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社内で生まれる新規ビジネスのアイデアを、どのように育み、事業化へと結び付けるか。そこで大きな力になるのは、強い志を持ったメンバーの存在だ。全5回の本シリーズでは、女性の健康課題というテーマのもとに集まった有志メンバーが、試行錯誤しながらもプロジェクトを前進させていく様子を描く。第2回は、プロジェクトの本格始動から実際のアプリ開発、社内外での発信活動、そして新しいメンバーが加わるまでのプロセスを振り返る。

「第1回:女性の健康課題を解く、新規ビジネス」はこちら>
「第2回:有志チームで挑むゼロからの挑戦」
「第3回:キャリアとライフの両立を支援するソリューション」はこちら>
「第4回:すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ」はこちら>
「第5回:社会課題に挑む「志」で結ばれたチームの強さ」はこちら>

アプリ開発と社内外での発信活動

2020年9月、女性の健康課題をテーマとしたプロジェクトが正式に始動。立ち上げ時から携わるのは、社会プラットフォーム営業統括本部の蒲生高也と西村宏美、金融システム営業統括本部の松野真由子、そして日立北大ラボの吉野正則だ。話し合いを重ねる中で、女性特有の健康課題に寄り添い、ライフとキャリアの両立を支援する取り組みに照準が定まった。

冒頭でも触れたように、女性が抱える健康課題をテクノロジーの力で解決する製品やサービスは「フェムテック(Femtech)」と呼ばれる。2020年は日本でも「フェムテック元年」と言われ、多くの企業が参入した時期でもあった。月経をはじめとした女性特有の話題を口にすることは、すでにタブーではなくなってきている。

このプロジェクトもまさにこの分野に挑むものだった。もちろん、流行に乗ったという単純な動機ではなく、メンバーの「自分ごと」から社会を変えたいと起こした行動が、世の中の変化する時期にちょうど重なった形である。

プロジェクトが動き出してからは、比較的早い段階で、女性の健康とキャリアの両立を支援するアプリケーションを開発することが決定。三者間で打ち合わせを重ね、具体的な要件定義を行い、日立北大ラボの資金援助のもと開発を進めていった。

その一方で、社会的な課題に取り組む上では、このテーマに関する啓発活動も欠かせない。アプリケーション開発とはまた別の手段として、社内外へ向けて積極的な発信を続けていった。例えば、冊子を制作し、色々なところへ配布する試みも行っている。

画像: プロジェクトメンバーが作成した冊子

プロジェクトメンバーが作成した冊子

「幅広い世代に向けて情報やサービスを届けたくても、やはり普段アプリを使用しない人たちはいます。そのような層にとっては紙媒体が一つの有効な手段だと知り、啓発活動の一環として試作しました。婦人科系の疾患や妊娠における最低限の知識に加え、他の人の話が自分のライフプランを考える刺激になるよう、社内外でインタビューした内容も盛り込みました」(西村)

さらに、2020年12月の内閣府・北海道大学COI(※)主催のフォーラムや医療系サミット、2021年2月の日立北大ラボ主催フォーラムなどに登壇し、社会課題に立ち向かうチームとして外部へ発信する機会を重ねた。ただし、医療を専門とする人々を前にして、難しさを感じる場面も多かったと西村は明かす。

※ 文部科学省より革新的イノベーション創出プログラムに採択された産官学連携組織。

「私たちの仕事は通信系の営業なので、例えば産婦人科の先生と対等に話せるだけの知識は持っていません。その部分でも非常に難しさを感じましたし、理解していただくためにどう伝えればよいのか、そういった緊張感もありました」

画像: 日立 西村宏美

日立 西村宏美

こうして、主軸となるアプリケーションの開発だけでなく、目的とする社会課題解決のために、メンバーは幅広い活動をしながらプロジェクトを進めてきた。それも皆、あくまで有志としてである。すべてが手探りだったが、その道中で共感の声をもらうことは大きなモチベーションとなっていった。

新たなメンバーが加わり、新体制へ

2021年4月、このプロジェクトに新たな仲間が加わることになる。社会プラットフォーム営業統括本部の若手従業員、宮森百穂と西郷健一だ。参加したきっかけについて、宮森は次のように振り返った。

「入社1・2年目の指導員が蒲生さんでした。その頃に『新しいアイデアがあったらどんどんやってみていいんだよ』とよく言われており、自ら考えた事業アイデアを蒲生さんと共有し、フィードバックをいただいていました。そして3年目に入ったときに、新規事業立ち上げチームの追加メンバーの募集がかかりました。当時、まだまだ若手が新規ビジネスに挑戦する風潮がありませんでしたが、蒲生さんの言葉に背中を押され、手を挙げて応募しました。

新しいことを立ち上げるフェーズに関わってみたい、というのが一番の動機です。それに、女性の健康課題がテーマということで、私自身はあまり認識していませんでしたが、悩みを抱えている人がいるなら解決したいと考えました」

画像: 日立 宮森百穂

日立 宮森百穂

入社2年目で参加することになった西郷も、当時の考えを語った。

「私が参加した理由も、新しいビジネスをつくっていくことに興味があったからです。そもそも、日立に入社したのは『自分でグローバルな仕事をつくりたい』という思いからでした。入社後は先輩のつくった仕事をサポートしていましたが、仮に自分が主となってゼロから1を生み出す時にはどうなるのか。どういう検討をして、どう動いて、どのようなスパンで進めるのか――それらをすべて経験してみたかったのです」

さらに、男性の立場からフェムテックに携わることについては、次のように明かした。

「自分の将来のパートナーも悩む問題かもしれない、という関心はあったと思います。しかし、普段は話す機会がないため、そもそも触れていいことなのか、相談すべき内容なのかが最初は分かりませんでした。ただ、このプロジェクトを通じて、機会さえあれば皆が話せるテーマだと分かりましたし、チーム間の対話が従業員のつながりを強くすると感じるようになりました」

画像: 日立 西郷健一

日立 西郷健一

そして同時期に、このプロジェクトの発起人でもある西村がめでたく妊娠し、産休を取得することになった。婦人科系の疾患で休職し、一度は妊娠・出産が叶わないかもしれないというリスクを負った彼女が治療に成功して無事に子どもを授かったことは、チームの新たな希望にもなった。

「このプロジェクトの活動を通じて色々な知識がたまるにつれ、私自身が今、妊娠や出産を経験したほうがいいかもしれない、と考えるようになりました。仕事優先で後回しにしている場合じゃないなと」(西村)

プロジェクトのバトンをつなぐため、西村が後任として指名したのは、彼女の3年先輩にあたる社会プラットフォーム営業統括本部の北森美菜だった。北森は10年前に出産を経験し、部内で初めて産休・育休取得後に復帰した女性従業員だったのだ。

「その頃は、基本的に皆さん妊娠されると退職する人ばかりでした。私は入社2年目で結婚・妊娠したため、まだまだ働かなくてはいけない状況でしたし、産休直前まで大きなお腹を抱えて働いていました。正直、辛いことも苦しいこともたくさんあって、何度も退職しようかと。それでも、自分が辞めれば後輩の道を閉ざしてしまうと思い、私は絶対に辞めない、絶対に後輩に同じ思いをさせないぞと頑張っていました」(北森)

画像: 日立 北森美菜

日立 北森美菜

北森もまた、西村とは違う形で女性ならではの課題感を経験していた。その苦労する姿を近くで見ていたからこそ、西村は北森に託すことを決めたという。以降、このプロジェクトは北森を中心に、新しい2名のメンバーも加わった体制で動いていく。(第3回へつづく)

取材・文=田原 未沙記/写真=斎藤 弥里

「第3回:キャリアとライフの両立を支援するソリューション」はこちら>

画像1: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第2回】有志チームで挑むゼロからの挑戦

蒲生高也(がもう たかや)
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部 デジタルマーケティング統括本部 DX Proposal Planning 兼 デジタルエンジニアリングビジネスユニット Business Development DX Proposal Planning 部長

2004年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事したのち、2022年4月にデジタルマーケティング統括本部に異動。GlobalLogic Japanの日本市場におけるGTM(Go To Market)戦略の策定と実行を担当している。

画像2: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第2回】有志チームで挑むゼロからの挑戦

西村宏美(にしむら ひろみ)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第一営業本部 第二営業部 主任

2012年、日立製作所に入社 。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事。2017年頃に婦人科系疾患を発症し数カ月の休職を経験したのち、同部署にて復職。2021年4月~2022年12月まで産休・育休を取得。

画像3: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第2回】有志チームで挑むゼロからの挑戦

松野真由子(まつの まゆこ)
株式会社日立製作所 金融システム営業統括本部 金融営業第一本部 第一部

2016年、日立製作所に入社。金融機関向けのITシステムの営業活動及び新規事業創出に従事。

画像4: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第2回】有志チームで挑むゼロからの挑戦

宮森百穂(みやもり もえ)
株式会社日立製作所 人財統括本部 HRストラテジー・コミュニケーション部

2019年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事。2023年1月、社内公募に応じ人財統括本部に異動。日立グループの戦略実現のためにグローバル人財戦略の施策に関わる業務に従事。

画像5: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第2回】有志チームで挑むゼロからの挑戦

西郷健一(さいごう けんいち)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部

2020年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創出に従事。情報通信事業における基幹システムをはじめ、カーボンニュートラルやセキュリティの領域を担当している。

画像6: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第2回】有志チームで挑むゼロからの挑戦

北森美菜(きたもり みな)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 企画本部 営業推進部 第一グループ 主任

2009年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新事業創出に従事。2013年~15年に産休・育休を取得。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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