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Z世代のリーダー2人と、企業における人財育成、事業開発のエキスパート三人によるシンポジウムは、組織においてどのように人財を育成すれば良いのか?その仕組みや、いかに個人が志を持ち、イノベーションを起こしていけば良いのかについて議論が行われた。社会における要請や課題、組織が持つアセットと、個人の志、この3つの交点にこそ、その鍵があることが確認された。

「第1回:サステナブルを自分ごとに」はこちら>
「第2回:気候危機下で私たちができること」はこちら>
「第3回:イノベーションの敷居を下げるには?」はこちら>
「第4回:起業の原点となった志とは?」はこちら>
「第5回:サステナブル時代の人財開発戦略とは?」はこちら>
「第6回:サステナブル時代の人財育成のあり方とは?」
「第7回:組織におけるイノベーションの仕組み」はこちら>
「第8回:社会課題を自分ごと化して創る未来」はこちら>

日立は創業時から学校をつくっていた

佐藤
ここからは人財育成の視点というテーマでディスカッションをしていきます。迫田さんから日立の人財育成について、お話しいただけますか。

迫田
日立製作所は1910年に創業し112年を迎えています。面白いのは、鉱山の修理工場としてスタートしたと同時に、徒弟養成所(現在の日立工業専修学校)を創立したこと。人がすべての起点というのが、最初からあった気がします。私どもには日立教育綱領(1959年制定)があります。ちょっと難しい言葉ですが、「誘掖(ゆうえき)」(力を貸して導くこと)と「自彊(じきょう)」(自ら努め励むこと)の精神を重視しています。これが我々の原点、人生の原点だと思っております。

先輩が後輩を、リーダーがリーダーを育てる、リスキリングにもつながるとこだと思います。佐座さん、山内さんの言葉にも何度か登場しましたが、私どもも「志を磨く」ところが一番大事ではないかと考えています。創業時から「自分たちが社会貢献するんだ」という思いを日立で勤務する人間は持っていると。

また、「パーパスドリブンリーダーシップ」をリーダー育成のキーにしていて、一皮むける体験をすることが大事だと思っています。研修でも「仕事を通じて成長することが基本」にしています。グローバルな経営リーダーの育成の仕組みでも「志を持って意図するリーダー」をつくるのが目的です。

画像: 日立製作所の人財育成の基本的な考え方が説明された。

日立製作所の人財育成の基本的な考え方が説明された。

佐藤
日立にも「志」や、「パーパスドリブンリーダーシップ」という言葉もありましたが、皆さんその辺り驚かれたところもありますか?

山内
大企業でも、志が大事なのは本質だと思います。日立さんも同様ということは、実体験としての自分のやり方は正しいんだなと「自分ごと化」できた感じです。

人財教育に「志の話」は欠かせない

佐藤
志だけでなく、いろいろな表現はあると思いますが、めざす共通点が少し見えたかもしれません。東浦さんには、人財育成という観点で、何かございますか。

東浦
当社は東急アカデミーという教育システムで各世代ごとに行っています。「志の話」は当たり前のように必ず出てきます。ただ、志という言葉ひとつでも、レベル感については考えなくてはいけないでしょう。志とパーパスがイコールなのかも同様です。

「社会のために」はもちろんあるんですが、あまりそちらに傾きすぎると、「ビジネスにする」には着地が難しくなるのではと思っていて、その折り合いが大事かなと。

画像: 株式会社東急の事業領域も広範囲に渡る。

株式会社東急の事業領域も広範囲に渡る。

佐藤
レベル感を整えるのは大切ですね。「自分ごと化」というキーワードに関して、森さんの経験について伺えますか?


組織では来年、あるいはこれからどうするかの戦略を考えて、リーダーの立場で皆さんに説明して理解を得ることが大切です。外的要因としてのリクワイアメント、こういう期待をされ、会社はこういう方向で、こういうアセットがあるとか。ビジネスの観点からも、当社が得意なことで解決したほうがいいわけです。

そして、計画を立てるときに「自分の原体験をうまく生かしてください」とお願いします。何かを自分ごとにする前に、自分で経験したことの中に「自分は居る」はずで、その自分の経験は嘘ではない。例えば困っている人を見たから何かをしたい、自分が何かをやったら困ったとか、経験に嘘がないものをベースにすると、皆さん強いんですよね。逆に言うと、マネジメント側は、それを引っ張り上げ、大きい戦略にして、リソースをあてるかが大事だと思っています。

私たちの社会はオーケストラを奏でるべき

佐藤
佐座さんは、そこに共感されることはありますか。

佐座
私は共通のゴールに向けて、個人個人が取り組むことが大切だと考えます。最近注目しているのは「コレクティブリーダーシップ」。皆さんご存知だと思いますが、自分たちが何をすべきか、グループの中の役割をしっかり認識していくことなんですね。

例えば、日立の社風があって、どんな音楽を奏でたいのかはある程度決まっていると思います。でもビジョンを共感して持っていなければ、同じ路線に乗りにくい。私たちの社会はある意味一つの音楽を奏でるオーケストラではないかなと。ピアノやヴァイオリンを弾く人、サクソフォーンを吹く人、役目は違いますが、こんな音楽を奏でたいよねと一つの音楽につなげていくことができるよう、ビジョンのもとで枠組みを用意するのが大切なのでは。

それに、企業の経営者層と話すと「環境をやらないといけないね」と共感してくださるんですが、(一般の)社員には「まだ自分ごと化してないんですよね」と言われることも多い。環境への取り組みがオプションのひとつでしかない。なぜなら自分と環境がどうつながっているか、自分の毎日にどう影響するのか「見える化」できていないからです。社会貢献や、自然環境の観点でのビジネスが難しいと考えている経営者の皆さんもロードマッピングを準備して、自然と共にある経営をしていただきたい。それが、私の個人的な願いです。

迫田
先ほどお伺いした「ウェディングケーキモデル」は、私どもの戦略とまったく一致しています。我々がめざす事業自体、環境が大前提で、その中で環境価値と社会価値をベースにビジネスをしなければいけない。なおかつ経済価値を上げることが我々の戦うフィールドだと宣言して経営者から発信し続けてもらっています。

さらに、プラネタリーバウンダリーと、ウェルビーイングの両立を自分たちのデジタル力、グリーン力でどうすべきかをコンセプトとして出して、日立の全従業員に対して、腹落ちするところまで持っていく。そこから部門の経営者は、自分達の部隊の中で「自分としてはこう考えるけど、みんなはどうだ」というところまで落とし込まないと、伝わっていきません。これは時間がかかる話ですし、本当に繰り返し丁寧にやっていくしかありません。(第7回へつづく)

協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)

「第7回:組織におけるイノベーションの仕組み」はこちら>

画像1: Z世代と語る!社会貢献をビジネスにするには?
【その6】サステナブル時代の人財育成のあり方とは?

東浦亮典(とううら・りょうすけ)
東急株式会社 常務執行役員(フューチャー・デザイン・ラボ、 沿線生活創造事業ユニット 管掌 沿線生活創造事業部長)
1985年、東京急行電鉄(現・東急)入社。 自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。 その後、東急総合研究所に出向し、復職後は、商業施設開発やコンセプト賃貸住宅ブランドの立ち上げなど、新規事業を担当。

画像2: Z世代と語る!社会貢献をビジネスにするには?
【その6】サステナブル時代の人財育成のあり方とは?

山内萌斗(やまうち・もえと)
株式会社Gab 代表取締役CEO 
2000年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中(22歳)
東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度、同プログラムシリコンバレー
研修選抜メンバー、MAKERS UNIVERSITY 5期生 水野雄介ゼミ代表。大学一年次の2月にシリコンバレーを訪れた際に、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意し、同年12月に「ポイ捨てをゼロにする。」ことをミッションに掲げ、株式会社Gabを創業。現在3期目。フォロワー3.9万人のInstagramアカウント「エシカルな暮らし」の運営や、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」を全国展開など、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」ことをミッションに掲げて複数の事業を展開中。

画像3: Z世代と語る!社会貢献をビジネスにするには?
【その6】サステナブル時代の人財育成のあり方とは?

佐座槙苗(さざ・まな)
一般社団法人SWiTCH 代表理事
1995年生まれ。カナダUBC卒業。ロンドン大学大学院 サステナブル・ディベロプメントコース在学中。2020年、COP26の延期を問題視した若者たちが設立した「Mock COP26」のグローバルコーディネーターに就任。140ヵ国の代表をまとめ、COP26と各国首相に18の政策提案を行い世界的な注目を浴びる。2021年1月、若者のアイデアや意見を大人世代がサポートし、循環型社会をつくるプラットフォーム「一般社団法人SWiTCH」を設立。代表理事として活躍。

画像4: Z世代と語る!社会貢献をビジネスにするには?
【その6】サステナブル時代の人財育成のあり方とは?

森正勝(もり・まさかつ)
株式会社日立製作所 イノベーション成長戦略本部副本部長
1994年京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、日立製作所入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取り纏めた後、2018年に日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長に就任。2020年より研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部(統括本部長 兼 東京社会イノベーション協創センタ長。2022年より現職。
博士(情報工学)

画像5: Z世代と語る!社会貢献をビジネスにするには?
【その6】サステナブル時代の人財育成のあり方とは?

迫田雷蔵(さこだ・らいぞう)
株式会社日立アカデミー 取締役社長 
1983年日立製作所入社。電力,デジタルメディア,情報部門の人事業務を担当後,2000年から本社にて処遇制度改革を推進。2005年米国駐在,Hitachi Data SystemsでHR部門Vice President(~2009年)。2012年本社グローバルタレントマネジメント部長,2014年中国・アジア人財本部長,2016年人事勤労本部長,2017年日立総合経営研修所取締役社長。2019年4月に日立アカデミーが設立され,初代社長に就任。

画像6: Z世代と語る!社会貢献をビジネスにするには?
【その6】サステナブル時代の人財育成のあり方とは?

佐藤雅彦(さとう・まさひこ)
株式会社日立製作所 Team Sunrise代表
NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部などを経て、現在、研究開発グルーブ 社会イノベーション協創センター主任研究員。2006年より社内ネットワーク活動「Team Sunrise」の代表を務める。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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