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オークネット代表取締役社長CEO 藤崎慎一郎氏/一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏
オークネットという企業をご存知だろうか。1985年、世界ではじめて「中古車TVオークション」を立ち上げ、中古車販売事業者に向けたB to Bオンライン・オークションを確立。現在は中古車をはじめ、中古デジタル機器、中古バイク、ブランド品、花き(観賞用の植物)、中古医療機器など多様な商材で事業を展開している企業だ。今月は、サステナビリティの観点から二次流通(リユース品の流通等)のポテンシャルに興味を抱いた楠木建特任教授と、オークネット代表取締役社長CEO 藤崎慎一郎氏との対談をお届けする。

「第1回:二次流通のマーケットをデザインする」
「第2回:二次流通の新コンセプト“Selloop(セループ)”」はこちら>
「第3回:中古オフィス家具のマーケットプレイス」はこちら>
「第4回:リユースへの意識の変化」はこちら>

※ 本記事は、2024年4月8日時点で書かれた内容となっています。

中古車オークションのオンライン化

楠木
僕は藤崎さんとはこれまで何度かお会いしてお話しをする機会があり、オークネットの事業が、サステナビリティやSDGsを追い風に二次流通という循環型のマーケットをデザインすることで成長し、同時に社会貢献も可能にしていることを知りました。今日は、そんなオークネットの独自性をさらに掘り下げてみたいと思っています。最初に、藤崎さんの方からオークネットの事業の歴史と概要をお話しいただけますか。

画像: 楠木建氏/藤崎慎一郎氏

楠木建氏/藤崎慎一郎氏

藤崎
オークネットの創業者である私の父は、ロードサイドの中古車販売店を営んでいました。東京都内でいくつか店舗展開をしていた頃、クルマを仕入れるオークション会場が山奥や海沿いなどアクセスの悪い遠方にあり、そこへ毎回出かけて行き、欲しいクルマが競りに出てくる順番をひたすら待つという無駄に疑問を持っていたそうです。

販売店が20店舗ほどになった時、並行してパソコンの中古販売店もはじめました。パソコンに詳しい従業員が加わって、彼らと話しているとパソコン通信などのネットワークシステムなら、離れていても言葉だけでなくさまざまな情報がやりとりできるということを知ります。インターネットはまだ存在しない1980年代頃の話です。父は、それを使えばわざわざオークション会場に出向く無駄をなくすことができるのではないかと考え、1985年にレーザーディスクと電話回線を駆使した世界初のTVオークションをスタートします。それがオンライン・オークションという現在のオークネットの原点です。

楠木
それからはオンライン・オークションをコアとしたビジネス展開によって成長していくわけですが、マーケットは中古車からそれ以外のものへと拡張してきていますね。

藤崎
はい。中古車で確立したオンライン・オークションの仕組みやノウハウを生かして、中古デジタル機器、中古バイク、ブランド品、花き、中古医療機器とさまざまな商材で事業を展開してきました。

楠木
オークションで売買される中古市場のスケール感が僕には良くわからないのですが、例えばスマートフォンは日本国内で年間どれぐらいの数がリユースやリサイクルの市場に出回るのでしょう。

藤崎
マーケット全体で言いますと、当社の推計では約700万台のスマートフォンが毎年中古市場で下取りされて、それがさまざまな形で流通しています。

楠木
オークネットの場合B to Bのマーケットですから、取り扱う数がやはり大きいですね。

藤崎
そうですね。皆さんはスマートフォンの中古売買というと、秋葉原などで見られるようなショップでショーケースに並べられた機器を、1台買い取って1台売るようなスタイルを思い浮かべられるかもしれません。私たちは、市場に出る約700万台のうちの約160万台を取り扱っています。買い手は全世界に広がっており、1回あたり1,000台くらいの取引はめずらしくありません。

楠木
オークネットはそんなスケ―ルの売買をされている企業で、そういう大規模な取引が円滑にできる信頼性の高いB to Bマーケットを設計し、提供し、利用者から利用料をいただく。そういうビジネスですね。

藤崎
おっしゃる通りです。

画像: 藤崎慎一郎氏

藤崎慎一郎氏

マイケル・ポーターの先見性

楠木
今日はサステナビリティが大きなテーマなので、まず僕の持論をお話ししてもよろしいですか。

藤崎
お願いします。

楠木
今はSDGsやESGといった企業の社会的責任が問われる時代で、それが重要だということはその通りだと思います。しかし僕が問題意識として主張しているのは、それを企業が事業活動とのトレードオフとして考えると結局は長続きしないし、大きな効果も出せないのではないかということです。「ビジネスの環境負荷を抑制してサステナビリティに配慮していきます」と言っているうちは結局駄目だと思うのです。

画像: 楠木建氏

楠木建氏

企業というのはいい意味でも悪い意味でもすごく現金なものです。商売として儲からないことには、投資をしない。それは裏返すと、商売として成長し儲かるのであれば、企業は本気で取り組むということです。ビジネスとサステナビリティの追求がトレードオンになれば、企業の社会貢献はスケールする。そのために重要なのが、長期利益の追求です。

僕はここで何回も言ってきたことですが、企業の社会貢献の王道は、がんがん儲けて法人所得税をばんばん払うことです。これによって、政府は社会的な目的のために使う富を作ることができます。しかし政府が間に入るので、結局は間接ルートになってしまいます。直接ルートは、企業が事業そのものでサステナブルな社会的価値を作ることです。僕がそこに最初に気づかされたのは、競争戦略という分野を作られたマイケル・ポーター先生が10数年前に提唱されたCSV(※)という概念を知った時でした。

※ Creating Shared Value:共有価値の創造。社会課題を解決することは社会的価値を創造し、かつ経済的価値も創造するという考え方。

社会課題を解決することが自社の利益につながるというこの考え方は、資本主義の権化のように思われていたポーター先生のこれまでの主張とは正反対なのではないかと、当時は批判の声が上がりました。僕もそこは疑問に思っていまして、その頃お会いする機会があったので、ポーター先生ご本人になぜCSVなのか聞いてみたのです。すると、「これからは社会的価値の創造が一番儲かるからだ」と答えられました。ポーター先生は何も変わっていませんでした。

つまり、あらゆるビジネスは課題解決のはずで、解決する課題が大きければ大きいほど対価も大きくなる。例えば環境という最大の社会課題の解決は、ビジネスとしても当然大きな対価を生むということは言われてみればその通りです。しかし環境が危機的なことはわかっていても、船のように大きなSUVで青山通りを走りたい。それもまた人間の本性ですし、企業にも同じような本性はあります。それに逆らって、つまり無理をしてトレードオフでサステナビリティと取り組んでも、結局はうまくいかないケースが多い。オークネットは二次流通のマーケットをデザインしている企業ですが、とても無理のない、本性に逆らわない仕組みを提供しているから支持されるのだと思います。そこを、これからポイントを絞ってお聞きしていきます。

藤崎
わかりました。(第2回へつづく

「第2回:二次流通の新コンセプト“Selloop(セループ)”」はこちら>

画像1: マーケットとしてのサステナビリティ―その1
二次流通のマーケットをデザインする

藤崎 慎一郎(ふじさき しんいちろう)
株式会社オークネット 代表取締役社長CEO
1975年東京都出身。オークランド工科大学(ニュージーランド)経営学修士。2011年オークネット入社。2019年専務執行役員、2020年代表取締役社長COOを経て、2023年3月より現任。「循環型マーケットデザインカンパニー」をビジョンに掲げ、さまざまな業界で一次流通×二次流通の事業を推進する「サーキュラーコマース」を構築。事業成長はもちろん、サステナビリティや人的資本の投資にも注力。

画像2: マーケットとしてのサステナビリティ―その1
二次流通のマーケットをデザインする

楠木建(くすのき けん)
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。


楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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