「思い」のある人が社会を動かす
八尋
これからは、ビジネススキームや組織の力というよりも、やはり一人ひとりがこうありたい、こうしたいという強い「思い」が大事になってくるのでしょうね。
米良
特にクラウドファンディングの場合、世の中にどういうインパクトが出せるかわからない段階で資金を集めるわけですから、「思い」と行動でしかそれを示すことはできません。
八尋
私も日本長期信用銀行(現・新生銀行)でプロジェクトファイナンスを担当していた際に印象に残っているのは、このプロジェクトを絶対に成功させたい、支援したいという強い志を持った人たちですね。インドネシア政府と対峙する銀行マンがいましたし、ある日本のゲームを米国で映画化するプロジェクトでは、熱意を持った凄腕のプロデューサーがいました。その「思い」が、結果的にキャッシュを回すことにつながりました。
米良
この7月、READYFORのクラウドファンディングを活用して、国立科学博物館の海部陽介先生が「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」というプロジェクトを達成されたのですが、これもまさに関わった方たちの「思い」が実った例と言えます。
これは、「3万年以上前に大陸から渡ってきた最初の日本列島人は、丸木舟を漕いでやってきた」という仮説のもと、台湾から与那国島まで実験航海をするという壮大なプロジェクトです。
クラウドファンディングの支援者は文化人類学的な興味を持っていたり、ロマンを感じたり、冒険心をくすぐられたりして、応援してくださった。私は、寄付に近い活動でもリターンは必ず必要だと思っているのですが、それは必ずしもお金である必要はないんですね。このプロジェクトのように、ギブアンドテイクがうまく設計できれば、皆が望む方向へお金の流れを変えることができるのだと思います。
社会課題解決のためのクラウドファンディングへ
八尋
私が経済産業省にいた2009年頃に新規産業を増やそうと、たとえば地域のブランド米や地酒などに購入者が支援するような、クラウドファンディングに近い活動をソーシャルファンドとして応援したことがあります。当時はまだクラウドファンディングを知る人は少数でしたが、10年で状況は大きく変わりましたね。
米良
SNSで個人が情報発信できるようになり、誰もが「思い」を伝えられるようになったことが大きいと思います。
八尋
いまはまさに過渡期で、次の10年くらいでまた大きな時代の転換期を迎えるようにも思いますが、クラウドファンディングが果たす役割も変わっていくのでしょうか?
米良
READYFORのクラウドファンディングを活用して筑波大学の落合陽一准教授が研究費を集めた事例が出てきたことで、大学などでの研究開発にお金を流す取り組みがますます増えていくと思います。未来をつくるうえで研究開発は不可欠ですが、その予算の付け方や分配の仕方に、多くの人が危機意識を持っているからです。
地方創生にも、クラウドファンディングは有効です。私たちは多くの地方銀行や信用金庫と提携していますが、まずクラウドファンディングで創業支援をして、事業がスタートしてから地銀が融資をする流れも増えるでしょう。
医療や福祉の分野などでも、解決すべき課題はまだまだたくさんあります。社会が必要とするところへお金を流すしくみとして、クラウドファンディングは重要な役割を果たすようになっていくのではないでしょうか。
当然、大きなお金を動かすにはファイナンススキームが必要です。その場合は、金融機関だけでなく、その他の企業や政府も含めて、パワフルなパートナーの力を借りながら、インパクトのある流れをつくっていきたい。
すべてを自前でやろうとは思っていません。もちろん、会社の業績を上げることは大事ですが、私たちが取り組みたいのは、あくまでも「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」ことなのです。
社会にインパクトを与えるために、パートナーシップは欠かせない
八尋
既存の金融機関の取り組みやテクノロジー、国の政策が追いついていない領域はまだまだ無数にあります。そうした領域の課題に取り組む米良さんたちの活動が起点となって、周りを巻き込みながら、動きが加速していけば、本当に社会課題の解決につながっていくでしょうね。
米良
そのとき、私はあくまでも自分たち自身の手で社会を変えたいと思っているんですね。国家予算の付け方などもそうですが、他にプレイヤーがいると自前でやる必要はないと手を引きがちですが、私はやはり自分たちが変える主体になりたい。そのうえで、インパクトのある動きにしていくために、多様なパートナーとの連携が不可欠だと思っているのです。
八尋
ただ、大企業も中央政府も、裁量権を持った、ビジョンにあふれる人ばかりとは限りません。実際には、裁量権のない現場の若い人たちが米良さんたちと勝手にパートナーシップづくりをするのは難しいでしょうし、さまざまな障壁があるのではないでしょうか?
米良
その方たちの上司を説得するのも私たちの役目だと思っています。それは普通のビジネスでも同じですよね。社会を変えるためには、個々の意識を変えていく必要がありますから、時間がかかるのは当然のことだと思っています。
(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)
八尋俊英
株式会社 日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、現在に至る。
米良はるか
READYFOR株式会社 創業者 兼 代表取締役CEO。1987年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2011年に日本初・国内最大のクラウドファンディングサービス「Readyfor」の立ち上げを行い、2014年より株式会社化、代表取締役 CEOに就任。World Economic Forumグローバルシェイパーズ2011に選出、日本人史上最年少でダボス会議に参加。現在は首相官邸「人生100年時代構想会議」の議員や内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進室」専門家を務める。
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