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右:一般社団法人日本トップリーグ連携機構会長 川淵三郎氏/左:日立製作所執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEO 阿部淳
Jリーグを立ち上げた川淵氏の実行力はどこから生まれてきたのか。早くから、海外のスポーツを取り巻く環境を目にした経験が、具体的なビジョンへとつながり、それを実現するためのプロセスを考えていったという。また、サッカーだけでなく、会社員としての経験があったからこそ、Jリーグを成功へと導くことができたと語る。阿部も同意する、成功のための目標設定の仕方とは―?

「第1回:サッカーのプロ化に取り組んだ原点は『挫折経験』」はこちら>

Jリーグを成功に導いた高い目標設定と実行力の背景

阿部 
Jリーグを立ち上げるには、サッカー界の人たちはもちろん、地域社会や企業の人たちなど、多様な人々との交渉が必要だったと思います。当時は、スポーツのプロ化を考える際、企業をサポーターにするというのが普通でしたよね。それに対して、川淵さんは、地域社会と結びつけることで、サッカーを根付かせていこうと考えられた。これは、かなりハードルが高い構想だったと思います。いくらレベルの高い構想を描いても、絵に描いた餅で終わってしまうことが、仕事でもあります。川淵さんの実行力は、どこから生まれてきたのでしょうか。その背景には海外のサッカー事情をよく知っていたということがありますか。

川淵
確かにそれもありますね。まだ海外渡航に制限があった時代から、ぼくらは海外に行って、良い刺激を受けてきました。たとえば、ドイツには国内に20以上のスポーツシューレというのがあって、ぼくが行ったデュイスブルクでは素晴らしい芝生のサッカーグラウンドがあり、ホテル並みの宿泊施設がありました。施設内には3つも体育館があって、ぼくたちが行った時に、障がいのある人たちが、座ったままでバレーをしていました。いまでいうシッティングバレーですね。ぼくはそういうものがあると、その時初めて知りました。当時の日本では、まだ障がい者スポーツという点で遅れていたのです。施設の素晴らしさ、老若男女がこぞってスポーツを楽しんでいる姿に、大いに刺激を受けました。

画像1: Jリーグを成功に導いた高い目標設定と実行力の背景

阿部 
そういう体験が、高いレベルの目標設定の原点にあったわけですね。

川淵 
はい。ヨーロッパには地域に根ざしたスポーツクラブがあって、そこに地域の人々が集まって、人生の楽しみを分かち合っていました。そういうものを知る機会を得たことは、とても良かったと思います。サッカーのプロ化を考えた時に、そういう具体的なイメージがビジョンとしてあり、そこまでのプロセスを考えていきました。

阿部 
そのようにレベルの高い構想を持つことも、ぶれることなく目標の実現にまい進する上では大切なことでしょう。

画像2: Jリーグを成功に導いた高い目標設定と実行力の背景

川淵 
おっしゃる通りです。世界の先進国を手本にゴールをめざしてきたことが、日本のサッカー界の成功につながっていると思います。TVの放送権を含めたJリーグのビジネス構想についても、アメリカやヨーロッパの仕組みなどを参考にしながら、どういうものが日本に適しているかを考え、日本にマッチした形に変えてきました。そういう意味では、一度世界を見たから良いというのではなく、常に先進の事例を見続けていくことが大切です。サッカーについて言えば、やはり日本は最先端ではないので、世界を勉強しながら日本に合った方法でやっていくべきだと考えています。

阿部 
そこは当社の仕事にも通じます。海外を舞台にした仕事も広がっていますが、まだ海外の企業と比べるとかなり開きがあるので、もっと高いところをめざして頑張らないといけないというのが現状です。ですから、つねに最先端を見続けることが大切ですね。

川淵 
そうですね。目標をこの辺で良いかと設定してしまえば、それ以上伸びることはありません。もちろん、完全に無理だと分かるような目標を設定しても意味がありません。実現可能だけど、かなり努力しないと難しいという高い目標を設定することが大切ですね。目標の設定の仕方で勝負が決まってしまうということがあるのかも知れません。

阿部 
地域社会の中にスポーツクラブをつくって、その代表がプロとして活動することで、町全体を活性化していくという具体的な目標のイメージを、川淵さんがお持ちになっていたからこそ、たくさんの人たちに対する説得力も生まれたのだと思います。それでも、国内では、そのようなものがありませんでしたから、説得にはご苦労されたのではないでしょうか。会社の仕事で培った経験は、何か役立ちましたか。

川淵 
大いに役立ちました。ぼくの会社員時代にはTQC(Total Quality Control:統合的品質管理)運動が盛んでしたので、会社での1週間の合宿研修なども何度も受けました。そういうところで、物事を定量的に把握するための分析や考え方のほか、どういう目標設定で、どういう手順で取り組んだら、みんなの力を合わせて業務を推進していくことができるのかといったことを学びました。そういう経験がなくて、サッカーだけやってきたら、いまのような形でJリーグは存在していなかったと思います。

画像1: 挫折も衝撃も、成長発展の「きっかけ」に変えられる
【第2回】目標設定の仕方で、勝負は決まる

川淵 三郎(かわぶち・さぶろう)
1936年、大阪府出身。早稲田大学サッカー部在学中にサッカー日本代表に選出。1961年古河電気工業に入社。1970年、現役引退。日本代表監督などを経て、1991年Jリーグ初代チェアマンに就任。2002年日本サッカー協会会長。2014年から日本バスケットボール界の改革に関わる。2015年、日本トップリーグ連携機構会長。2016年、日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザーに就任。2018年より日本サッカー協会相談役。『虹を掴む』、『「J」の履歴書』、『51歳の左遷からすべては始まった』、『采配力』、『独裁力』、『黙ってられるか』など著書多数。

画像2: 挫折も衝撃も、成長発展の「きっかけ」に変えられる
【第2回】目標設定の仕方で、勝負は決まる

阿部 淳(あべ・じゅん)
1984年 株式会社日立製作所入社、2001年 ソフトウェア事業部DB設計部長、2007年 日立データシステムズ社 シニアバイスプレジデント、2011年 ソフトウエア事業部長、2013年 社会イノベーション・プロジェクト本部・ソリューション推進本部長、2016年 理事 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部長(大みか事業所長) 兼 ICT事業統括本部 サービスプラットフォーム事業本部長、2018年 執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEO

「第3回:同じ方向をめざしていくためのリーダーシップと信頼感」はこちら>

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