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山口周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー/松岡正剛氏 編集工学研究所所長、イシス編集学校校長、角川武蔵野ミュージアム館長
松岡氏が以前から指摘してきた「方法の国」としての日本についてあらためて語る。「方法」こそが日本であり、どんな場面でも、自信を持ってその方法をやりきることが大切であると説く。さらに、現在取り組んでいるプロジェクト「近江ARS」の話題をきっかけに、世界における日本の位置づけについて考察する。

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「第5回:世界の『別様』としての日本」

方法日本に主題は要らない

山口
情報編集という観点から日本を見ると、日本は編集の国であり、「方法の国」であると松岡さんはおっしゃっています。「方法」があるなら「目的」があるだろうと思う人もいるかもしれないのですが、そうではないのですよね。

松岡
「方法の日本」に必ずしも目的は要らないんです。テーマも要らないかもしれない。テーマは変容していったほうがいいんです。そのほうが創発的になる。僕が方法日本ということに思い至ったのは、自然科学のフロンティア領域、たとえば複雑系の科学やカオスの科学で創発を重視していることと、日本の、たとえばお能やお茶、和歌といったものに共通する編集的な方法が似ていると感じたことがきっかけです。

僕が創設したイシス編集学校は「方法の学校」です。目的も主題もなく、方法だけを学んでいく。方法だけで進むというものです。

たとえば、お茶を入れて、お客様に出すときに「どうぞ」と言ってちょっと手を添える。このような手続き、振る舞い、もてなし、それは主題というよりも「気持ち」に近いことですね。その場面で起こってほしいことは何か。それは方法として議論できます。

山口
一期一会の心得ということですね。

松岡
そう。生け花では花をあえて切って生かす、月見も直接見るのではなく、お盆に水を張って映る月を見る。そういう表現や、連歌の付合(つけあい)や茶の湯のような「座の文化」というコミュニケーションの仕組み、それら自体が方法ですから、どんな場面でも自信を持ってやりきることです。それが「方法日本」ということですね。

山口
今は目的(purpose)からバックキャストして最適な方法を選ぶという考え方が浸透していますが、そうではなく、今、ここ、私から、方法に頼って所作を決めなさい。そうすると、おのずと立ち上がる、「成る」ものがあると。

松岡
分かりやすく言うとそうですね。最初に復活についてお話ししましたが、敗戦も、甚大な自然災害も、最近の例で言えば大規模通信障害も、起きた後は「どうしたらいいんだろう」から始まります。そのときに、復興やシステム復旧ということが全体像としては出てきますけれど、当面の方途を失ったときの方途、それが方法なんです。それはリスクヘッジではなく、リスク(負)をいかすということです。そのことをもう少し腰を据えて考えたほうがいい。方法には、「どうしよう」という「負」の状態がいったん必要なんです。その解決を一気にしようとするのではなくて、迷ったほうがいいんですね。

画像: 方法日本に主題は要らない

リスクを踏むからこそ復活がある

山口
考えてみると、プロジェクト、プロフィット、プロダクション、プログラムなど、ビジネス用語には「プロ(pro)」という接頭辞がつく言葉が多いですね。プロとはもともとラテン語で「前に」とか「予め」という意味で、まさに「目的」を決めて、それに対してどうするのか、方法を考えるという思考を象徴しています。そうではなくて、方法こそがコンセプトなのだと。

松岡
それに合わせて言うと、僕は「おくればせ」ということに注目しているんです。

今、おっしゃったプログラムはもともとタイムテーブル(時間割)のことですが、それに代わるものとして、「故実十七段」というものを考えているんです。まだ数人にしか見せていないのですが(笑)。世界中のさまざまな出来事、たとえば、ディオニソス祭のような祭祀、十字軍をはじめとする戦争、フランス料理や日本料理のコース、野球やサッカーなどのスポーツ、パリコレのようなイベント、歌舞伎やオペラのような舞台芸術などの始まりと終わりを、数年間にわたってトレースしてみたところ、その過程には大まかな共通項があって、だいたい17段階に分けられることに気づきました。そしてそれぞれに日本語を当てはめたのですが、その一つが「おくればせ」です。「まにまに(随に)」というのもある。そういう段階を除去してしまうと、結局はうまくいかないものなんですね。

山口
段階を跳ばしてはいけないということですか。

松岡
除去して、都合よく組み立てようとするとダメなんです。たとえば、スポーツでも遅ればせながらチームを外れた選手が復活したり、オフサイドのように流れを止める段階があったりすることが大事なんです。物事の流れには矛盾や葛藤があるもので、それを無理に解消しようとしないほうがいい。

山口
まさに「てりむくり(日本家屋の唐破風に代表される屋根の形状)」ですね。相反して対立するはずの曲線をうまく接合している。

松岡
そう。ウイルスのように偶然やってくるものもあるでしょう。それらを含んで物事は組み立てられるはずなのに、今はリスク回避が大事だと言われる。でもリスクを踏むからこそ復活のシナリオが描けるのです。

山口
その17段階はフラクタル(自己相似)なのでしょうか。

松岡
フラクタルなところもありますが、全体としてはリミットサイクルを伴った複雑系です。これを考えたのは、自分が何を「方法」と呼んでいるのか、確かめたいという気持ちが大きいですね。

山口
それは「方法日本」の総仕上げになるようなものだと思いますし、ぜひ発表してください。

松岡
そうですね。それともう一つ、僕は今、近江に可能性を感じていて、近江ARS(Another Real Style)というプロジェクトに総合監修として関わっています。近江から世界に通用する「日本の新しい様式」を生み出そうという試みです。近江は縄文時代から続く歴史を誇る交通の要衝ですが、京都に対する小京都という位置づけに甘んじてきました。プロジェクトの中心である三井寺も、京の延暦寺と対立し、何度も焼き討ちに遭いながら再興されて今日まで続いてきた。僕自身も復活という意味も含めて、「別所」、あるいは「負」の側面を持ちたいというか、時代の主流からは一線を画したいという気持ちをどこかで持っているんですね。

山口
それは、日本の立ち位置にもつながるのではないでしょうか。

松岡
ああ、そうですね。内村鑑三が「ボーダーランド・ステイト」と呼んだけれど、日本はそれでいいんじゃないですか。

山口
事実上、東の極(はたて)の辺境にあるわけですし、最もクールに世界の中心を眺める立ち位置というのは財産だと思います。

松岡
そう考えると、最初の話に戻るけれど、世界のお手本ではなく「別様」であることが「日本という方法」なのかもしれないですね。「別様」とは英語でいうと「コンティンジェント(contingent)」ということです。偶有的なるものを重視するということです。

画像: リスクを踏むからこそ復活がある

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画像1: 「日本という方法」の可能性 「ボーダーランド・ステイト」というあり方
【その5】世界の「別様」としての日本

松岡 正剛(まつおか せいごう)
1944年京都市生まれ。早稲田大学仏文科出身。東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。1971年に伝説の雑誌『遊』を創刊。日本文化、経済文化、デザイン、文字文化、生命科学など多方面の研究成果を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。日本文化研究の第一人者として「日本という方法」を提唱し、私塾「連塾」を中心に独自の日本論を展開。一方、2000年にはウェブ上で「イシス編集学校」と壮大なブックナビゲーション「千夜千冊」をスタート。

著書に『知の編集術』(講談社現代新書)、『花鳥風月の科学』(中公文庫)、『日本流』(ちくま学芸文庫)、『日本という方法』(NHKブックス)、『多読術』(ちくまプリマー新書)、シリーズ「千夜千冊エディション」(角川ソフィア文庫)、共著に『日本問答』(田中優子、岩波新書)、『読む力』(佐藤優、中公新書ラクレ)ほか多数。

画像2: 「日本という方法」の可能性 「ボーダーランド・ステイト」というあり方
【その5】世界の「別様」としての日本

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。

著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

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