことはうまくいかない。そう思っていたほうがかえって気楽です。

自己認識と他者認識のギャップを知ることが成長の起点になるわけですが、マーケットインに振り切ってしまうと、他者に合わせるばかりで自分をなくしてしまう。それでは元も子もない。自己認識と他者認識のラリーにおいて、サーブ権は常に自分が持っていることが大切だと思っています。まずは自分を出す。それを打ち返してもらうことでラリーがはじまる。

いいラリーを続けるためには、「自分の土俵」で勝負するということも重要です。「ここは土俵じゃないな」というのも、正しい自己認識の産物であり、仕事の上ですごく大切だと思います。

若いときにはまだ自己認識も得られていないし、自分の土俵がわかっていないので、「迷ったらやる」という姿勢でいいと思うんです。でも、いつまでたっても何でもやる人っていますよね。これは自己認識に欠けている。自分の土俵でなかったら手を出さない。それもまたひとつの能力だと思います。

画像: 自己認識-その3 悲観主義者の楽観。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第4回:自己認識に近道なし(回り道もなし)。」はこちら>

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