「第1回:サステナブルを自分ごとに」はこちら>
「第2回:気候危機下で私たちができること」
「第3回:イノベーションの敷居を下げるには?」はこちら>
「第4回:起業の原点となった志とは?」はこちら>
「第5回:サステナブル時代の人財開発戦略とは?」はこちら>
「第6回:サステナブル時代の人財育成のあり方とは?」はこちら>
「第7回:組織におけるイノベーションの仕組み」はこちら>
「第8回:社会課題を自分ごと化して創る未来」はこちら>
COP26の延期に疑問をもち、Mock COP26を開催
2020年コロナの影響で、ロンドン大学大学院を休学し一時帰国することにしました。
ちょうど同じ頃、毎年開催されてきたCOPが、コロナ禍で1年延期されることになりました。COPは世界各国の首相、大臣、NGO、NPO、そして企業が集まり、「これからの地球に何をしていけばいいのか、環境を守るためにどうすればいいのか?」を話し合うとても大切な会議です。
COP26が2020年から2021年に延期になったことに、世界中の若者たちが反応し、「気候変動は待ったなしの状況にある中で、本当にCOP26をやらなくていいの?」と私を含め8名の世界中の若者が立ち上がり「Mock COP26」という模擬版のCOPを開催することにしました。140カ国から環境専門の若者330名が集まり、本格的な18の提言を国連や各国のリーダーに提出したことで、国際的に注目されました。
Mock COPは2021年に開催されたCOP26に団体として正式に参加することになりました。そこで、18の提言の中で、一番力を入れている「気候変動教育の義務化」を推進し、世界中の若者が気候変動について学ぶ機会をつくるため、COP26会場で環境教育サミットを開催しました。イギリス政府、イタリア政府、ユネスコ、ユニセフのサポートのもと、日本を含む20カ国以上から署名をいただきました。
SDGsはウェディングケーキで理解する
最近、SDGsのバッジを着けている人をよく見かけます。意欲的にSDGsに取り組もうという気持ちは素敵だなと思いますが、SDGsには17個もゴールがあるため、わかりにくいですよね。じつは、SDGsはウェディングケーキ方式で考えると、とてもわかりやすいので紹介します。ウェディングケーキのベースとなっているのは「生態系」です。「生態系」のドーナツの上に「社会」のドーナツ、その上に「経済」のドーナツがあります。社会も経済も、生態系が安定していてはじめて、安定するわけです。病気になると、友達とも会えない、仕事もできないのと同じで、生態系が安定しないと、社会活動に問題が生じ、経済活動もままならなくなります。
ですから「SDGsのうち、11番と7番を選んでやっています」とマークを並べるだけでなく、事業が生態系をサポートできているか、それによって、社会や経済の安定につながることを、社内で話し合ってみてください。
温暖化が進めば東京23区も冠水する事態に
地球の温暖化が進み、産業革命前と比べて4℃気温が上昇すると、東京都内23区が冠水してしまうというデータがあります。また、海抜が1メートル上がると、日本の砂浜の9割が消失するとNHKクリエイティブ・ライブラリーでも紹介されています。
気候変動がすごく速いペースで進んでいますが、残念ながら日本人の気候変動への意識は低いんです。2015年から2021年にかけて、なんと8%も下がってしまいました。世界中が気候変動に高い関心を持っているのに、日本人の意欲だけが下がっています。先進国の中でリテラシーが唯一下がるなんて、おかしいと思います。気候変動はすべての人に関わっていることですから、リテラシーを高め「地球のことを自分ごと化する」流れをつくりたい。そういう思いで2021年1月に一般社団法人SWiTCHを設立しました。
私たちのコミットメントは、環境リテラシーの高いZ世代と大人世代との架け橋となり、地球環境にポジティブなアクションを促すことです。
なぜZ世代の環境リテラシーが高いかというと、小中学校でESD教育(持続可能な開発のための教育)を受けてきたからです。就活生の95.9%は「SDGs」の言葉も意味も知っており、経営者層よりもSDGsについての認知度が高いことがわかっています。Z世代の2.5人に1人が「企業がどのぐらい社会貢献しているか」「社員としてそこに参加できるか」など、社会貢献活動をしているかどうかに注目しています。
440万人のサステナブルアンバサダーで日本を変える
日本の中にサステナブルな波ができつつあります。その波をより大きくするタイミングは今だと感じています。サステナブルなムーブメントを起こすためどうすればいいか。ハーバード大学のエリカ・チェノウェスさんの論文によると、平和的な活動は暴力的な活動に比べて成功率が2倍で、活動に賛同する人の数がコミュニティの3.5%に達したとき、失敗したことがないそうです。
日本の人口の3.5%はおよそ440万人。この数字は結構大きいですよね。SWiTCHは、100万人のサステナブルアンバサダーを育成するという大阪・関西万博に向けたプロジェクトにチャレンジしています。100万人というのは440万人にたどり着くための通過ポイントです。環境問題について意識することが当たり前のアンバサダーを育成する流れをつくろうとしており、頭でっかちになって満足するのではなく、実践することが大切だと感じています。
さらに企業のサステナブル化を推進するためのプラットフォームとして、SWiTCH は別の活動もしています。Z世代との対話の場として、IKEAジャパンのCEO、駐日スウェーデン大使、ボルボジャパンCEOをお呼びしたり、ツイッターとパートナーシップを結び、サステナビリティを推進する社会貢献のグローバルキャンペーンも実施しています。
440万人のアンバサダー育成は、若者だけでは成し遂げられません。大人世代と一緒に未来をつくっていきたいと思っています。多くの企業から「サステナブルの課題ってこういうことかな?」「若者たちとどう協創すればいいのかわからないけれど一緒にやってみたい!」そういう声に応えていきたいと思っています。
私はサステナブル化は、本気になれば早いペースで実現できると思っています。ぜひ皆さんにもご参加いただきたいと思っています。(第3回へつづく)
佐座槙苗(さざ・まな)
一般社団法人SWiTCH 代表理事
1995年生まれ。カナダUBC卒業。ロンドン大学大学院 サステナブル・ディベロプメントコース在学中。2020年、COP26の延期を問題視した若者たちが設立した「Mock COP26」のグローバルコーディネーターに就任。140ヵ国の代表をまとめ、COP26と各国首相に18の政策提案を行い世界的な注目を浴びる。2021年1月、若者のアイデアや意見を大人世代がサポートし、循環型社会をつくるプラットフォーム「一般社団法人SWiTCH」を設立。代表理事として活躍。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。