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日立社内の有志メンバーによって、女性の健康課題を起点とした新規ビジネスが立ち上がろうとしている。ライフとキャリアの両立を支援する取り組みとして、アプリケーションの開発を主軸にプロジェクトは進む。第3回では、いよいよβ版の開発が完了し、社内外でのPoC(※)を経て、社内ビジネスプランコンテスト「Make a Difference」に挑戦する。その中で得られた学びは、プロジェクトもメンバー自身も成長させていく。

「第1回:女性の健康課題を解く、新規ビジネス」はこちら>
「第2回:有志チームで挑むゼロからの挑戦」はこちら>
「第3回:キャリアとライフの両立を支援するソリューション」
「第4回:すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ」はこちら>
「第5回:社会課題に挑む「志」で結ばれたチームの強さ」はこちら>

※ Proof of Concept:概念実証。新たなアイデアの実現可能性や得られる効果などを検証すること

「知る・考える・相談する」で伴走するアプリ

2021年5月を迎える頃、日立北大ラボの資金援助のもと進めていたアプリケーションのβ版の開発が完了した。女性の健康課題に寄り添い、キャリアとライフの両立を支援するために盛り込んだのが「知る」「考える」「相談する」という3つの要素だった。当初は、企業向けの福利厚生的サービスとしての提供を想定していたという。

画像1: 「知る・考える・相談する」で伴走するアプリ

一つ目の「知る」は、プレコンセプションケア(※)や更年期障害の第一人者から、専門的な女性特有の健康課題に関する情報を得て発信するコンテンツである。女性が知っておくべき情報を集約して伝えることで、健康課題に関するリテラシーの向上を狙う。

※ 将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと。

二つ目の「考える」は、自分と他の従業員のキャリア×ライフプランを同時に可視化して検討できる機能だ。女性のキャリア形成は、月経随伴症状や更年期障害などの健康課題と、妊娠・出産、不妊治療、育児、介護などのライフイベントの重複に影響を受けやすい。この観点から、ロールモデルを参考に自身のプランを考えるきっかけを提供する。

三つ目の「相談する」は、アプリケーション上で社内コミュニティを構築するものだ。センシティブで話しづらい悩みを匿名で共有でき、仲間づくりを促進して孤立感の解消をめざす。同じ会社だからこそ分かち合える事情や価値観もあり、正しい情報収集ができる心理的安全性の高い環境を整えていく。

画像2: 「知る・考える・相談する」で伴走するアプリ

第1回でも触れたように、働く女性のキャリア形成に大きく関わる健康課題やライフイベントは、個人差がとても大きい。だからこそ、個人に対するきめ細かなサポートができるよう、多角的なアプローチを組み込んだ。従来バラバラに発信されていた「知る・考える・相談する」の3要素を組み合わせ、デジタルに提供することがこのアプリケーションの強みだ。

「ライフとキャリア、つまり、生きることと働くことを同時にきちんと考える。そして継続的に考えることが重要だと思っています。研修で一度考えるようなものではなく、日頃からつねに意識しなくては意味がありません。だからこそ、デジタルで伴走できるのがこのアプリケーションの強みです。

さらに『共助型』であることも特徴です。参加者同士で経験や考えを共有することで、お互いに助け合える環境をめざしています」(北森)

画像: 日立 北森美菜

日立 北森美菜

PoCや社外サーベイなどニーズ調査に奔走

2021年初夏、いよいよプロジェクトは一度目のPoCの段階に入っていく。日立社内とヤフー株式会社、KDDI株式会社の協力のもとPoCを実施し、ユーザーの生の反応に初めて触れることになった。そして、使いたい機能の手がかりも具体的に得ることができた。

さらにそこから半年ほどかけて、38社との意見交換、40社へのWebサーベイを実施。協力先企業を探すにあたっては、体当たりのアプローチもあったという。お客さまの企業を回り、そこから紹介してもらった企業や、公式ホームページの問い合わせフォームから依頼を送った企業もあった。宮森は当時の様子を「必死でした、本当に」と語る。

画像: 左から日立の松野真由子、宮森百穂

左から日立の松野真由子、宮森百穂

好意的な反応は多く、共感の声も寄せられた。しかし当然、難しい反応もたくさんあった。一つは「志には共感するけれど、実際に導入するメリットが感じられない」というもの。もう一つは「すでに数段先の取り組みをしている」というものである。そうした意見を受け止めながら、チームはさらなるブラッシュアップを続けていった。

社内ビジネスプランコンテストへの挑戦

日立では、創業者精神を大切にし、事業改革に挑み続けるため、社内ビジネスプランコンテスト「Make a Difference」を毎年開催している。優勝にあたる「Gold Ticket」に選ばれたアイデアには、事業化へ向けた資金援助と、6カ月間のインキュベーション期間が与えられるというものだ。

2021年9月、本プロジェクトもこのコンテストに参加することを決めた。この年の応募数は計450件ほど。およそ半年にわたる資料審査、一次審査、二次審査を経て、無事に最終候補まで残ることができた。

女性ならではの悩みを解決したいという想いから始まったこのプロジェクト。北森は、それゆえの難しさや悔しさをにじませた。

「特に50代以上の男性の方々には、自分ごととして捉えてもらうのが難しく『いいね、すごいね』で終わってしまう。こんなに困っている女性が多いことや、社会課題としてのインパクト、日立として取り組むべき課題だと伝えることには、非常に苦戦しました。そのため、プレゼンの最初の切り口を経済的損失にフォーカスするなどの工夫もしています」

チームの試算によれば、女性特有の健康課題に伴う日本の労働損失額(※)は、年間4兆4,797億円にのぼる。仮に日立に限った場合でも、年間10億8,104万円の労働損失を出しているという。この金額を見れば、単なる「女性の悩み」では済まされないインパクトがあると分かる。

※ 働く女性が女性特有の健康課題(月経随伴症状、不妊治療、退職を伴う妊娠・出産、更年期障害)により、パフォーマンス低下・休職・退職した場合の労働損失額を試算。

画像: 経済産業省発表資料「健康経営における女性の健康の取り組みについて」(2019年3月)、NPO 法人Fine発表資料「『仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2』結果」(2017年10月)を参考に算出

経済産業省発表資料「健康経営における女性の健康の取り組みについて」(2019年3月)、NPO 法人Fine発表資料「『仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2』結果」(2017年10月)を参考に算出

近年の女性活躍推進に伴い、国や企業で制度の整備は進められているが、いまだ課題は解決されていない。だからこそ、社会的施策とは違ったアプローチで、個人に対するサポートが必要であり、そこに挑む大きな意義や可能性があるはずだと、チームは強く訴え続けた。

そして、2022年4月の最終審査。経営陣を前に緊張しつつも、メンバーは無事にプレゼンをやり遂げた。そして同日の結果発表で、見事トップの「Gold Ticket」を獲得することができたのだった。

「受賞は純粋に嬉しかったです。有志のプロジェクトだと、上長や周りの同僚からも、何をやっているのか実態が見えにくかったと思います。それがこの受賞を機に、活動をより深く知ってもらうきっかけになりました」と宮森は振り返る。西郷も「会社からの期待を感じ、自分たちの活動が認められたんだ、という大きな喜びを感じました」と語った。(第4回へつづく)

画像: 社内ビジネスプランコンテストへの挑戦

取材・文=田原 未沙記/写真=斎藤 弥里

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画像1: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第3回】キャリアとライフの両立を支援するソリューション

蒲生高也(がもう たかや)
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部 デジタルマーケティング統括本部 DX Proposal Planning 兼 デジタルエンジニアリングビジネスユニット Business Development DX Proposal Planning 部長

2004年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事したのち、2022年4月にデジタルマーケティング統括本部に異動。GlobalLogic Japanの日本市場におけるGTM(Go To Market)戦略の策定と実行を担当している。

画像2: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第3回】キャリアとライフの両立を支援するソリューション

西村宏美(にしむら ひろみ)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第一営業本部 第二営業部 主任

2012年、日立製作所に入社 。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事。2017年頃に婦人科系疾患を発症し数カ月の休職を経験したのち、同部署にて復職。2021年4月~2022年12月まで産休・育休を取得。

画像3: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第3回】キャリアとライフの両立を支援するソリューション

松野真由子(まつの まゆこ)
株式会社日立製作所 金融システム営業統括本部 金融営業第一本部 第一部

2016年、日立製作所に入社。金融機関向けのITシステムの営業活動及び新規事業創出に従事。

画像4: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第3回】キャリアとライフの両立を支援するソリューション

宮森百穂(みやもり もえ)
株式会社日立製作所 人財統括本部 HRストラテジー・コミュニケーション部

2019年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事。2023年1月、社内公募に応じ人財統括本部に異動。日立グループの戦略実現のためにグローバル人財戦略の施策に関わる業務に従事。

画像5: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第3回】キャリアとライフの両立を支援するソリューション

西郷健一(さいごう けんいち)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部

2020年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創出に従事。情報通信事業における基幹システムをはじめ、カーボンニュートラルやセキュリティの領域を担当している。

画像6: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第3回】キャリアとライフの両立を支援するソリューション

北森美菜(きたもり みな)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 企画本部 営業推進部 第一グループ 主任

2009年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新事業創出に従事。2013年~15年に産休・育休を取得。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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