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右:一般社団法人日本トップリーグ連携機構会長 川淵三郎氏/左:日立製作所執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEO 阿部淳
日本全体に大きな衝撃を与えた「ドーハの悲劇」。それでも、ワールドカップが国民的な関心事になったわけで、悲劇的な出来事も、発展の力になると考えていると川淵氏は語る。それに対し、日立が過去に危機に直面した状況を重ね合わせ、そこから必死になったからこそ、いまがあると語る阿部。対談最終回、川淵氏にサッカー界でのIT活用や日立への期待を聞いた。

「第1回:サッカーのプロ化に取り組んだ原点は『挫折経験』」はこちら>
「第2回:目標設定の仕方で、勝負は決まる」はこちら>
「第3回:同じ方向をめざしていくためのリーダーシップと信頼感」はこちら>
「第4回:一人ひとりの経験と、チームメンバーのコミュニケーションが成果を生む」はこちら>

日本サッカーの発展に寄与した「ドーハの悲劇」

阿部 
日本代表チームが現在のように成長するには、川淵さんもいろいろとご苦労されたのではないでしょうか。

川淵 
そうですね。ぼくらの時代は、ワールドカップは夢のまた夢といった、遠い存在でしたが、1990年代に入ると、指導者がしっかりチームをまとめさえすれば、ワールドカップも夢じゃないことが分かりました。選手の実力が上がっていたんですね。それを教えてくれたのが、オフト監督です。Jリーグがスタートした直後に、ワールドカップの予選が行われ、ドーハの悲劇があったわけですが、Jリーグができていきなりあの状況までいくとは思っていませんでした。

阿部 
「ドーハの悲劇」は、国民的に大きな衝撃でしたが、日本サッカーの発展に影響はありませんでしたか。

川淵 
いまだから言えるのですが、あの予選に勝って1994年のアメリカ大会に出られていたら、ワールドカップに出場するという感動は半減していたのではないでしょうか。また、サッカーは、ほんの何秒かで天国から地獄に落ちることもあるスポーツだということを、多くの人たちに理解してもらえた点でも、たいへん大きな役割を果たしたと思います。あれほどのショックを、日本のサッカーはそれ以前もその後も味わったことがありません。日本全体に大きな衝撃を与えたことでワールドカップが国民的な関心事になったわけですから、悲劇的な出来事も、発展の力になると考えています。

画像: 日本サッカーの発展に寄与した「ドーハの悲劇」

阿部 
それはまったく同感です。当社は10年ほど前に、大きな赤字を計上して危機に直面しました。しかし、その衝撃があって、社員全員が必死になって自分の仕事を見直し、今後どういう会社にしていくかということを、真剣に考えました。あの経験があったからこそ、いまがあると言えます。

川淵 
ぼくも、あの時は驚きました。しかし、その後V字回復を遂げられて、さすがだなという思いを新たにしました。先ほども、きっかけをどう生かすかという話がありましたが、衝撃的な出来事も前向きに対応していくことで、良いきっかけに転じることができるわけですね。

ITの活用で技術力や戦術力のアップを図る

阿部 
私どもは、いまIT(情報技術)とOT(制御技術)を融合させて、社会インフラの革新などに役立つ技術や製品を提供する「社会イノベーション事業」に力を注いでいます。川淵さんは、いま日本トップリーグ連携機構の会長として、サッカー以外のさまざまなスポーツの改革も指導されていますが、スポーツの分野でITが貢献できることはあるとお考えですか。

川淵 
それは、ものすごくたくさんあると思いますね。実はJリーグの発足当初に、パスの精度やランニングの距離などを測る技術があるので、そういう技術を使ってみないかという話がありました。当時はまったく関心がなかったのですが、客観的なデータは説得力があると感じています。

阿部 
その点は、第3回でお話に出た、具体的な事例を背景にした理論的な説得ということに通じますね。

画像: ITの活用で技術力や戦術力のアップを図る

川淵 
おっしゃる通りです。Jリーグの立ち上げの頃は、企業や自治体に対していろいろと理論武装し説得してきました。また、プロ化によって何が変わるんですかとメディアに質問されたこともありました。練習について言うと、海外のプロクラブでは練習からトップフォームでやらないと試合に出してもらえませんから、練習をサボろうと思う者は一人もいないわけです。Jリーグができる以前のJSLのチームは企業のアマチュアチームですから、選手は会社の宣伝のために勝つという以外に特にインセンティブがなかった。頑張っても給料が上がるわけではないし、引退したら会社員として食べていけますから、練習もそこそこ行っていればよかったわけです。しかし、プロ化したらそうはいかない。頑張れば多くの人に応援してもらえ、観客が増えることで年棒が上がっていきます。

いまITを使えば、選手が試合中にどれだけ走ったかとか、パスの正確さがどれだけだったかということが、具体的な数値で出てきますから、これは指導者が意見を言うよりもずっと説得力があります。ボールが四方八方から出てきて、ひとりでそれをどうコントロールするかといった練習にも、データから得たヒントが生かされるようになっています。ですから、現在は、説得するための理論武装の手段としてはもちろんのこと、選手の技術力アップやチームの戦術のレベルアップにも、ITを積極的に活用する時代になっています。パスの正確さにしても、運動量にしても、実際のデータを見せられれば、選手も考え直さざるを得ませんよ。たとえば、海外チームの屈強な選手を前に、前線でボールをキープするのが、かつて日本の選手は苦手としていました。ところがドイツのプロサッカーリーグ、ブンデスリーガで活躍する大迫勇也選手などは、その経験から日本で一番、前線でボールをキープできる選手になりました。そういう時の体の使い方などを細かく分析すれば、もっと変わっていくと思います。分析の仕方によって、個々の選手の能力はものすごくアップしていく可能性があります。そういう意味で、ITは頼りになりますし、それは見ていて面白いですね。

阿部 
それでは最後に、日立への期待などありましたら、お聞かせください。

川淵 
日本の技術をベースにした企業力という点で、日立の実力をリスペクトしています。その中でも情報・通信事業の分野をはじめとした日立の技術力は、これからも社会を支えていく上で、なくてはならないものだと考えています。それくらい、ぼくらの年代は日立の技術に対して信頼を持っています。その技術を世界の舞台でどう発揮してくれるか。イギリスでの鉄道事業などもそうですし、たいへん大きな期待を持って見ています。その期待感は、日立社員の皆さんが考えている以上のものがあるのではないでしょうか。ぼくは、大学時代から小平記念館などを見て知っているので、特に大きな期待を持っています。

阿部 
それは、私たちにとって、何よりの励ましの言葉です。本日は、仕事に役立つお話もいろいろとお聞かせいただき、たいへんありがとうございました。これからの仕事に、ぜひ、生かしていきたいと思います。

画像1: 挫折も衝撃も、成長発展の「きっかけ」に変えられる
【第5回】悲劇的な衝撃も、発展の力になる

川淵 三郎(かわぶち・さぶろう)
1936年、大阪府出身。早稲田大学サッカー部在学中にサッカー日本代表に選出。1961年古河電気工業に入社。1970年、現役引退。日本代表監督などを経て、1991年Jリーグ初代チェアマンに就任。2002年日本サッカー協会会長。2014年から日本バスケットボール界の改革に関わる。2015年、日本トップリーグ連携機構会長。2016年、日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザーに就任。2018年より日本サッカー協会相談役。『虹を掴む』、『「J」の履歴書』、『51歳の左遷からすべては始まった』、『采配力』、『独裁力』、『黙ってられるか』など著書多数。

画像2: 挫折も衝撃も、成長発展の「きっかけ」に変えられる
【第5回】悲劇的な衝撃も、発展の力になる

阿部 淳(あべ・じゅん)
1984年 株式会社日立製作所入社、2001年 ソフトウェア事業部DB設計部長、2007年 日立データシステムズ社 シニアバイスプレジデント、2011年 ソフトウエア事業部長、2013年 社会イノベーション・プロジェクト本部・ソリューション推進本部長、2016年 理事 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部長(大みか事業所長) 兼 ICT事業統括本部 サービスプラットフォーム事業本部長、2018年 執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEO

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