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一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏/オークネット代表取締役社長CEO 藤崎慎一郎氏
ニ次流通によって顧客との新しいつながりを作る“Selloop(セループ)”。その課題やこれからについて、楠木建特任教授とオークネット代表取締役社長CEO 藤崎慎一郎氏のディスカッションが展開した。

「第1回:二次流通のマーケットをデザインする」はこちら>
「第2回:二次流通の新コンセプト“Selloop(セループ)”」はこちら>
「第3回:中古オフィス家具のマーケットプレイス」はこちら>
「第4回:リユースへの意識の変化」

※ 本記事は、2024年4月8日時点で書かれた内容となっています。

“Selloop”のボトルネック

楠木
“Selloop”は事業としてまだ初期の段階にあるので、おそらくいろいろな業種の企業に提案されていると思います。少しひねくれた質問かもしれませんが、“Selloop”という発想が簡単に受け入れられないような例もあると思います。何がボトルネックになることが多いのですか。

藤崎
それはもう共通していまして、リユースをはじめると新品が売れなくなるというお話しが必ず最初に出てきて、これがハードルになります。

楠木
僕が冒頭で言った、自分たちのビジネスの制約になるというトレードオフ的な発想ですね。

藤崎
おっしゃる通りです。しかし実際は、買取や還元の方法を整備することで、新たな商品の購入につながるなど、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上につながることを丁寧に説明しています。

画像: 楠木建氏

楠木建氏

楠木
その問題を解決するためには、トップマネジメントにその意義を理解していただいて、リユースの価値を世の中に問うていくと決めてもらうしかないように思うのですが。

藤崎
確かに“Selloop”は経営層の方が理解は早いです。ただ、経営者の意思決定と同じように、現場の方々がその価値を理解されることも重要だと思います。

楠木
トップ以上に現場はカニバリゼーションを恐れているわけですね。“Selloop”の理解や浸透には、やはり時間がかかりますか。

藤崎
そういう面はありますが、世の中全体の意識はかなり大きく変化していることも確かです。さまざまな商材で二次流通やリセールのサービスが現れてくれば、うちも取り組むべきではないかというように流れが変わっていく。そのスピードは上がっていると感じています。

楠木
うまく回る事例がこれからさらに増えていけば、そしてそれが成果を生んでいるということになれば、社内のハードルなんて言っている場合ではなくなるかもしれません。そうなったとして、“Selloop”に引き合いが多方面から来ると、オペレーションも大変になると思いますが、その対応はいかがですか。

藤崎
オペレーションを回すことは、きちんと投資をして、ロジスティックスなどの設備を整えるなど長期的には解決できると思います。最も時間がかかるのは、必要な数のバイヤーを探してくることです。

楠木
今までオークション市場とか中古市場が成り立ってないマーケットですから、それはそうですね。

藤崎
私たちがユーザー一人ひとりに一台一台売っていくのは不可能ですから、リユースで使ってくれる方々に商材を届ける中間業者となるバイヤーのネットワークが必要で、これを作るのが実はいちばん難しいところなのです。ただ、今まで中古車からはじめてさまざまな商材を手がけてきた間に、例えばスマートフォンを取り扱うようになるとバイヤーから「テレビゲーム機も仕入れられるよ」といったお話をいただいたり、リユースのバイヤーネットワークは指数関数的に増えています。イトーキグループ様との事業でもほぼゼロからバイヤーのネットワークを作りましたが、以前よりはるかにスピーディーに進められる手ごたえを感じました。

楠木
それはバイヤーにとって、オフィス家具を買う新しいチャネルとしての価値があるからですね。

藤崎
おっしゃる通りです。

リユースへの意識の変化

楠木
改めて考えてみると、成長の可能性には大きなものがありますよね。これまであらゆる商材が新品で売られてきたわけですから、マーケットがきちんと成立している自動車やバイクはほんの一部でしかない。

画像: 藤崎慎一郎氏

藤崎慎一郎氏

藤崎
リユースできるだろうといわれている物で、すでにリユースされている物はごくわずかで、まだまだ家や物置には使える物が埋蔵・収蔵されていると言われています。それを生かす好材料はテクノロジーで、商材の情報化が進み、売りたい人と買いたい人とのマッチング環境が一気に進化しました。それに加えて、ユーザーの方々のリユースに対する心理的障壁が下がってきた。この意識の変化が大きいと思います。

楠木
それは本当にそうで、僕自身ある程度高額な耐久消費財であれば、まずリユース市場を確認して、なければ新品を購入する。僕のような年代の人間もそうなってきています。10年前と比べても買う側の心理というのは本当に変わってきているし、それは環境に対する意識にも言えることだと思います。

藤崎
メーカーの方たちも、そういう意味では新品が第一という観念自体がだいぶ薄くなってきていると思います。

楠木
サーキュラーエコノミーを大枠でとらえてみると、消費財であればメルカリのようなC to Cプラットフォームがこれまで十分に機能してきました。B to Bでは産業廃棄物のリサイクルなどが大きな課題となっていろいろな取り組みが進められてきた。ところが実際に商品を製造・販売している企業が、自らサーキュラーエコノミーに関わるというど真ん中の大きな取り組みがすっぽりと抜け落ちていた。

そこには企業が義務的にサステナビリティのために何かをするのではなく、自分たちのビジネスとして取り組める方法があるということがようやくわかってきた。今回のお話のように、ビジネスとして社会的価値と経済的価値を追求できるトレードオンの事例が増えていけば、サステナビリティはもっとスケールするはずです。

今日は貴重なお話をありがとうございました。

画像1: マーケットとしてのサステナビリティ―その4
リユースへの意識の変化

藤崎 慎一郎(ふじさき しんいちろう)
株式会社オークネット 代表取締役社長CEO
1975年東京都出身。オークランド工科大学(ニュージーランド)経営学修士。2011年オークネット入社。2019年専務執行役員、2020年代表取締役社長COOを経て、2023年3月より現任。「循環型マーケットデザインカンパニー」をビジョンに掲げ、さまざまな業界で一次流通×二次流通の事業を推進する「サーキュラーコマース」を構築。事業成長はもちろん、サステナビリティや人的資本の投資にも注力。

画像2: マーケットとしてのサステナビリティ―その4
リユースへの意識の変化

楠木 建(くすのき けん)
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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楠木健の頭の中

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