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日立の社内ビジネスプランコンテストでトップの賞を獲得し、プロジェクトはついに商用化に向けて勢いを増すかと思われた。しかし、女性の健康課題を起点にスタートしたこの取り組みは、議論を深めていく中で、一つの真実に直面することになる。それは、健康課題やキャリアとライフの両立は、必ずしも女性に限ったテーマではないということだ。第4回では、プロジェクトがめざす姿の変化や、新規ビジネスに立ちはだかる壁にも焦点を当てる。

「第1回:女性の健康課題を解く、新規ビジネス」はこちら>
「第2回:有志チームで挑むゼロからの挑戦」はこちら>
「第3回:キャリアとライフの両立を支援するソリューション」はこちら>
「第4回:すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ」
「第5回:社会課題に挑む「志」で結ばれたチームの強さ」はこちら>

コンテスト優勝で得たものと背負ったもの

社内ビジネスプランコンテスト「Make a Difference」にて、2021年度の「Gold Ticket」に選ばれた本プロジェクト。こうして、チームには賞金と6カ月間のインキュベーション期間が与えられることになった。

有志でプロジェクトを進め続けるには、どうしても予算の問題が付きまとう。このコンテストに応募した理由にも、商用化をめざすための資金が課題だったこともある。だからこそ、いざ資金援助が決まると、どのように運用していくべきか、新たな不安や緊張感が生まれたという。商用化に向けて、いよいよ本格的なスタートを切ったのだ。

同年度の「Gold Ticket」に選ばれたのは、実はこのプロジェクトだけではなかった。受賞したもう一つのビジネスプランは、2021年に日立の一員となったグローバルロジック社の「Success Path」。従業員のキャリアを成功させるために多様なアクティビティを提案するサービスで、日立チームのプロジェクトと近しいテーマでもあった。

そこで経営層からは、社会課題に対するソリューションはもちろん、この二者間のコラボレーションを望む声も上がった。グローバルロジック社はアジャイルな手法が強みであり、お互いに議論を交わすことでサービスを磨き上げるだけでなく、協力して社内に発信してほしいという期待も背負うことになった。

何もかもが暗中模索、それでも一歩ずつ前へ

そして2022年9月より、インキュベーション期間に突入する。再度のPoCに向けて、アプリケーション制作のベンダーへ依頼し開発を進めていった。

商用化を見据えて活動が本格化したとはいえ、そもそも全員が「志」を頼りに集まったメンバーであり、すべてが手探りだった。新規ビジネスを立ち上げた経験はだれにもなく、プロジェクトを進める上で数多くの困難な場面が訪れたという。

「社会課題を解決したいという共通の思いはあっても、メンバーの本業は全員営業なので、いざ本当にアプリを開発して商用化するとなった際、まったく経験が無かったので困りました。新規ビジネスにおける投資回収計画や、巻き込むべきプレーヤーも分からず、アプリ開発でクリティカルになる要素や工数、見積もりの相場感も分からない状態でした」(蒲生)

画像: 左から日立の北森美菜、西郷健一、蒲生高也

左から日立の北森美菜、西郷健一、蒲生高也

さらに、北森も苦労をにじませる。

「責任の所在をどこにするか、これも非常に難しい点でした。会社の予算を使うにしても、PoC用に開発したアプリケーションを資産として持つにしても、私たちは兼務なので責任元にはなれません。であれば、だれにお願いするのか、お金をどう計上するのか、すべて自分たちで考えて進める必要がありました。加えて、この取り組みをご存じない方も多いので、個人情報を取り扱う際にも『どうしてあなたが?』というところからの説明が必要でした」

何もかもが手探りであることは、時間を重ねてプロジェクトが進んでいってもそう変わらない。新規ビジネスには正解がないため、余計に難しさを感じるとメンバーは言う。必死に取り組みを進める中、プロジェクトの方向性に少し変化が訪れることになる。ちょうどPoCを設計するタイミングの、2022年11〜12月のことだった。

全従業員のエンゲージメント向上をめざして

もともと女性の健康課題をテーマに始まったプロジェクトだったが、さまざまなユーザーの声や意見交換を通じて、プロジェクトのめざす姿をやや軌道修正することになる。それは、サービスの対象を女性だけに限らず、あらゆる人に広げるというものだった。

「具体的なサービス化に向けて議論が深まっていく中で、健康課題やキャリアとライフに関する悩みは、女性に限ったことではないと分かりました。当初はまず女性から解決して、その後に性別を問わず対象を広げて、と段階的に進めるつもりでしたが、その2ステップ目がすでに求められているのだと。メンバーからも、この先自分で使うなら、幅広い人にきちんとリーチできるサービスにしたいという意見が出ました。

画像1: 全従業員のエンゲージメント向上をめざして

例えば、男性の育休取得時にはどう準備したらいいのか、子どもの就学や住宅ローンをどう考えるのかなど、男性ならではの課題もあります。そこで、従業員全体のお困りごとに寄り添い、エンゲージメント向上にフォーカスして進めていくことになりました」(蒲生)

「女性の健康課題にしても、結局は女性だけで解決できる問題ではありません。女性のみに向けた発信では一方通行になってしまいますし、性別を問わずお互いに支え合う『共助』の環境をつくることが重要だと考えました」(宮森)

そうしてプロジェクトは2023年2月〜3月、女性以外にも対象を広げたアプリケーションで再び社内PoCを実施した。

「社内でのお声掛けは、Teamsの社内コミュニティに投稿したり、メールで共有したり、オンラインでの説明会も開催しました。年代・性別問わず、想像以上に参加者が集まったので正直驚きました。皆さんの業務とはまったく関係のないところでご協力いただき、すごくありがたかったです」(北森)

結果的にPoCには約120名の応募があり、うち100名に実際のアプリケーションに触れてもらうことができた。基本的にはポジティブな反応が得られ、ネガティブな意見はUIやUX部分の指摘が目立ったという。そして現在に至るまで、商用版の設計完了をめざしてさらなる改善を続けている。北森は次のようにも語った。

「今後はユーザーにとって楽しい要素を追加するなど、継続してもらうためのアイデアを加えなければなりません。さらに、導入企業にとっての価値を高めるべく、日立のデータ分析技術を活用し、経営に生かしていけるようなダッシュボードの提供内容を検討しているところです」(第5回へつづく)

画像2: 全従業員のエンゲージメント向上をめざして

取材・文=田原 未沙記/写真=斎藤 弥里

「第5回:社会課題に挑む「志」で結ばれたチームの強さ」はこちら>

画像1: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第4回】すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ

蒲生高也(がもう たかや)
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部 デジタルマーケティング統括本部 DX Proposal Planning 兼 デジタルエンジニアリングビジネスユニット Business Development DX Proposal Planning 部長

2004年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事したのち、2022年4月にデジタルマーケティング統括本部に異動。GlobalLogic Japanの日本市場におけるGTM(Go To Market)戦略の策定と実行を担当している。

画像2: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第4回】すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ

西村宏美(にしむら ひろみ)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第一営業本部 第二営業部 主任

2012年、日立製作所に入社 。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事。2017年頃に婦人科系疾患を発症し数カ月の休職を経験したのち、同部署にて復職。2021年4月~2022年12月まで産休・育休を取得。

画像3: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第4回】すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ

松野真由子(まつの まゆこ)
株式会社日立製作所 金融システム営業統括本部 金融営業第一本部 第一部

2016年、日立製作所に入社。金融機関向けのITシステムの営業活動及び新規事業創出に従事。

画像4: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第4回】すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ

宮森百穂(みやもり もえ)
株式会社日立製作所 人財統括本部 HRストラテジー・コミュニケーション部

2019年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創生に従事。2023年1月、社内公募に応じ人財統括本部に異動。日立グループの戦略実現のためにグローバル人財戦略の施策に関わる業務に従事。

画像5: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第4回】すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ

西郷健一(さいごう けんいち)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 第二営業本部 第一営業部

2020年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新規事業創出に従事。情報通信事業における基幹システムをはじめ、カーボンニュートラルやセキュリティの領域を担当している。

画像6: フェムテック発、だれもが働きやすい社会づくりへ
【第4回】すべての従業員の働きやすさを支えるサービスへ

北森美菜(きたもり みな)
株式会社日立製作所 社会プラットフォーム営業統括本部 企画本部 営業推進部 第一グループ 主任

2009年、日立製作所に入社。通信事業者向けの営業活動及び新事業創出に従事。2013年~15年に産休・育休を取得。

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