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オークネット代表取締役社長CEO 藤崎慎一郎氏/一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏
二次流通(リユース品の流通等)のマーケットをデザインすることで、サーキュラーエコノミーの可能性を拡張してきたオークネット。特にニ次流通のサービスによって、一次流通(新品の流通等)の顧客との新しいつながりを作る“Selloop(セループ)”という事業に関心を持っていた楠木建特任教授。今回は代表取締役社長CEO 藤崎慎一郎氏に、その仕組みと価値を解説していただいた。

「第1回:二次流通のマーケットをデザインする」はこちら>
「第2回:二次流通の新コンセプト“Selloop(セループ)”」

※ 本記事は、2024年4月8日時点で書かれた内容となっています。

“Selloop”という二次流通の革新

楠木
オークネットが多様な商材でオークション事業を展開されていることは理解しましたが、それとは別に“Selloop”という二次流通サービスの立ち上げを支援する事業も展開されています。僕は、これがサステナビリティをビジネスとして成立させるひとつの手本かもしれないと思っているのですが、まずは藤崎さんに詳しく解説していただきたいと思います。

藤崎
わかりました。“Selloop”は、これから二次流通に参入を考えている企業に、コンサルティングやPoC(概念実証)支援、専門機能を提供して長期的にサポートする共創型BPO(※)支援を行うサービスです。私たちがリユース事業で蓄積してきた技術やノウハウなどのケイパビリティを、お客さまの事業で生かしていただくことでビジネスに新しい価値を生み出すことを目的としています。

※ Business Process Outsourcing:企業活動における業務プロセスの一部を一括して専門業者に外部委託すること

“Selloop”の内容や価値を理解していただくために、共創パートナーである株式会社千趣会様が展開されている『ベルメゾン』のサービスを例にご説明します。『ベルメゾン』は、ファッションを中心にインテリア・雑貨やグルメなどを取り扱う通販カタログ・通信販売を行っているブランドです。そこで、1年半ほど前から“kimawari(キマワリ)”という不要になった衣料品や靴・かばん、アクセサリー・ジュエリーなどの宅配買い取りサービスがはじまっています。これを支えているのが、弊社の循環型マーケットをデザインする力で、“Selloop”が提供する価値でもあります。

画像: 藤崎慎一郎氏

藤崎慎一郎氏

このサービスは希望される会員様に段ボールをお送りして、家で眠っている不要になった品を詰めて送り返していただくと、われわれが査定して値段をお付けし、それを『ベルメゾン』で使えるポイントとしてお戻しするという仕組みです。

品物は『ベルメゾン』で購入された商品に限らず送ることができます。会員であるお客さまにとってはタンスを整理することでリユースやリサイクルができて、ポイントもつく。断捨離をすることで、サステナブルな環境作りに貢献できるし、気持ちよく次の品物を買える。それが“kimawari”というサービスです。これを行うために、その仕組みづくりからリサイクル品とリユース品の切り分けや値付け、再販まですべての工程で弊社の二次流通でのケイパビリティが生かされています。

“kimawari”により、千趣会様はサステナビリティへの貢献はもちろん、会員であるお客さまとの新しい関係性を作ることができ、しかもこれまで売るのみだったワンウェイ・コマースを「サーキュラーコマース」に進化させることが可能になりました。つまり二次流通のサービスが、一次流通の新しい価値を生み出した、そういう事例になります。

プロモーションという気づき

楠木
なるほど、二次流通の仕組みを使うことによって千趣会は、サステナビリティ、顧客エンゲージメント、リサイクルやリユースの収益性、ポイントによる新しい購買の促進など一石で何鳥ものメリットを手にすることができる。しかし、オークネットはどこでビジネスとしての折り合いをつけるのですか。リユースやリサイクルで利益を出すのか、千趣会との契約で利益を出すのか。

画像: 楠木建氏

楠木建氏

藤崎
“Selloop”は、そこがポイントなので少しさかのぼってお話しさせていただきます。私たちは中古車のオークションからさまざまな商材にビジネスを広げてきましたが、B to Bの世界で顧客と商材をマッチングするには、ある程度単価が高いものでないとビジネスにするのは難しいという悩みを抱えていました。

中古車流通の世界では、ロードサイドの中古車販売店は買った値段より少しでも高い値段で売るというのが商売ですが、大手のメーカー系ディーラーは昔から新車を値引くのはブランドの価値を毀損することになるので、新車を購入するお客さまにはそれまで乗られていたクルマの下取り価格を高くすることで事実上の値引きをしていました。つまり、リユースを新車販売のプロモーションやブランディングに利用していたわけです。

楠木
言われてみれば、その通りです。

藤崎
一次流通の新車販売のプロモーションやブランディングに、二次流通が役に立つ。私たちにはそれが長年の肌感覚としてありまして、そこをサービスとして切り出したのが“Selloop”です。これならB to Cのアパレルのような高額ではない商品の世界でも、ブランディングやプロモーションとしてご活用いただけるのではないかと気づいたのです。

楠木
そうすると、千趣会の場合『ベルメゾン』にとってはサステナブルなブランディングになるし、新たな顧客エンゲージメントにもなる。さらに断捨離ができてポイントもつくので、次の買い物のプロモーションとしても機能するということですね。

藤崎
おっしゃる通りです。

1年半の成果

楠木
確かにこのサービスはどこにも無理がないし、人間の本性にうまく寄り添っているなと感心します。この場合、千趣会はオークネットの二次流通ノウハウの対価を払うということになるのですか。

藤崎
はい、そうです。お客さまから不要になった衣料品を回収して、高く売れるもの、安く売れるもの、リサイクルするものを仕分けして循環させる。そのためにはリユース事業に即したロジスティックスが必要ですし、人も仕組みも必要です。そこは私たちのケイパビリティを価値として提供させていただき、そのためにかかるコストは千趣会様に負担していただく形です。

楠木
これはスタートからどれくらい経過していますか。

藤崎
正式にはじまってから約1年半です。

楠木
具体的な成果は出てきているのですか。

藤崎
おかげさまで好評をいただいています。会員対象の調査では、サービスに対するNPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤリティを測る指標)の評価がプラスになったということで、高い満足度でご利用いただいている効果が出ています。正確な数字は申し上げられないのですが、月間で万単位の方がご利用されていて、その会員がポイントを使われることでLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が上がっているという成果も出ています。千趣会様としては新規の会員も増やしたいし、既存の会員にも2回3回と利用して欲しいし、眠っている会員も起こしたかったわけですが、この1年半で高いプロモーション効果が実証されました。

楠木
千趣会の例は通信販売ですが、これは実店舗でもプロモーション施策として効果を発揮する可能性もありますか。

藤崎
もちろん大いにあると思います。(第3回へつづく

「第3回:中古オフィス家具のマーケットプレイス」はこちら>

画像1: マーケットとしてのサステナビリティ―その2
二次流通の新コンセプト“Selloop(セループ)”

藤崎 慎一郎(ふじさき しんいちろう)
株式会社オークネット 代表取締役社長CEO
1975年東京都出身。オークランド工科大学(ニュージーランド)経営学修士。2011年オークネット入社。2019年専務執行役員、2020年代表取締役社長COOを経て、2023年3月より現任。「循環型マーケットデザインカンパニー」をビジョンに掲げ、さまざまな業界で一次流通×二次流通の事業を推進する「サーキュラーコマース」を構築。事業成長はもちろん、サステナビリティや人的資本の投資にも注力。

画像2: マーケットとしてのサステナビリティ―その2
二次流通の新コンセプト“Selloop(セループ)”

楠木 建(くすのき けん)
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

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楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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